第20話
リンがきょとんとしている。何度か半澤と俺を交互に見た後、首を傾げた。
「何してるの?」
俺はハナミズキを指差す。
「花見てたんだよ」
「へぇ? ハナミズキ?」
「うん」
リンが花を見て呟くのに半澤が頷く。リンは白い花を見ながら、綺麗ね、と口にした。
「いやしかし、学校に来てみれば、花壇にみーくんの自転車放置してあるし、しかも鍵ついたままだし、何事かと思ったわ」
はい、鍵、とリンがじゃらんと手を出した。自転車置き場に運んどいたよ、とのこと。さんきゅ、と受け取る。
「そういえば、みーくんの自転車から変な音してたけど故障?」
訊かれて、俺は言葉に詰まる。
「……パンクだよ」
吐き捨てるように答えると、途端にリンは噴き出した。
「ってことはみーくんまた転んだの! くっはははっ!」
「わ・ら・う・な!」
「ご、ごめん……ぷくくっ」
俺の主張を聞く気がないのかしばらくリンは笑いこける。
「ところで、何の話してたの?」
しばらくして、ようやく笑いを収めたリンがそんなことを問いかけてきた。
「ん、ああ、大型連休の話? だったか」
「あ、今度の日曜の話、忘れてないでしょうね?」
「覚えてるよ。花畑だろ」
俺がリンに答えると、半澤が得心したように頷く。
「さっき言ってた日曜の予定って、園崎さんとだったんだ」
「ああ。まあな」
「ふっふふー、デートなのよ、デート!」
自慢げに胸を張るリンに半澤が困ったような笑みを浮かべる。俺は苦虫を噛み潰しながら告げた。
「俺にそんなつもりはないぞ」
「えー?」
「仲良いんだね」
他意はないのだろうが、半澤がそんなことを言うと、リンがそうよー! と見せつけるようにすり寄ってくる。
別に、俺にとってリンはただの幼なじみでそれ以上ではない。腐れ縁で若干鬱陶しい、というのは、リンの名誉のために言わないでおこう。
「って、何それ! 酷い」
「ん?」
「みーくん、心の声だだ漏れ」
まじか。まあでも事実なので気にしないことにしよう。
「みーくん、酷い」
「園崎さんと海道くんみたいなのを"気の置けない仲"っていうんだね」
半澤は妙に感心していた。
「羨ましいなあ」
「……羨ましい?」
半澤の一言にリンが優しく問い返す。半澤は深く頷いた。
「僕にはそういう人、いないから」
そう言った半澤は寂しそうに笑っていた。
それにリンは悪戯っぽい笑みで返す。
「だからって、みーくんとっちゃだめよ?」
「うん、気をつける」
おいおい、会話が成り立ってしまっているよ。
リンも半澤の素直すぎる返答にきょとんとした。一拍置いて声を上げて笑い出す。
「さわくんって面白いのね。ねぇ、私とも友達になってよ」
「本当?」
半澤が目を輝かせる。リンはにこやかに頷いた。手を差し出す。半澤はおずおずとその手を握った。若干顔に緊張が滲んでいるのがちょっと面白かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます