アメリカ分断
MEX(メキシコ)の麻薬カルテルが潜伏している野良ダンジョンにやってきた俺達は、久々の洞窟に興奮するナーちゃんを可愛がりながら奥へ奥へと進んでいた。
おそらくカルテルの連中が魔物を始末してくれているのか、全く魔物が見えない。
適当に歩いていれば魔物と出会うのがダンジョンなのだが、このダンジョンはそういう訳ではなかった。
進む分には楽でいいんだけどね。何故か一本道だし、困ることは無い。
そうして歩き続ける事数十分。そろそろ終わらないかなーと思っていると、大きな広間が見えてくる。
所々に焚き火の火が見えるし、ここが奴らの拠点で間違いなさそうだ。
ボスの討伐をしていないことを考えると、ここは中ボスエリアなのかもしれないな。
「どうするボス?このままだとナーが暴れて終わるだけだぞ」
「いいじゃんそれでと言いたいところだが、ピギーが“自分も活躍したい”と言うからな。飼い主である俺はできる限りその要望を聞いてやらないと行けないんだよ。な?ピギー」
『ピギッ!!』
元気よく“任せろ!!”と吠えるピギー。
可愛ねぇ。お前も人外組として頑張りたいもんな。ちょっと子供所っぽいところがあるのが尚更可愛いよ。
最初の頃は慣れていてもかなり死を感じたが、最近は大分感覚が鈍ってきたのか何も感じなくなった。
俺、本格的に生物として必要な恐怖心がかけているかもしれん。
「おいおいまじかよ。あの邪神すらも怯える存在をこんな所で出すのか。アリカ、精神抵抗剤をくれ。じゃないと立つことすら出来ん」
「既に用意してある。サッサと服用しておくといいよ。ピギー、悪い奴ではないと分かってはいるんだがな。どうしても死の恐怖を本能的に感じて怖気付いてしまう。グレイお兄ちゃんとリーブヘルトお姉ちゃんはどうして平気なんだ?」
「「慣れ」」
「その一言で解決した苦労しないのよん。気功で身体をおおっても動けなくなるんだから、相当なものなのよん?」
「補助AIを切っておかないといけませんね。ピギーを見ると、意味不明な羅列の情報が大量に送り込まれてエラーを吐くんですよ。超高性能AIなんですよ?なんで情報を流し込むだけでダウンさせられるんですか?」
そんなの知らんよ。ピギーに聞け。
と言うか、ピギーってネットにも干渉できるんだな。その気になればこの状態のピギーでも世界を壊せそう。
何が凄いって、これで封印状態なんだからやばい。
さすがは世界を3度滅ぼした存在だ。未だに神話の文献なんかに乗っているかもと思って調べてはいるが、欠片も手がかりが出てこないだけはある。
「リィズ。始末は任せるぞ。俺もやるけど」
「久々にシューティングゲームでもやろうかなー。グレイちゃん、いい感じの銃持ってる?」
「趣味で買ったコルト・パイソンならあるぞ。弾薬付きで」
リィズが久々に銃を使うと言うので、俺は予備用兼趣味で持っていたリボルバー拳銃“コルト・パイソン”を取り出す。
ロマンを感じる武器って好きなんだよね。リボルバーは戦闘向きでは無いのだが、サブ武器としては優秀だし。
俺がリィズにコルト・パイソンを手渡し、弾丸も渡すとジルハードが顔を顰める。
ちなみに、ジルハードはリボルバーアンチだ。彼はロマンを求めない現実思考に生きる人間なのである。
「なんでそんなもん持ち歩いてんだよ」
「ロマンがあるだろ?リボルバーって
「ジャムってもそれ以上に大きな利点があるから、ピストルが使われるんだろ?リボルバーは現実味がない」
「馬鹿言え。だからいいんだろうが。ロマンは求めてなんぼだぜ!!」
俺はそう言うと、ピギーを召喚し嘆かせる。
「ピギェェェェェェェェェェ!!」
世界の全て死を錯覚させ、世界そのものを滅ぼす絶叫は凄まじく。その場にいた歴戦の仲間達はリィズを残して全員膝を着いた。
そして、広間に顔を出すとカルテルの連中も誰一人として動けない。
あの英雄王ですら耐えることで精一杯だったのだ。その中で自由自在に歩けるやつなど、この世界に片手で数える程しか存在しないだろう。
「シューティングゲーム!!クズの頭を撃ち抜こう!!」
「俺もやるか」
パンパンパン!!と小気味よくリボルバーの引き金を引くリィズ。
さて俺も打つかと思い、愛銃の魔弾拳銃の引き金を引きかけたところで俺は気づいた。
あ、この弾丸魔力の塊だからピギーの力で掻き消されるわ。
ピギーの力はあまりにも絶大すぎて、周囲の魔力エネルギーの殆どを消し飛ばす。
俺の能力やリィズのように完全な具現化をするならば話違うのだが、魔力系魔道士の攻撃や魔弾はかき消されてしまうらしい。
これは1度ピギーの力を試すために実験したので間違いない。
しまったな。これではシューティングゲームに参加出来ないや。
俺はそう思うと、リィズに全部任せることにする。
今度から予備の銃はもう一つもっておく事にするか。ちゃんと科学の力で作られた弾丸を使う銃を。
「殺せ殺せー。眉間に当てたら10点な。100点取れたらリィズのお願い事でも聞いてあげるよ」
「ほんと?!なら、真面目にやる!!」
こうして、麻薬カルテルテキサス支部は一言も発すること無く壊滅してしまうのであった。
この時、USAではとんでもない事態が巻き起こっているとも知らず。
