第40話 アタシにだってできることがあるんです!

「ふふん! 見ましたか? 見ましたか!? アタシは奴隷契約の呪いを破ったんですよ! すごくないですか!?」



 ライラは自慢げに腰に手を当てて、



「アタシはタバコしか持ったことがないほどか弱くないんですよ! アタシにだってできることがあるんです!」



 そう言いながら俺の肩にゴツゴツ自分の肩をぶつけてくる。



「解った解った。すげえ奴だよほんと。やってること訳わかんねえ。なんだ撫でるだけで奴隷から解放するって」



 マジで聖母じゃねえか。

 と言うか、すでに天使とか神の所業。


 そりゃ信者が増えますわ。

 グウェンが第一号かもな。



「褒めてくれてもいいんですよ!? 頭撫で撫でを所望します!」


「お前もなにかの奴隷だったのか? 自分で撫でればいいんじゃねえの?」


「奴隷じゃありません! それに、自分で撫でても意味ありません!」



 ライラがむすっとして俺をじっと見る。


 変なところで強情だからなこいつ。


 俺は折れる形でライラの頭をぼふぼふと撫でた。


 撫でたというか、何度か手を置いた。



「うへへ」



 ライラが自分の頭に触れニヤニヤと笑みを浮かべる。


 それをじっと見ていた骸骨野郎が、ぼそりと、



「いいね、若いって。青春だね。おじさん人殺したくなってきちゃった」


「怖えよ! なに物騒なこと言ってんだ!」



 骸骨の仮面で言うからより一層怖い。



「だってそうだろうが! 私がなんと言われたか覚えてるか!? あなたのことは嫌いですって言われたんだぞ! それなのに君は!」


「お前はまず自分の行動を省みろ! 嫌われた原因はお前にあるんだよ!」


「ううう、どうしてこんなに世界は不条理なんだ……」



 不条理じゃねえよ。

 当然の帰結だ。


 骸骨野郎はしばらく唸っていたが思い出したように、



「それで、さっきのはなんだい? どうしてライラたんが撫でただけで奴隷契約の呪いが解けたんだい?」


「そういう能力があるって理解してくれればいいです。スキルです、スキル」



 ライラは聖女や聖母という単語を使わずそれだけ言った。



「ふうん。そんなスキルがあるんだね。知らなかったよ」



 骸骨野郎は納得したのか納得してないのか、微妙に頷くだけにとどめている。



「これから先は奴隷たちを倒すたびにライラたんが撫でれば、次々に解放できるって言うことだね?」


「理屈はそうだが、うまくはいかねえだろうな」


「どうしてだい?」


「だって、ライラが撫でるには防御魔法を解除する必要があるだろ。一体どれだけの数の奴隷がいるのかは解らねえが、一斉に襲ってこられたら、防御魔法を解除する隙なんてねえ」



 今回は一人だけで余裕があったからな。



「ま、そういうわけで、余裕があるときにライラに頼むって形になるだろうな」


「それでもいいです!」



 ライラは先ほどより上機嫌だった。


 自分ができることを見つけられたのがすこぶる嬉しいらしい。


 さらに歩みを進めたが、その先は影の番人に出会うことはない。


 俺たちはわざと脇道に逸れる。


 骸骨野郎が逃げてきた道からは外れるが、すでに魔女の住処の近くらしく、骸骨野郎はすいすいと進んでいく。


 しばらく進むと不快な音が聞こえてきて、俺はとっさにライラの耳を塞いだ。


 彼女に第五階層から降りる直前に渡した耳栓つけるように促し、音が聞こえなくなったのを確認すると、俺は防御魔法を彼女の周りに張って、骸骨野郎に言った。



「近づいてきたな」


「ああ。まったく嫌な音だよ。滑稽とはほど遠い」



 骸骨野郎は顔をしかめる。


 さらに進むと森が開けて、それが見えてきた。


 影の奴隷たちが数人、畑で働いている。


 彼らはしゃがみこむと植わっていた葉を掴んで、引っこ抜いた。


 人型の根が出てくる。


 途端、当たりに悲鳴じみた声がこだまする。


 影の奴隷は一瞬固まったがすぐに体勢を戻し、根っこの頭をスパンと切り裂いて、収穫する。


 本来この声を聞いた奴は死ぬが、俺には呪いもこれも耐性がある。


 それに不死身な骸骨野郎や、影の奴隷たちには関係がない。


 あれは、マンドレイクで、

 ここは、マンドレイクの畑。


 そりゃあるよな。


 ここは、元々Sランクになるための登竜門なんだから。


 銅が名前についたダンジョンなんだから。


 名前を見れば解る。


『魔女の森』、

 旧『赤金竜の森』。


 赤金はあかがねだ。

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