ファック共のバーゲンセール


 新人歓迎会を開いてか2日後。ミスシュルカから全く連絡が来ない中で、俺達はのんびりと遊んでいた。


 もう一回観光するのは流石に時間に余裕が無いので無理だし、何より皆が見たい場所は大体回ってしまっている。


 この街、スラティナの美味しそうな店を探して食べに行こうかとも考えたが、スーちゃんとナーちゃんが仲間外れになるのでテイクアウトが可能な店だけをあちこち回ってみていた。


 今日の昼はテイクアウトが可能なパスタ店のパスタ。個人的にはあまり美味しくなかったが、他の人達には好評だったようでまた食べようと言う話になっている。


 パスタならITA(イタリア)行こうぜ。本場のパスタを食べてみたい。


「はい、俺の勝ち。これで15勝0敗。将棋も囲碁も負けないよ」

「ぬぬぬ........強すぎるのぉ........」


 そんなことを思いながら、俺は吾郎爺さんを詰ませる。


 この二日間で吾郎爺さんと囲碁や将棋で何度も戦ったが、全て俺の勝ちであった。


 おじいちゃん弱すぎるよ。その道を極めたプロが相手なら俺もさすがに負けるが、趣味で遊んでいるヤツに負けるほど俺は弱くない。


 俺がこのファミリーで唯一、誰よりも“強い”と自信を持って言えるのがゲームだけなのでぜったいに手加減はしなかった。


 だってこれで負けたら俺のプライドがへし折れちゃうからね!!


 戦いでは約立たずのクソザコナメクジな上に、ダンジョンに潜る経験も浅い俺に唯一許された“勝利”の味である。


「フォッフォッフォ........強すぎんかのぉ?少しはこの老耄を気遣って欲しいものじゃ。普通にボコボコに負けると悲しくなるぞ?」

「生憎、ゲームに関しては負ける気は無いんでね。と言うか、ゲームでも負けたら俺の存在意義がなくなる」

「フォッフォッフォ。主の存在意義は、このファミリーじゃろうて。お主がいるから、皆ここに集まっておるのでは無いのか?」

「だったら俺の言う事を少しでも聞いて欲しいよ。民主主義のマフィアとか聞いた事ないよ。この組織は、ボスよりも部下の力の方が強いのさ」


 俺はそう言いながら、みんなで楽しそうに某配管工のおじさんが出てくるレースゲームをワイワイと楽しむ部下達を見る。


 吾郎爺さんはあまりにも機械音痴すぎてゲームができなかったが、ミルラはすんなりと使い方やルールを覚えてゲームを楽しいんでいた。


 俺があの輪の中に入ると圧勝してしまうので、俺は爺さんの相手を。ほかはミルラの相手をしているのである。


「あぁ?!スターでわざと当って来ないで下さいよ!!」

「フハハハハハ!!俺たちのファミリーでは“当たられる方が悪い”んだよ!!残念だった─────ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!落ちた!!」

「ジルハード、やっぱり下手すぎ........なんで二日前に始めたばかりの初心者といい勝負してるの?」

「ほら、おじさんは慣れるのに時間が必要ですから........歳を取ると成長するにも時間がかかるのですよ」

「おいお前ら、聞こえてるからな?ヒソヒソと話しているフリをしているけどガッツリ聞こえてるからな?!」

「オッサンが怒った。怖いねぇ。アリカも何か言ってあげなよ」

「記憶力向上と集中力向上の薬でも飲む?効果が薄い代わりに副作用が無いものから、効果が絶大の代わりに副作用がえげつないものまで用意できるよ」

「ちなみに、副作用ってのは?」

「いちばんキツイやつだと一発で廃人になれるよ。半分薬物みたいなもんだし」

「いや、怖ぇよ!!そんなもんを俺に勧めてくるんじゃねぇ!!」


 ワイワイとやかましく、そして楽しそうな仲間達。


 ゲームと言うのは、やはり人種も年齢も性別も超えて仲良くなれる最強のツールだ。


 使い方を間違えると、思いっきり孤立するけど。


 子供の間でゲームをやると、みんなガチになるからね。昔、友達の誕生日会で一切の忖度無しにボコボコにしてやったら次の日から声をかけられなくなったのはいい思い出だ。


 あの頃は若かった........おふくろに“戦う以上は負けるな”と教えられてきたからね。それよりももっと大事なことを教えろよ。お陰で俺は小学校の頃大変だったんだぞ。