【コルト・パイソン】
1955年にアメリカのコルト社が開発した回転式拳銃である。当時のコルト社の副社長、フィリップ・シュワルツが命名したパイソンの名称は英語でニシキヘビを意味する。コブラ、キングコブラ、ダイアモンドバック、アナコンダと並び、商品名に蛇の名前を冠するシリーズの1つである。かっこいい。
麻薬カルテルが拠点としていたこのダンジョンには、
グレイ達は出会うことがなかったが、足のない半透明な誰もが想像する幽霊から、そもそも本当に姿すらも見ることが難しい個体まで様々な種類の幽霊が存在するのだ。
そして、彼らに共通するのは彼らは実態を持たない一種のエネルギーの集合体であると言うこと。
ゴースト系統の魔物と戦う場合、ハンターたちの多くは何らかの魔力を伴った攻撃手段を使う。
1番多く使われているのは身体強化だろう。体に魔力を纏わせることで、魔力によってゴーストのエネルギーに触れるのである。
さて、ここで一旦考えてみよう。
答えは簡単。
悲鳴を上げる間もなく死ぬのである。
「ん?なんだこれは」
その日、偶々USAの野良ダンジョンを監視していたとある職員のひとりは不自然な魔力派が計測されていることに気がついた。
しかも、その魔力派が考えられないほど縦長にそして長距離に続いていることが示されている。
彼は最初、機会の誤作動かと思ったが、次の瞬間自分のいる場所(ニューヨーク)が地響きを起こした事によってその考えは違ったのだと確信した。
「な、何が起きたんだ?!」
慌てて彼は衛生の映像を確認する。魔力の発生源の場所。そこは山に囲まれた野良ダンジョンがあるだけのはずだったのだが、その山が真っ二つに割れているではないか。
モーセが海を割ったかのように、山が割れている。
その痕跡を辿って、辿って、辿って、辿って、辿って、辿って、辿って、辿って行くと、彼はこの世界に滅びの時が来たのだと確信する。
その亀裂は、テキサス州からその真上に位置するノースダコタ州まで綺麗に真っ直ぐ伸びていたのだ。
主要な都市からは僅かにズレているため、人的被害はそれほど多くないだろう。
揺れによる建物倒壊はあるだろうが、それでも大都市に直撃するほどのものでは無い。
が、その亀裂の深さはあまりにも深い。
少なくとも、衛星からその深さを確認することは出来なかった。
「あぁ、神よ。我ら人間の傲慢さに遂に天罰を下すのですね........終わりだ........この世界はもう終わりだぁ........」
絶望に打ちひしがれる職員。
しかし、これは神の天罰ではない。
むしろ、神は人々を生かしたのだ。
ゴーストがエネルギーの集合体だということを知らず、ピギーによって消滅させられたダンジョンのボス。
それにより、ダンジョンは決められたシステムによってピギーの魔力をダンジョンの外へと排出し“ピギーがダンジョンをクリアした”と世界に知らしめようとした。
しかし、世界を三度滅ぼし、神からも存在が許されないと言われたピギーのエネルギーはあまりにも膨大で破壊的であったが為に、ダンジョンはそのエネルギーを排出せざるを得なかったのである。
ダンジョンのルール上、攻略者が外に出るまではダンジョンのゲートを開き続けなければならない為に。
積み重なった不運のエラーは破壊的な力を生み出し、テキサス州からノースダコタ州にかけて1つの大きな線を描いたのだ。
周囲一帯を吹き飛ばすのではなく、幅300メートル程の亀裂が入っただけだったのは最早奇跡としか言いようがない。
しかも、地球にそれほど害がないように破壊を齎したとなれば神の加護と言ってもおかしくないのである。
が、人々がその真実を知るはずもなく、ましてやその原因を引き起こした張本人が理由を知るわけもない。
そして、USA国内だけに被害が収まったのも奇跡である。
マルセイユのような爆発の仕方をすれば、少なくともダラスは全て飲み込まれまたしても多くの命が奪われたのだから。
今回は大都市は何とか破壊を免れたことを考えれば、被害はかなり少ないと言えるだろう。
それでも、死者は数十万人否、百万人近くにはなるだろうが。
更には、インフラの喪失に陸続きであったはずの道の崩壊はUSA経済に果てしない大打撃を与えることになるだろう。
USAから孤立した極寒の大地アラスカのように、かつて冷戦時代の象徴とされた東西のドイツのように。
USAは東西で分断されてしまったのである。
ましてや、今は国民によるデモが巻き起こっており、今回テキサス州で引き起こされたこの大規模な災害はMEXの麻薬カルテルのものだと陰謀論者が騒ぎ立てれば、さらなる混乱が巻き起こる。
物理的な分断と政府と民衆による分断。
USAからの介入をあまり快くは思っていなかったどこかの誰かにとって、この現状はチャンスとも言えるだろう。
この真実を知るものたちは、神々は彼が中心に世界は回ると言う。
神すらも想像ができない手荒な手段で世界に混沌を巻き起こすたった一人の男が、今後どう動くのかは本人にすら分からない。
後書き
アメリカ分断(物理)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます