ブラックギャング

カルフォルニア州ロサンゼルス


 USA(アメリカ)が物理的に分断され、挙句の果てには民衆と政治家との間にも深い亀裂が生まれた。


 今やUSA国内は打倒ハルデン政権であり、さらに言えばMEXを敵視する声も多くある。


 その影の中に俺達がいるとは知らず、マスメディアの情報に踊らされた人々は日夜デモを執り行って騒ぎ立てているのだ。


 ニュースを聞く限りでは、ホワイトハウス前に凄まじい数の人々が押し寄せちょっとしたクーデターのようになっている。


 治安もさらに悪化し、物流が止まって大打撃。空を飛ぶ手段を持つ人々がいるから今は何とかなっているが、それでも経済的な損失は計り知れない。


 いやーUSAは怖いなー。MEXの麻薬カルテルやら何やら出てきてびっくりだよー(白目)


 タイミングと場所的にどう考えても俺がやらかしているのだが、世界が麻薬カルテルが犯人と言えば麻薬カルテルが犯人なのだ。


 かつて俺がテロリストとして祭り上げられた気分を、エルデンの連中も味わってくれているだろう。


 やったね。難易度イージーからハードに変更だ。ようこそ俺と同じ世界へ。


 そんな訳で、俺達は今カルフォルニア州ロサンゼルスにやってきている。


 たとえUSAが冷戦期のDEU(ドイツ)のように東西に分断されようが世界は回る。


 多くの人々にとって国のあり方よりも今日の生活の方が重要であり、欲望渦巻くこの街は被害から大きく離れていることもあってそれなりに賑わっていた。


「自分たちの国が真っ二つに割れたと言うのに、平和なもんだな。カルフォルニア州も運がいい。縦じゃなくて横に割れていたら、ここら辺の近くも全部今頃奈落の底だったってのにな」

「国の事情より自分の懐だよジルハード。世界がどうなろうが、自分さえ生きていれば後はどうでもいいってのが人と言う言うものなんだ。かく言う俺も、自分とその組織が無事ならほかはどうでもいいしな」

「お陰でボスは2回目のダンジョンテロを引き起こしたという訳か?あのアドルフ・ヒトラーちょび髭ですら、もう少し慈悲のある殺し方をしてくれるだろうよ。ユダヤ人ですら慈悲を求める」

「ホロコーストよりはマシだろ。目の前に銃を突きつけられてぶっ殺されたり、核実験の被検体にされるよりかはな。知ってるか?核の被害範囲を調べるために、奴らは拘束したユダヤ人を配置して被爆させたんだぜ?生き残ったら解放してやるってな。で、神の御加護によって生かされたヤツらは、口封じの為に銃殺だ。それよか慈悲深いと思うけどね。と言うか、そもそも俺はやってない」

「よく言うぜ。全ての罪を麻薬カルテルに押付けただけのくせに」


 相変わらず部下の勘違いが激しいが、今回は正直俺がやった可能性が高いので強くは言えない。


 多分、ピギーが原因じゃないかな?


 ほら、ピギーってその気になれば世界を壊せるし、ちょっとお茶目なところが出てしまったのだろう。


 間違っても日本国内でピギーを鳴かせるのは辞めておこう。会話程度ならば大丈夫だとは思うが、本気で鳴いたピギーは国を滅ぼしかねないのだ。


 何度も言うが、これで封印状態って1種のバグだろ。どないなっとんねん。ピギーの力は。


 格が違うとか、そういう次元の話では無い。流石は3度世界を滅ぼした存在である。


 むしろ、よく3回だけですんだなと最近は思ってしまう程だ。


 そして、よく俺に懐いたな。半歩間違えたら俺はあの世行きだったんだぞ。


「あぁ、着いてしまった。着いてしまいましたァ........ねぇ、ボス。やっぱり会うのやめません?私の親はそんな面白い人じゃないですよ」

「いつまで、ごねてんだミルラは。普段のクールな感じはどこへ行ったんだ?」

「だって!!だってぇ!!私、親に何も言わずに家を飛び出したダメ娘ですよ?!両親は普通の人でしたし、私、特に恨みとかないし!!いやぁぁぁぁぁ!!会いたくないよ!!ボス、なんでも言う事を聞くので本当に勘弁してください!!なんなら、私の純血も差し上げます!!」