「フォッフォッフォ。あのミルラが楽しそうにしておるわい。実にいい能力じゃの。使い方次第では世界平和を齎せそうじゃ」

「馬鹿言え。絶対勝ち負けに拘るやつが問題を起こす。人間がこの世界に存在している限り、この世界から殺し合いが無くなることは無いさ。500年以上も生きてきてる爺さんなら、それを肌身で感じているんじゃないか?」

「フォッフォッフォ。かもしれんの。ほれ、次は以後で勝負じゃ」

「まだやんのかよ。俺は少し疲れたぞ。スーちゃんとやっててくれ」

(ポヨン?)

「ナー」


 可愛らしくポヨポヨと跳ねるスーちゃんを抱き上げると、俺は碁盤と碁石を具現化して勝負させる。


 何気に吾郎爺さんとスーちゃんが戦うのは初めてか。


 吾郎爺さんは、少し困惑していたがやる気を見せるスーちゃんを見て大人しく石を握った。


 そして、スーちゃんが黒石を1つ出す。


“奇数”か。


「フォッフォッフォ。魔物が囲碁を打てるとは驚きじゃのぉ。長生きはしてみるもんじゃ」

「爺さんの場合は長生きし過ぎだがな。一体どうなってんだ?その体」

「儂にも分からんのぉ。じゃが、恐らく湖に秘密があるのじゃろう。景色は覚えておるし、再びあの地を踏んだ時に見に行くのも良いかもしれぬな。不老になれるかもしれんぞ?」

「いやいいよ。俺はこんな生き地獄の中をあゆみ続ける趣味はないんだ。正しく人としての歴史を歩みたいね」

「フォッフォッフォ!!それはそうかもしれんのぉ。無駄に長生きしたとしても、別に楽しいことなど何も無いわい。こうして、良き出会いもあるが、大抵はクソみたいな出会いばかりじゃからの──────」


 その瞬間、吾郎爺さんとリィズが同時に動き始める。


 その僅か0.5秒後にミルラも動き始め、1秒後には俺以外の全員がゲームを投げ出して席立った。


 ドガガガガガガ!!


 全員が席を立つとほぼ同時に、借り家の壁がぶっ壊れて銃弾が撃ち込まれる。


 リィズは俺を無理やり伏せさせ、ジルハードは能力を使ってアリカの盾となる。


「天使よ守れ“影に潜む守護天使人形ガーディアンパベットエンジェル”」


 そして、ミルラは背中に純白の翼が生えた天使の様な者を出現させると縦を構えさせて銃弾を弾いた。


 恐らく、あれがミルラの能力。


 天使を具現化させる能力かな?


