ダークエルフ陥落
突如街の中で繰り広げられた
完全な奇襲を仕掛けた俺達に彼らは成す術もなく無力化され、あっという間に全てを殲滅してしまった。
ダークエルフの王カルマ王行きつけの店は血の匂いがこびり付き、街のど真ん中で暴れ回ってしまったが為に注目を集めてしまっている。
しかし、それでも優秀な仲間達はしっかりと戦果を残した。
100人以上のテロリスト共の大半は無力化され、俺は彼らが逃げられないようにせかせかとワイヤーを具現化させてはぐるぐる巻きにしていく。
組織のボスが1番地味で面倒な仕事をやっているとか面子はどうなんだ?とは思ってしまうものの、役立たずは役立たずなりの仕事を見つけて仕事をしていますよアピールをしなければならないのである。
世知辛い世の中だ。心做しかタバコの味が湿っている気がするね。
「グレイちゃん。終わったよ」
「お疲れ様リィズ。怪我は無いか?」
「ん?何回か切られたけど、私は頑丈だからねぇ。例え5.56mm弾で頭をぶち抜かれようが、ピンピンしているよ。大抵の傷は再生できるし」
そう言ってきれいな肌を見せてくるリィズ。
たしかに血の跡が幾つも残っているのが見えるが、その血がダークエルフの物なのかリィズのものなのかは俺には分からなかった。
と言うか、頭をぶち抜かれてもピンピンしているとか最早人の領域では無いな。
人体改造されているから人間では無いんだけども。
「ナイフをぶっ刺されたってのに、一切の鈍りもせずに暴れ回る姿にはビビったぜ。ちなみに、普通に強かったからな。タイマンならともかく、複数人相手なら俺は勝てないぐらいには強かったぞ。どこぞの爺さんと
「フォッフォッフォ。久々に少しだけ本気で刀を振るったわい。あまり本気でやりすぎるとこの建物ごと切ってしまうからのぉ。手加減の方が難しいとはよく行ったものじゃ」
「奇襲と閉所による場所の優位で私達の方が戦いやすかったわねん。相手に全力を出させる前に仕留める。流石はボスよん。そこまで考えてここで暴れることを選択したのねん」
いや、そもそも俺はこの店に
どうしてこんなにも勘が鋭く物事を冷静に判断できる人達なのに、俺への評価は問答無用で上にあげるのか。
これが分からない。
半年近くもこうして勘違いされ続けているので、粗方慣れてはしまったがこれは慣れていいものじゃない。
いつの日か、その仮面が剥がれて痛い目を見るに決まっている。
「街中にもこれほど多くのテロリストが眠っていると考えると、恐ろしくて夜も眠れないな。今度からグレイお兄ちゃんとリーズヘルトお姉ちゃんに一緒に寝てもらうか」
「
「本当か?!私は子守唄というのを聞いた事がなくてな。今度お願いするよ。お兄ちゃんの歌声なら、心の底から安心して寝られそうだ」
冗談で言ったつもりが、割と本気で俺の子守唄をご所望するアリカ。
そう言えばアリカの親は自分の子供がイジメで悩んでいる時に“金を稼いでこい”とか言う屑だったな。
USA(アメリカ)にまだ在住しているらしいし、このダンジョン攻略が終わったらウチの可愛い可愛いアリカちゃんとの出会いを祝してお礼参りしてやってもいいかもしれん。
もちろん、祝福には7.62mm弾を使わせてもらうとしよう。
赤い薔薇が咲き誇り、脳天に祝砲が突き刺されば誰もがハッピーになれるかもしれん。
「一応、私達も世間一般から見たら
「まぁ、それはそうだな。とは言えど、ウチの可愛いアリカは夜中の森の中も怖がるネズミのような心臓を持った小動物だ。恐ろしい狼から身を守ってやるのが俺達の役目なんじゃないか?」
「いや、夜の森の中でしたらアリカははしゃぐと思いますけどね........何せ、植物であれば何にでも興奮できる異常者ですし」
うん。俺も自分で言ってて思った。
何せ世界最悪のテロリストと呼ばれる俺よりも普通に戦闘が強くなってしまったアリカなのだ。夜中に狼が出てきたとしても、ガタガタと震えて泣いてしまう姿よりもオオカミをぶっ殺して夕飯の食材を確保している姿の方が目に浮かぶ。
アリカ、可愛いし普段は素直でいい子なんだけど、良くも悪くもこっち側の世界に染まっちゃってるからなぁ........
