第34話 あのトレントは倒せない。弱点も急所もないんだ。
「なんだこの防御魔法は! 私がライラたんに触れないじゃないか!」
「うるせえぞ、骸骨。目の前に魔物がいんだろうが」
ここのエリアボスは巨大なトレントで、角のように二本の枝が頭に生えた人型。
体中が苔むしていて、キノコなんかも生えているけれど、その体はインクが浸みているかのように黒く、気味が悪い。
頭の部分には仮面、と言うより、何らかの魔物の頭蓋骨のような物をつけていて、それがより一層不気味さを際立たせている。
だって、魔物の頭蓋骨なんて見る機会がない。
死んだら消滅して、ドロップするんだから。
ライラがドーム型の防御魔法の中で身をこわばらせているのは骸骨野郎の気味悪さのせいだけではないだろう。
骸骨野郎は背負っていた巨大な剣を構えると、
「いいか? あのトレントは倒せない。弱点も急所もないんだ。斬っても刺しても次々に再生するだけだ。そもそもこの人数で戦う相手じゃない。枝だろうが葉だろうが武器にして使ってくるアイツの手数は尋常ではない。後衛がいない今、私たちの最善手は奥に開いている扉に向けて全力で走ることだ。わかったか――っておいいいいい!!」
あまりに説明が長かったので俺は走り出していた。
エリアボスの部屋は外と違って森ではない。
洞窟の中に現れた草原と言ったところ。
天井は満点の星空で、月のように大きく光り輝く星が三つ離れて浮かび部屋を照らしている。
俺は剣を引き抜いていつものように脳筋魔剣術を使って駆ける。
大柄なトレントは俺の三倍くらいの大きさで、奴が少しかがんだだけで俺の身体は影に隠れてしまう。
トレントが俺を叩き潰そうと腕を振る。
尖った枝が、柵のように列を成して地面に突き刺さる。
俺まで貫こうとしやがったので、加速、避ける。
そのまま俺は、ぐんと屈伸して跳び上がり、身体をひねって回転、魔力で伸ばした剣を振ると、トレントが柵を作り出すために突き出した腕を斬りつけた。
大木の幹ほどもある太さの腕がパツンと苦もなく分断する。
切り落とされた腕が消滅し、ドロップ。
丸太がゴトンと落ちる。
隠居後は木こりにでもなろうかと一瞬思う。
腕を切り落とされたトレントはよろめいて、
「ガジガジガジガジ」
と、苦しみの声なのか、悔しさの声なのか解らない不快な音を立てた。
俺が着地すると同時に、トレントは別の腕を振る。
今度は夥しい量の葉が飛んでくる。
「どうすっかな」
ライラにかけたのと同じ魔法を使ってもいいが向こうに骸骨野郎がいるんだよな。
ここで俺だけ避けてしまうと、アイツに被害が出る。
「……まあ出てもいいんだけどさ」
変態下衆野郎に罰を!
とはいえ、怪我をされると放置できないので面倒だ。
はーあ。
俺は防御魔法をドーム型ではなく曲面の壁のようにして、かなり大きく前面に展開する。
飛んできた葉はその壁にバチバチとぶつかって、跳ね返り、落ちる。
後ろには一枚たりとて飛んでいかなかった。
「ふむ」
今までずっと一人で戦闘をしてきたから解らなかったけれど、ライラとか骸骨野郎とか他の奴がいると色々考えないといけないんだな。
これがCランクになったら初心者研修だの付き添いだので、もっとたくさんの奴らを守らないといけないのか。
「絶対嫌だ。俺はDランクでいつづけてやる」
葉の攻撃が終わったところで俺はさらにトレントに接近する。
首を切り落としても意味がないのは知っている。
切り落としたはずの腕はすでに生えているし、首だってすぐに生えてくる。
燃やして倒すのが基本らしいが、俺はそういうスタイリッシュな魔法は使えない。
たき火を作るくらいがせいぜいだ。
さて、
こういうバンバン再生する系の魔物を倒す手段について、俺の師匠はこんなありがたいお言葉を残している。
――再生するなら、再生できなくなるまで再生させればいい。 by師匠
バカ。
脳筋。
さすが脳筋魔剣術。
どれだけ嫌でも継承者である俺はそれを使わざるを得ない。
接近しつつ、身体を時折防御魔法で保護しつつ(師匠ならおそらくこの距離で防御魔法すら使わず、全部弾き落とす)、次々にトレントの身体を切り落としていく。
削ぎ、剥ぎ、切断する。
丸太がどんどん製造されていく。
トレントの身体は再生を繰り返すたびに小さくなり、すでに俺と同じくらいの身長になっていた。
最後の一刀。
トレントを縦に両断する。
薪割りのごとくパカンと、頭につけていた魔物の頭蓋骨ごと二つに割れた身体は互いから離れるように傾いでいき、倒れる前に消滅、ドロップした。
最後まで丸太がドロップした。
あと魔石。
「倒木完了!」
気分はすでに木こりだった。
こんな木こりいねえけど。
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