 このようなドンパチに巻き込まれすぎて感覚が麻痺している俺は、呑気にそんなことを思いつつ銃撃が止むのを待つ。


 凡そ10秒間の銃撃で家の壁はほぼ全て無くなり、二階部分が今にも崩れ落ちそうになっている。


「やべ、全員!!上注意!!」


 いち早く危険を察知した俺が声を上げるが、僅かに気づくのが遅かった。


 支えを失った家は一階から綺麗に崩れさり、上から家が降ってくる。


 銃弾を食らって穴まみれになることも想定して家を作ってくれよ。こんなん来たら俺は死ぬぞ?他の皆は普通に生きてそうだけど。


 俺はそう思いつつも、まぁ、多分死なないかとどこか楽観視しているのであった。


 今までもっとやばい状況に陥ったりしてたからね。しょうがないね。




影に潜む守護天使人形ガーディアンパベットエンジェル

 魔力によって創造した天使の姿をした人形を操る能力。人間の影に入ることができ、自動で対象に襲いかかる驚異から守ってくれる。

 更に、自動防衛が発動した場合はミルラ自身に報告が入るため、どれほど遠くにいても襲われていることを察知できる。

 もちろん、手動操作も可能。剣や盾も持っているため、素の戦闘力はかなり高く一体でAランクハンター並の強さを誇る。

 天使は最大9体まで具現化可能。手動操作ができるのは最大三体までである。




 崩れゆく家を眺めるは、グレイに散々コケにされたゴルバス。


 会議で恥をかかされた彼は、とても愉快そうに家が崩れていく様を眺めていた。


「フハハハハハ!!何が生きた伝説だ!!何が史上最悪のテロリストだ!!この俺様にかかれば、伝説も史上最悪もぶっ殺せるんだよ!!」


 彼の周りに集まった兵隊は約200。これはゴルバスが持っていた私兵の数であり、今動かせる全戦力だ。


 そして、この場にいる兵士の数は約500人。


 立った9人を潰すためだけに、500人もの人が集まっているのである。


「まさか、3ヶ国から話が来るとは思わなかったな。お陰で相当な数の兵力を手に入れられた上に、装備まで充実した。確実にぶっ殺せるぞ........!!フハハハハハ!!」


 二日前。ゴルバスの元にやってきたのは、グレイに恨みを持つ国家の組織達の面々であった。


 ゴルバスは“一体コイツは何をやらかしたんだ?”と思ったものの、快く協力してくれると言うのであれば使わない手はないと考え、全てを巻き込んでこの抗争を引き起こしたのである。


 MEX(メキシコ)の麻薬カルテルに、CH(中国)の国家部隊。更にはFR(フランス)の国家部隊まで。


 出身地は違えど敵はおなじ。今、この瞬間だけは“グレイ”と言うテロリストを前に人種を超えた共同戦線がはられていた。


 とは言っても、この3つの組織は最悪ゴルバスを生贄の羊スケープゴートに使って逃げるつもりであったが。


 グレイは、いままで恨みを買ってきた全ての組織に攻撃をされているのである。


 もっと言えば、ROU(ルーマニア)の警察組織までもが動き始めている。


 ここまで来ると、最早グレイが魔王として扱われていた。


「さて、死体を確認しに行くかぁ?あのアジア野郎イエローモンキー共の皮を剥いで、ルーブル美術館辺りに飾ってやるとするか」


 家が潰れたことにより砂埃が舞い散る中、ゴルバスはグレイ達の死体を確認しようと歩き始める。


 が、その瞬間、強烈な風が巻き起こると同時に砂埃が晴れて死んでいるはずの者達が姿を現した。


「あーあ。これ誰が賠償するんだよ。家一つ賠償するのっていくらするんだ?」

「数千万はかかるかもしれないですね。ですが、ミスシュルカに全部付けておけばいいのでは?」

「ふざけんな。んな事したらマジギレさせるぞ。真剣でスイカをぶった斬った様な家にしやがって。吾郎爺さん、もう少し加減できなかったのか?」

「フォッフォッフォ。儂は斬ることしか出来ん。さすがに無理じゃのぉ」

「あーファックファックファック!!人様が楽しく遊んでいる時に弾丸ブリットを撃ち込んできやがって。親の顔が見て見たいぜ」


 呆れた顔で“ファックファック”と喚くグレイと、それを見て楽しそうに笑う部下達。


 あれほどの弾丸を撃ち込んだ挙句、家に押しつぶされたというのに誰一人として無傷。


 あまりにも非現実的謎の光景に、その場にいた誰もが固まってしまった。


「お前か。借り家をボコボコにしてくれたのは........ん?それ以外にも随分と人が多いな。お友達を集めてパーティーでも開こうとしたのか?」

「よく見ろよボス。アンタが今まで喧嘩を売ってきた奴らがガン首揃えてやってきたぜ。世界中から人が集まるなんて、人気者だな。今なら選びたい放題だぜ」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。こんなクソッタレfuck共の大特価会バーゲンセールなんて要らねぇよ。全部ぶっ殺して返品してやれ。二度とこんなクソみたいな店を開くんじゃねぇってな」

「了解ボス。それじゃ、適当に暴れればいいんだな?」

「そこの黒人野郎マザーファッカー以外皆殺しだ。全員ぶっ殺せ!!」


 こうして、若干キレ気味のグレイ率いるグレイファミリーとグレイに恨みを持つ者達の混合軍の戦いが始まった。


 9人vs500人。


 数だけで言えば結果は明らかだが........それを覆せるだけの化け物たちが揃っているということをゴルバスは身をもって知るだろう。

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