黒狼

防人

第1話 軍の増強

   共暦(ガルダニア大陸共通の暦)527年、ガルダニア大陸には9つの国家が存在していた。ガルダニア大陸は北はザンバル半島、南はオルタジオ半島からなる大陸であり、半島と半島は北東でつながっているだけで、半島の間は長細い海で隔たれている。

 元々オルタジオ半島には現在よりも多くの国が存在していたが、現在のガルドがそのほとんどを併合し、大陸の覇権を握った。そして現在その大国ガルドにて反乱の兆しが見え始めていた。他の国王たちは、ガルド国内が揺れている今こそ大陸統一を成し遂げられる好機とみて戦争の準備を整えていた。


   ザンバル半島の最南西に位置するクリスタでも戦力増強に力を入れていた。現クリスタ国王であるゲミュートが5年前に国王に即位すると、クリスタに常備軍を作った。この世界においてこれは先進的な試みであった。

 今までは国同士が戦争になった際は、傭兵や一般人から徴兵して戦うのが常識であった。だがゲミュートは常備軍を作ることによって、職業軍人を作り軍の練度を格上げした。

 現在のクリスタ軍にはブリッツ、アンファング、キューンハイト3人の将軍がいる。3人とも前国王時代から戦い続けてきた猛将である。ブリッツは近衛兵団長兼兵学校教官であり、アンファング、キューンハイトはそれぞれ軍を率いている。


   そしてこの日クリスタ中に特殊な兵士の募集がかけられた。その内容とは、クリスタ軍にもう1つ部隊を作りたいため将軍または参謀となる人間を募集するという内容だった。兵学校に入らずにいきなり将軍と言うのは異例中の異例であった。もちろんこの募集に国民は飛びついた。それもそのはずで、兵学校に入らずともいきなり将軍になれたら大出世である。

 試験期日その募集を見た人々が試験に押し寄せた。そして試験内容がその日初めて発表された。その内容とは、将軍志望の者はブリッツ、アンファング、キューンハイトの3人と立ち合い、全員に合格判定を貰う。参謀志望の者は、クリスタ軍参謀のオルドヌング、クライネ、ツァイトの1人と机上演習で合格判定を貰った上で、参謀長であるトラオムと机上演習を行い最終合格判定を貰うというものであった。やはりいきなり参謀や将軍になれるとだけあって試験合格は困難を極めるものだった。この日、応募者は1000人いたが、試験内容を聞いてあきらめたのが800人、200人のうち試験合格者は8人のみであった。


   翌日、試験に合格した8人が王宮に呼ばれた。そこで8人はゲミュートの前に跪こうとすると

「あまりかしこまらず、楽にしてくれ。」とゲミュートが言うと8人はその場で立ったまま話を聞いた。

「まさか8人も合格するものが出るとはな、やはり逸材は隠れているもんだな。」とゲミュートが笑うと

「今回このような異例な募集をかけたのには理由がある。私はこの国に新しい軍を編成しようと考えていた。それもただ単に増やすわけではなくクリスタ最強の軍を作りたいと思った。そこで今回は国民の中から才ある者を選び試験の合格者全員を1つの軍に集めることにした。もちろんブリッツ、アンファング、キューンハイトの軍も強力な軍であるが、どうせ軍をもう1つ増やすなら国民の可能性に賭けてみようと思ったんだ。」と話した。そしてゲミュートは真剣な顔に戻り

「アドルフを将軍に任命し、新たな軍の大将をアドルフに任ずる。そして参謀試験の唯一の合格者ヴァイスハイトには、アドルフ軍参謀とクリスタ軍参謀を兼任してもらう。他の6人にはアドルフ軍に入ってもらう。みなには期待している。どうか国のために尽くしてくれ。」と新たな軍の編成を宣言した。これに8人は頭を下げ、王宮を出て行った。


   2万人を預けられたアドルフ軍はこれから訓練期間に入る。アドルフ軍は首都セレウスの外で訓練をすることにした。だが、急に軍の将軍になったアドルフたちをよく思わない兵が多かった。このことはゲミュート含め全員が予想していたが、ゲミュートはアドルフ軍の中で解決するように言っていた。早速アドルフが全員を並ばせて

「俺はアドルフ、これからこの軍を指揮する大将だ。そして参謀ヴァイスハイト、隊長ノア、ファルケ、ナハト、リッター、ハルトリーゲル、レッフェルン。これから俺たちがこの軍を引っ張っていくことになる。よろしく頼む。」と紹介をしたが、やはり兵士たちは不満そうな顔をしていた。そこでアドルフが

「みんなの不満もわかる。前まで軍人でもなんでもなかったやつがいきなり将軍で自分たちの大将になったんだからな。とりあえず俺たちが試験に合格した証拠を見せるために、軍の中から強いやつ千人そろえてくれ。」と言うと兵士たちは話し合い、言われた通り千人そろえた。するとアドルフが

「よし、じゃあこの千人をヴァイスハイトを抜いた俺たち7人で相手しよう。他の兵は証明人だ。みんなもできるよな?」と言い出した。隊長たちは頷くと兵士たちは

「なめやがって。」

「俺たちは常備軍だぞ。」など言いながら訓練用の武器を手に取った。そして隊長達もそれぞれ訓練用の武器を手に取った。そしてヴァイスハイトの開始の合図で訓練が始まった。


   始まったから1時間ほどが経った頃、千人の兵士は敗北した。これには他の兵士たちも驚き、中には恐怖を感じるもいた。するとアドルフが

「この軍は精鋭を集めたと聞いてはいたが、やっぱりみんな強いな。まあとりあえずこれからよろしくな。」と言いその日の訓練は終わりにして解散した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る