「やめてくれよ。私はアリも殺せぬか弱い少女さ。それで、グレイお兄ちゃんの隣出死神に魂を刈り取られたかのように動かない
「題名は“
ここまでボロカスに言われると少し同情してしまいそうだが、確かに何十年と殲滅に力を入れてきたと言う割には余りにもずさんすぎる。
自国の民を信じる心は必要だが、王に求められるのは冷静な疑念。
盲目的に神を崇める王が愚王であることと同じく、盲目的に民を信じる者もまた愚王なのだ。
何で国民全ての身体を検閲しなかったんだ。そしたら、もっと簡単に事が終わっていたかもしれないと言うのに。
余りにも無能すぎてかける言葉がない。しかも、カルマ王の行きつけの店の定員のほとんどがテロリストだったのだから、なおのこと酷い。
辞めたら?王様。
貴方には向いてないよ。
このまま綺麗な顔を眺めて楽しんでいてもいいが、話が進まないので彼女を正気に戻してやろう。
俺は、石像のように固まって動かないカルマ王の肩を揺らすと彼女は正気を取り戻した。
「
「........未だにこの現実が信じられん。私は........私達は一体今の今まで何をしていたというのだ........」
初めて出会った時の威厳はどこへやら。今のカルマ王は、昨日とは別人かのように弱々しくなっていた。
あれほどプライドの塊であったカルマ王が、シナシナのへなへなになっている。
ダークエルフのプライドは尽く粉砕され、今目の前にいるのは何もかもを失ったただの女の子だ。
流石にここまで落ち込んでいる人に“お前無能だね?生きてて楽しい?”とか言える程俺も人間が終わっている訳では無いので、できる限り優しくそしてこの現状が受け入れられるように言葉をオブラートで包みながら慰める。
失敗は誰にでもあるのだ。重要なのは、その失敗を次に生かせるかどうかである。
「王として民を信じる事は大切ですが、その全てを信じてしまってはいけません。国民の中にはよからぬ事を考えるやからも多く存在しているのです。失敗すること自体は恥では無いのですから、顔を上げてください。王が下を向けば、国民も下を向いてしまいます」
「........」
「それに、こうしてテロリスト共を制圧できたでは無いですか。次はカルマ王が主体となって動けば問題ありませんよ。失敗を次に生かすことこそが、知能を持つ生き物として次へと進む鍵となるのですから」
「........グレイ殿。度重なる無礼を失礼した。身の程をわきまえるのは私だったらしい。こんなのでも王と名乗れるなだからお笑い物だな。世界樹様唯一の失態は、ダークエルフという種族を生み出した事かもしれん」
うわぁ........滅茶苦茶泣きそうな顔だ。
あれほど凛々しかったダークエルフの王はどこへ行ったんだ。
この状態じゃ何を言っても意味が無い。下手をしたら自殺するレベルだ。
流石に王に自殺されては堪らないと思っていると、この会話を聞いていたアリカとレミヤも流石に不憫に思ったのか励ましの声をかける。
なんなら、会話に参加してなかったレイズすらも言葉をかけようとしていた。
「確かにこれはカルマ王の失態だが、どこぞの頭のイカれたお兄ちゃんでもない限り失敗はするもんだ。そう落ち込むなよ。まだまだ挽回できるチャンスがあるじゃないか」
「そうですよ。高貴なるダークエルフの王がここでメソメソしていては民に示しが着きませんよ。この失態は、邪神を討伐する時に挽回すれば良いのです。私達も多くの失敗を経て、ここに立っていますからね」
「そうですよカルマ王。あまり自分を卑下しないで下さい。貴方は誇り高きダークエルフの王ですが、間違いを犯す生き物であることに変わりはありません。これが普通なのですよ。だからそう落ち込まないでください」
あまりにもガチすぎる凹み方をされると、周りの人達も優しくなる。
つい先程までイベリコだの愚か者だの言っていたレミヤ達が、今までに見た事がないほど優しくなっていた。
今度から俺も何かある度に落ち込むか。そしたら少しは慰めてもらえるんじゃね?
........いや、凹む原因を作ってくる奴らに励まされたら殴りそうだからやめておこう。
アリカぐらいしか許せない気がするし。
そんなことを思っていると、俺の護衛をしているミルラが小さな声で話しかけてくる。
ミルラは自分が人を励ますことが苦手というのを分かっているのか、カルマ王を慰めには行かなかった。
「王も所詮はただの人とはよく行ったものですね。首を跳ねれば死に、何かあれば感情を露わにする。ボスぐらいですかね?死んでも死ななそうなのは」
「ふざけんじゃねぇぞ。俺は
実際1度死んでんだよこっちは。
あれ?でも死んでから別の世界に飛ばされたんだから、死んでも死なないはある意味間違っては無いのか。
流石に次死んだら復活することは無いだろうが。
「兎さんじゃないですか。可愛さで近づいたら相手の指を噛みちぎるウサギとか嫌ですね。一体何本の指を噛みちぎってきたのですか?」
「さぁ?そもそも人の指をかじるぐらいなら、
「それは怖いですね........ところで、何やらレイズとカルマ王がいい雰囲気では無いですか?」
........確かにレイズとカルマ王の雰囲気が少しいいように見える。
が、レイズの癖を知っている俺からすると、あれば明らかにそうなるように仕向けているな。
なんて悪い男だ。全世界の女の敵だぞあれは。
「腐っても詐欺師だ。弱った相手の心に漬け込んで今後の交渉を有利に進めたいとか思ってんだろ。絶対ろくな死に方しないぞあいつ」
「生きたまま輪切りにされた後、ホルマリン漬けにされそうですね。レイズの輪切りとか、見ていて気分が悪くなりそうです」
「全くだ。女絡みで死にそうになっても助けてやらねぇからな。いやまじで」
こうして、ダークエルフの国は完全に陥落した。
その後、テロリスト共は牢屋にぶち込まれ、俺達はダークエルフ達に功績を認められて同盟の締結をする。
その際、明らかにこちらに有利な条件ばかりだったのだが、まぁ、最悪レイズが死ぬだけなので俺は何も言わなかったのであった。
墓には“世界一馬鹿な詐欺師(笑)ここに眠る”と書いておいてやるか。
後書き。
激ローしなしなカルマちゃん可愛い。
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