バトル・オブ・ドラグーン~異世界の飛行機乗りたちの日々~

立積 赤柱

この星はその昔……

 自分がなぜこんなことをするのか?

 エリナ=グラーフは最初、断ろうとしていた。

 記録映画の冒頭ナレーションなんて、自分の仕事ではない。

 それに自分の声にそんなに自信がなかった。

 だけれど、話題性のためにどうしても、と相手は引き下がってくれなかった。

(珍しがられているだけかもしれない)

 一七歳の少女が、競技ではなく仕事として飛行機を扱っているのが、珍しいのだろう。

 今思えば、いつも通信とかやってくれている相方のリジーが適任ではなかったのか?

 自分は、ただ飛行機を操縦しているだけだ。というか、それしか出来ない。

 しかし、それがいいと言われた。

 結局、押し切られる形となってしまった。


 そして、録音の当日はあっという間に来てしまった。


 小さな部屋に一人押し込められた。

 簡単な机と椅子。それにマイクが一本あるだけの部屋だ。片方の壁はガラス張りになっていて、関係者がこちらに注目している。

 その中に相方のリジーもいた。珍しく無邪気に笑って手を振っている。

 ランプか赤く光る。録音の開始の合図だ。

 原稿に目を落として、読み始める。


「この星はその昔、様々な種族が暮らしていました。

 魔術を使うホワイト・エリオン族。

 科学を使うグラウ・エルル族。

 陸を制するヒューリアン族。

 海を制するマーメリアン族。

 空を制するニーナ族。

 地底を制するドリーアン族。

 そのほか様々の種族が、数千年間、お互いに干渉することもなく、静かに暮らしを続けていました。

 でも……今から一〇〇〇年ほど昔、天からの『ソレ』によって、それが終わるときがやってきました。

『ペトローレウム』

 のちにそう呼ばれる彗星すいせいがこの星の重力に引き寄せられ、大気圏に突入すると、大小三つに砕け、赤道付近の海面へ落下しました。

 その彗星の落下によって静かだった世界は変わった、と記録されています。

 陸はうなり、海は荒れ、空は焼け、世界は絶望に包まれました。

 舞い上がったちりにより数十年にわたり太陽の光が届かなくなると、世界中で食料が取れなくなっていったのです。

 人々は食料を……豊かな土地を求めて、土地の奪い合いが始まりました。今まで干渉することのなかった種族間でも……。

 また、空を覆う塵によって、空を飛べなくなった翼人種ニーナ族。半水生人種マーメリアン族は生活の拠点であった赤道近海を彗星の欠片かけらの直撃を受け、二つの種族は伝説になってしまいました。

 ほかにも数々の種族が同じ道をたどったといいます。

 ここに来て、人々はようやく気がついたのです。

 この星に生きるもの同士が争っていては、いけないと……。

 いつしか争いを止めて、生き残りをかけて手を取り合うようになっていきました。

 ――だけど……。

 世界が平穏を取り戻したころ、新たな災難が世界を襲い始めました。

『ドラグーン』

 そう呼ばれる巨大生物が、星の落ちた場所から現れたのです。

 その生物は群れを成し、復興し始めた世界に襲いかかり、大地をくらい荒らしていきました。

 ――人々だって黙っているわけではありません。

 武器を取り、今日こんにちまでドラグーンと対抗していきました」


 原稿はここまでだ。

 最後に一言ほしいと言われていた。


 エリナは一呼吸置いて続ける。


「それから一〇〇〇年。私、エリナ=グラーフはこの世界で生きています。

 祖先のみなさま、ありがとうございました!」

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