11 帰宅 side和樹&歩

一方その頃。

歩と和樹も、それぞれの自宅に帰宅しているところだった。

和樹のマンションは大学から7分ほどのところにあり、そこまでは同じ道だ。


「どう?大学。やってけそう?」

「…あぁ」

「そっか、良かった!カズって人見知りだからさあ、ちょっと心配してたの!」

「中学や高校とは少し違うよ。ちゃんと自分から話はできるっての」

「えー、本当かなあ?」


初対面の相手でも話し掛け、ある程度のコミュニケーションが取れる歩とは対照的に、和樹は人見知りで慣れるまでに少し時間が掛かる。

佑や拓馬とのやり取りを見ていた限りでは大丈夫そうだと感じ、少し安心した歩だったが、帰り際にいつもより無口になってしまったのが引っかかっていた。

学食では直接は触れなかったが、それまでは和樹と話していた筈の佑が、途中から何か考え込むように黙ってしまっていたのも気付いていた。

恐らく和樹がそれを気にしているのだろうと予想はできたが、出逢ったばかりの今日の段階で色々と口出しができそうなことでも無さそうだったのだ。

歩は話題を変えたくて、キャンプの話を持ちかけてみる。


「編入してすぐに春のキャンプなんて、ビックリだよね」

「そうだな。宿泊はあんまり好きじゃないんだけどな。それはちょっと心配かも」

「またそんなこと言ってるの?大丈夫でしょ、今まで部活の合宿とかもしてきたんでしょ?」

「んー、そうなんだけどさ。まあでも、あいつらと同じ班なら楽しそうかな」


言葉ではそう言いはするが、少し寂しげに笑う和樹。

そんな表情は見たことがなくて、歩は戸惑ってしまう。

歩のそんな戸惑いには気付かないのか、今度は和樹の方から話を振ってきた。


「そういえば、今日は彼氏さんは?」

「あ、麟太郎さん?ふふ、今日はご飯行くんだー」

「そっか。楽しんで来いよ」

「うん」


和樹の穏やかな表情も優しい言葉も、普段通り変わらない。

それに、今日はレストランに行こうと誘ってくれた歩の彼ー麟太郎に会えるのも凄く嬉しい筈だった。

なのに胸がぎゅっと苦しくなって…何故か不安だけが残る。


「カズ…大、丈夫?」


恐る恐る声を掛けると、思った以上にその声は震えていた。

和樹は驚いた顔をして、ふっとまた笑う。


「どうした?大丈夫だよ。まぁちょっと…まだ自分からどう話したらいいのか分からないだけだから、心配はいらない」

「そう…じゃあ、行くね?また明日ね」

「あぁ。また明日な」


きっと明日は普段通りの和樹に戻っているだろう。

そう自分に言い聞かせ、歩は麟太郎の元へと向かう。

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