第19話 両軍激突

   メイタイ軍がザボギアを包囲し始めた頃、エーデルシュタインは兵士たちに指示を飛ばすと、ディートリヒのいる城に向かった。そこでエーデルシュタインが

「ここにザボギアの市民全員入るか?」とディートリヒに聞いた。それにディートリヒは

「全員は厳しいが8割は入ると思う。だがなぜだ?」と聞くとエーデルシュタインは

「なに心配するな、ザボギア市民を巻き込まないためだ。」と答えた。そして

「じゃあ市民に城に集まるように指示しろ。入らなかった奴は城の近辺に固めろ。」と言った。それを聞いたディートリヒが

「待て、まず作戦を聞かせよ。まだ我はおぬしを信用していない。」と鋭い眼光で言った。するとエーデルシュタインが面倒くさそうに

「市民は巻き込まんが、街は利用させてもらう。敵を都市に入れてから、俺たちエーデルシュタインお得意のゲリラ戦術で敵を潰す。」と答えた。ディートリヒが

「わかった。だが絶対に民には被害を出すな。」と言うとエーデルシュタインが

「わかったってうっせえな。最初からそのつもりだ。」と言い城を出て行った。

 その後、兵士たちを町に潜伏させ、エーデルシュタイン出身部隊の白金隊から50人を城門に潜伏させた。そして城門を閉めた音を合図に攻撃を開始したのだった。


   城門の敵兵に攻撃を受けたハーマンは

「町に逃げるしかないか。」とつぶやくと周りに兵士に

「わしについて来い。」と言い町の中に駆けていった。

 この時も敵兵の襲撃が続いており、ハーマン軍の被害は増す一方で士気も下がり始めていた。


   エーデルシュタインは城の近くに潜伏しており、そこに副将のエルバートが状況の報告をする。

「おじき、俺たちの攻撃がよく効いてるようだぜ。敵将っぽいやつも城門から町にいどうしたしよ。」これを聞いたエーデルシュタインは

「あたりめえよ。敵がどこから襲ってくるかわからねえ場所で、敵兵は判断が鈍る。このやり方で何度クリスタ軍を撃退してきたか。」と笑い飛ばした。

「おじきの代は戦ってねえけどな。」とエルバートが笑うとエーデルシュタインが

「うるせえよ。んじゃそろそろ俺も出るか。エルバートついて来い、ひと暴れするぞ。」と言い2人で町に走っていった。


   ハーマンは町の中に入っていき、直属の重装騎兵を5人ずつに分けて町を走り回った。

 町ではまだ敵軍の襲撃が続いており、軽装騎兵だけでなく重装騎兵でさえ手も足も出なかった。兵士は必死に味方を探して合流しようと走り回るが、常に気を張っていないと敵が飛び出してきて殺される。この最悪の状況で兵士は恐怖で正常な判断ができなくなってくる。

 だがハーマン直属の部隊がこの流れを変えようとしていた。この部隊の兵士は精鋭ぞろいで、敵兵が飛び出してくると咄嗟に反応して敵を槍で貫いた。それを見た兵士たちも少しずつ士気を取り戻していった。


   エーデルシュタインがエルバートと共に奇襲に加わっていると、明らかに動きの違う敵兵を倒した。そしてエーデルシュタインが

「エルバート、今のが敵の精鋭か?」と聞くとエルバート

「多分そうだろ。動きが違った。」と答えた。するとエーデルシュタインが

「だいぶ殺したし、そろそろやるか。」と言い、エルバートと共に兵士を集めながら城門に向かった。

 そして城門前に着いて槍衾を作ると

「門を開けろ!」と叫び、ごうっという音とともに門が開き始めた。

 敵軍もそれに気づいて集まり始めた。


   すると敵軍から声が聞こえた。

「我こそはハーマン軍大将、ハーマンである!そなたらの大将はいずこか!」これに対しエーデルシュタインが兵の前に出て

「俺がこの軍の将軍、エーデルシュタインだ。」と名乗った。そしてハーマンが

「一騎討を望む!」と叫んだ。それにエーデルシュタインが

「ほう、その一騎討に何を望む?」と聞いた。ハーマンは

「わしが勝てばわしの兵たちを逃がしてやってほしい。おぬしが勝ったら全軍投降する。」と答えた。するとエーデルシュタインが

「なるほどな。」と言うとハーマンが

「受けられよ!」と叫ぶとエーデルシュタインが

「断る!」と答え、ニヤッと笑った。そして

「門は開けてやったんだ。逃げてえなら逃げろよ。まあそれ以外選択肢はねえがな。」と言うと町の通路に、エーデルシュタイン軍の兵士がそれぞれ槍衾を作った。 

 これを見てハーマンは

「貴様!正々堂々と戦う気はないのか!」と怒鳴った。

 根っからの武人であったハーマンは、姑息な戦術を嫌っていた。戦いでは正々堂々と戦って勝負を決めることにこだわりがあった。一方エーデルシュタインの戦術は姑息でしかなかった。そのうえ一騎討も拒否され、ハーマンの怒りは頂点に達した。

 だが、やはり長年将を務めただけあって冷静な判断はできた。

 ハーマンは敵に聞こえるような大声で

「これはわしからの最後の号令になるだろう。重装騎兵、前に出ろ。軽装騎兵は後ろから重装騎兵の援護射撃、矢が尽きたら敵に突撃せよ。」と指示を出し、さらに大きな声で

「覚悟はいいか!全軍、突撃!」と叫び、自分を先頭に城門に向かって突撃を開始した。

 エーデルシュタインは

「全員踏ん張れ!皆殺しだ!」と号令すると槍衾に加わった。


   ついにハーマン軍とエーデルシュタインがぶつかる。ぶつかった瞬間、エーデルシュタイン軍はかなり押し込まれ、城門の通路で何とか耐えた。通路に入らなかった歩兵は側面から敵を挟撃した。そこに敵軽装騎兵が弓を構えると、後ろにいた歩兵が襲い掛かり、乱戦となった。

 エーデルシュタインは通路に押し込まれた中央で兵士と共に踏ん張り、敵騎兵の勢いがなくなると

「お前ら、暴れろ!」と叫び、こちらも乱戦となった。

 エーデルシュタインはやはり強く、薙刀を振り回して次々と敵を倒していく。ハーマンはその動きを止めようとエーデルシュタインのほうに向かっていき、一撃を加えた。それをエーデルシュタインは受け止めるが、エーデルシュタイン軍が徐々に押され始め、最後尾の兵は門の外にまで押された。 

 その時、エーデルシュタインが

「今だやれ!」と叫んだ。

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