8 変化
「佑、飯いこーぜ飯!顔合わせも兼ねてさ!カズも行くだろ?」
「あ、うん」
「そうだな、行こう」
拓馬の声で佑が我に返ると、既に鞄を持った拓馬と歩が待っている。
佑と和樹は慌てて荷物を纏めると、それぞれ隣に並んだ。
「あれ、カズちょっと顔赤いけどどしたの?」
「…っ、煩い。何でもいいだろ、行くぞ」
「あーっ、また煩いって言った!!今日のカズひっどいんだから!」
そっぽを向き早足になる和樹をにやにやしながら見ている歩は、その広い背中に後ろから飛び付く。
そろそろその中学生並のテンション止めろよ、と言いながら、されるがままに肩を組まれている和樹。
きっと普段からそんな距離感なのであろう2人の姿を見て、ぎゅっと心臓が掴まれるような感覚と目眩に佑が目を閉じ立ち止まると、誰かに肩を掴まれた。
反射的にその手を払い除けると、歩に肩を組まれたままで心配そうに見下ろす和樹の顔がある。
「どうした?大丈夫か?」
「や、何でも、ない。手払ってごめん」
「いや、いいんだ。行こうか」
肩を組む2人を直視できなかった。
触られた感触の残る肩も、払った手の甲も、変に熱を持っているように感じる。
動悸が激しくなり、背を向けた和樹に悟られないように、思わず左胸を押さえた。
「佑」
「心配しないで。まだ、大丈夫」
「俺が先に2人を案内するから、後ろからついてきな。無理すんなよ」
「うん、ありがと」
心配そうな拓馬が周りに気付かれないくらいの大きさで声を掛けてくるが、首を振って大丈夫だと伝える。
動悸が治まるまでには暫く時間が掛かりそうだが、今日初めて出会った2人に、初日から心配をかける訳にはいかない。
学食へ向かうために校内を案内する拓馬に歩と和樹が続いて行く。
佑は数歩後ろからついて行きながら、動悸が落ち着くのを待っていた。
「カズ?どうしたの?」
「あー…いや、何でもない」
下から不思議そうな顔をした歩に見上げられながら、和樹はどう話したものかと迷っていた。
和樹は講義室を出る直前、佑の様子がおかしくなっていたことに気付いていた。
胸を押さえて苦しそうに目を閉じていた佑。
声を掛けようと肩に触れると一瞬で振り払われてしまったことと、振り払った本人が酷く傷ついた顔をしていたのは少し気にかかる。
講義室で2人でいた時には楽しそうに話していたのに、学食に移動する時は一歩後ろから距離を置いて着いて来ていたし、注文してからもしばらくじっと黙っている。
体調でも悪いのだろうか…班のメンバーで居る事が嫌な訳では無いと思いたいが、それ以外には思い当たることも無く、どう話しかけたものだろうかと考えを巡らせていた。
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