「要らねぇよ馬鹿。そう言うのは本当にあげたい人のために大事にとっておきなさい。おい、レミヤ、この馬鹿を何とかしてくれ」

「無理ですよ主人マスター。いい歳した大人のあやしかたなんて知りませんし、何より普段見られないミルラが見れて楽しいじゃないですか。ちなみに、今録画しているのでこの旅行が終わったら皆さんで鑑賞会でもしましょう。きっと楽しいですよ」


 余程親に会いたくないのか頭を抱えながらとんでもないことを口走るミルラと、それを見て面白がるレミヤ。


 どんだけ親と顔を合わせたくないんだよ。ここまで来ると、逆にどんなご両親なのか知りたくなってくるな。


「ミルラがまるで駄々をこねる子供のようだな。おもちゃを買って貰えなかった子供が、地面に寝転がって暴れているかのようだ。ちょっと面白いぞ。レミヤ、私の携帯に後で動画を送っておいてくれ」

「アリカちゃんも中々いい趣味してるわよねん。あ、私もよろしくお願いするわん。こんなミルラちゃんを見られるのはかなり貴重よん」

「レイズにも送っておくか。色々と任せちまって寂しい思いでもさせているだろうしな。おーいミルラ。そのまま泣き続けると、記憶から消し去りたい思い出がたくさん残るぞー」

「ボスが、ボスが部下をいじめてきます!!ジルハードさん!!何か言ってくださいよ!!」

「諦めろ。それが神が定めた運命だ。俺達によってボスはイエス・キリストよりも尊きお方だぜ?むしろ、神に値する人を楽しませていることに喜ばねぇとな」

「このテロリストのどこがイエス・キリストなんですか?!聖書なんてないでしょうに!!」

「それはそう」


 本当にミルラは面白いな。普段は護衛役として頑張ってくれているのに、今は完全ないじられ役だ。


 でも、楽しいからやめないよ。それに、親がいて関係も良好だったのであれば顔を見せてやるのは子供の義務だ。


 世の中には、親の顔を知らないやつだっているし、会いたくても会えないやつもいるんだからな。


 中には親がクズすぎて自分の手で始末をつけるやつもいるのだがら、ミルラはまだ幸せ者だよ。


 同じ立場に立ちたいとは天地がひっくりかえっても思わないが。


 ダークヒーローに憧れて家でした挙句、川に沈められそうになったところを助けられて傭兵になり、その後無実の罪を着せられて裏社会へと逃げて今やマフィアの一員として世界で暴れているなんて知ったら、親は泡吹いて倒れそうだな。


 いやまぁ、異世界に飛ばされて三日目にして全世界にテロリストとして指名手配された挙句、なんやかんやあってマフィアになって懸賞金三億とかかけられているやつよりはましに思えるが。


 今の俺の現状を両親に伝えたら困惑しそう........いや、家の親の場合は腹を抱えながら大爆笑するな。


 人の不幸は蜜の味とか言い切るような人だし。なんであの二人は結婚したのか今でも謎である。


「それにしてもロスは賑やかで眩しいな。ギャングとかいるのか?」

「全然いるし、なんならUSA国内でもギャングの数がいちばん多いとまで言われているぞ。流石にカジノ街では騒ぎを起こすことは無いらしいがな。カジノのケツ持ちに殺されかねん」

「今回は観光だけだし、大人しくしてようか。あ、ディズニーのチケットって取れるかな?リィズが行きたがってたし」

「アリカも行きたがってたな。ウチの癒し枠ちゃんのために、ちょいと頑張るか。ボスら変装しろよ。絶対にバレる」


 こうして、俺達のカルフォルニア州観光が始まるのであった。


 腹黒ネズミを見て楽しいもんなのかね?あーでも、クソデカパークは見てみたいかも。ちょっと楽しみだ。




【西ドイツ・東ドイツ】

 正確にはドイツ連邦連邦共和国(西ドイツ)とドイツ民主共和国(東ドイツ)。第二次世界大戦後に分割され、ソ連と連邦国によって建国。アメリカとソ連を比較する冷戦期を代表するような国家となった。

