第32話 「やあ初めてのお客さん!」「珍しいね、珍しいね!」

 明らかに骸骨下衆野郎と知り合いであるにも関わらずキシリアが俺に紹介しなかったあたり、完全に彼女の頭の中から存在が抹消されている可能性が高いのだけど、そんなこととはつゆ知らず、下衆野郎は翌日、俺たちを『魔女の森』へ案内した。


 結局ついてきやがった。


 俺は聖人君子ではないけれど鬼畜でもないので、人を騙すと少しは心苦しくなるのが普通なのに、こいつ相手だと全然苦しくない。


 むしろすがすがしい。


 ばちが当たればいいんだ。


『魔女の森』は街から少し離れた場所にあった。


 近づくにつれて雲はさらに濃く厚くなり、今にも雨が降り出しそうなほど当たりは真っ暗になっている。


 ダンジョンなので当然ながら魔動人形が門番をしていて、俺たちに気づくとぱっと顔を上げた。


 そして見たことのない顔をした。



「うわ! また来やがった、また来やがった!」「骸骨の野郎がまた来やがった!」

「きもいんだよ失せろ!」


「大した嫌われようだな」



 俺は骸骨に言った。


 魔動人形にここまで嫌われている奴なんて見たことがない。



「一体何したんだ?」


「何もしてないがね」



 骸骨はそれだけ言って、冒険者証を魔動人形に見せようとする。



「近づけるな!」「とっとと中に入れ!」

「そして二度と出てくるな!」


「嫌われすぎですよ。ほんと何したんです?」



 ライラが白い目で骸骨を見る。



「ライラたん、そんな目で見ないでよ」


「ライラたんって言わないでください!」



 しっしっと手を振ってライラは嫌がる。


 骸骨はしょぼんとしてダンジョンの中に入っていった。


 続けて俺たちが冒険者証を見せようとすると、



「やあ初めてのお客さん!」「珍しいね、珍しいね!」

「ここは『魔女の森』、旧『赤金竜の森』!」「推奨ランクはA以上!」

「最深階層は六!」「現在危険度は、なんと、S!」

「あぶない、あぶない!」「入るには冒険者証を見せてね!」



 俺たちは魔動人形の鼻先に冒険者証を突き出す。



「Dランクで入ろうとするなんて、死にたいのかな!」


「早く開けろ。あの骸骨のおっさん連れ戻して、顔面なめ回させるぞ」


「やめてよおお!」「やめてよおお!」



 二つの魔動人形は両手で顔を覆って、門を開けた。


 ライラは俺の後に続いて入ると不思議そうに、



「推奨ランク以下でも入ることはできるんですね」


「ああ。ただ無謀な冒険者は基本すぐに死ぬけどな」


「あの受付で声をかけてきたCランクパーティはアタシたちのことをその無謀な冒険者だと思ったんでしょうね」



 恥ずかしかったです、とライラは言った。


 骸骨のおっさんは俺たちの姿を確認するとすぐに先導して歩き出す。


 彼からすでにマップはもらっていて、何があるのかはなんとなく解っていたが、



「奇妙だな」


「奇妙ですね」



 ライラも天井を見上げて言った。


『魔女の森』は、『森』と呼ばれるように、洞窟的な形状をしていながら、ひとたび入ると木々が乱立し、空まで見えるという奇妙な造りになっていた。



「あの空は本物じゃない。本物の空が見えるなら雲に覆われたどんよりしたのが見えるはず」



 骸骨野郎は言って天井を指さし、



「これは魔法だ。噂では発光石が組み合わさってできていると言うが、さて、本当のところは不明だな」



 木々が生えているところを見ると太陽光を取り込んでるんだろうか。

 それともただ魔力で育つ木々なのか。


 骸骨は振り返ると、両手をこすり合わせて、



「ライラたん、手をつなごうよぉ」


「嫌です! 絶対嫌!」


「ええ……。だって手を繋がないとこの森迷うよ? 私は慣れているし魔道具を持ってるから迷わないけどね、君たちは私を見失ったら道を見失うんだよ?」


「ふむ」



 俺は考えて持ってきていたロープを取り出した。



「これをお前の首に巻く。犬の散歩みたいにな」

 

「なんてこと言うんだ、お前! これだからイケメンは、まったく! 私は案内人だぞ! このダンジョンについて誰よりも詳しく知っているんだ!」


「黙れ害悪変態骸骨下衆野郎。猿ぐつわされてえか」



 結局腰にロープを巻いてそれを俺が掴み、俺のベルトをライラが掴むことで解決した。


 前の方で骸骨野郎が悪態をついているが、そのたびにロープを引っ張ってやる。



「引っ張るな! 屈辱だ! これでも私は名のある騎士だったのに!」


「ほう、どこぞの領主に仕えていたって訳か」


「領主どころではない。もっと上だ。私は、国に……王に仕えていた」

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