 その後、1990年に西ドイツによって吸収される形で東ドイツが消滅するのだが、1970年代に第1次ダンジョン戦争が始まってしまったこの世界ではベルリンの壁が崩壊する前に魔物達が壁を壊してドイツを併合。

 ある意味、魔物はドイツを建国しているのである。




 グレイ達をUSAに招待したジョージ・ハルデンは頭を抱えていた。


 その原因はあまりにも多すぎてどれかひとつに絞る事は出来ない。


 招待したグレイ達は失踪しCIAの目から逃れながらミシシッピ州で騒ぎを起こし、その後再び姿を消す。


 その際の置き土産の爆弾の威力は凄まじく、あっという間に政府と国民との間に亀裂が入った。


 これだけならば、まだ対応できる範囲ではあった。


 政府の汚職は日常茶飯事。それが民衆にバレてしまったからと言ってもデモが起きる程度で、USAからすれば割と日常である。


 が、しかしである。


 その後に起きたUSA分断事件。


 原因は未だ解明中だが、広大な土地が真っ二つに切り離されたのだ。


 しかも、その犯人とされているのがMEXの麻薬カルテルでありそのカルテルはアルトニーのことを疎ましく思っていた与党政治家と野党政治家の複数名と繋がってたことが暴露されれば、デモどころの騒ぎではない。


 連日ホワイトハウスには多くに市民が押し寄せ、それを軍が足止めをしてくれてはいるものの軍からも政府への批判は出ている。


 民主主義の中で1種のクーデターが起こりつつあった。


「あのテロリスト共を利用しようとしたのが間違いだったのか........?奴らはテキサス州での目撃情報があったはず。CIAも動かして探させたが、一体どうやって我々の目を欺いているのだ。物理的な大きな溝が生まれたことによって、捜索は困難となるし経済気も大きな打撃が入っている。インフラ設備が破壊され、今となっては何もかもが滅茶苦茶だ!!」


 ハルデンは、今回のテロ事件においても実はグレイが1枚噛んでいるのではないかと考えている。


 マルセイユで初のダンジョンテロを引き起こした張本人であり、おそらくグレイはダンジョンのことを知り尽くしている。


 もしかしたら、その手法を使ってUSAを物理的に分断してしまったのでは?と考えているのだ。


 実際は、偶然による事故なのだが、グレイの実績を考えるとそう考えてしまっても仕方がなかった。


 これを機に攻撃を仕掛けてくる野党と、与党はもうダメだと割り切って最低限の保身に走る議員達。


 今やUSAの政府は首が回らず国としての機能が停止しつつある。


 軍事力だけはあるので攻め込まれることは無いが、それも時間の問題だろう。


 時が過ぎればUSAは弱体化し、北アメリカの覇権を狙うものたちが戦争を仕掛ける可能性だって十二分に有り得る。


 となると、今はまず国の回復と民衆の怒りの矛先を変えさせなければならない。


 そして、その相手はグレイでは無くカルテルの連中にするべきである。


 何故ならば、グレイ達に矛先を向けさせた瞬間に国がどうなるのか分かったものでは無いからだ。


「MEXを敵国とさせるしかない。敵を作れば人々は団結する。まさか、これを狙って........?」


 様々な憶測が頭の中を過ぎるが、結局結論は出ない。


 それもそのはず。そもそもグレイは別に目的を持って騒ぎを起こしている訳では無いのだ。部下の勘違いと偶然により、神出鬼没の策略となってしまっているだけ。


 何も考えてない者の考えなど、分かるはずもない。


 が、戦争の火種は生まれてしまった。あとは、そこにマッチの火を落とすだけだ。

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