第30話 ギルドだ、ギルド。何かしら情報があるだろ
あまりのたばこ臭さにライラは教会から出たあと身体をパタパタ払っていたけれど、俺には洗浄魔法があるので一瞬で匂いが消えた。
便利な魔法!
「あ! ずるい! アタシにもかけてください!」
「一回銀貨一枚だ」
「ぼったくり!」
バシバシ肩を叩くので「冗談だ」と言って洗浄してやる。
「隣でタバコ臭いのも嫌だしな」
「臭いって言わないでください! アタシのせいじゃありません! あの年増のせいです!」
タバコの匂いをつけられて辛辣になったライラだった。
若作りから連想して出た言葉かもしれないけど。
キシリアは教会から出る瞬間になってまたキツいのに戻って、
「キシリアたんがフレフレしてあげるんだお! 無事戻ってきたらぁ、特別にほっぺにチューをプレゼント!」
タバコ臭えからごめんだった。
タバコ臭くなくてもごめんだけど。
顔を近づけないでほしい。
ライラは自分の身体の匂いを嗅いでタバコ臭さが消えたのを確認すると、
「それで、どうするんです? 危険なんでしょう?」
「【荒れ地】より危険じゃなけりゃ問題ない。それよりもだ。名のある冒険者が戻ってきてねえってことは、金目の物がたくさんあるってことだろ。回収しねえ手はねえ。魔女なんか知らねえ」
うへへ。
うへへ。
ライラは少しだけ溜息をついて、
「あのですね、シオンさん。ごうつくばりが痛い目を見る童話や寓話ってたくさんあるんですよ。自分だけは大丈夫とか、平気だからとか、そうやって欲望に従って行動して、決まってヒドい目に遭うんです」
「そういう奴らはどういう目に遭うか解らない状態で行動するからいけないんだ。俺はちゃんと調べてから行く」
「でも
「ギルドだ、ギルド。何かしら情報があるだろ」
言って俺は立ち止まる。
この街の冒険者ギルドはまだ他の店や通りよりも活気がある。
もしかしたら最後の砦みたいな考えを持ってるのかもしれない。
中に入って受付に向かい、そこにいた兄ちゃんに、
「『魔女の森』について教えてほしい」
そう言うと彼は固まって、眉根をよせた。
彼だけではない。
俺の隣で魔石の鑑定をしていたCランクらしいパーティもこちらをみて固まり、それからひそひそと話をして、クスクス笑っている。
俺は無視して受付の兄ちゃんを見る。
彼は咳払いをすると、
「失礼ですけれどランクは」
「ん」
俺は冒険者証を見せた。
隣で爆笑が聞こえてくる。
ライラが少し恥ずかしがってパーティから隠れるように俺の影に入る。
兄ちゃんは唖然として、
「Dランク、ですか? あの、まさか『魔女の森』に向かうって言うんじゃありませんよね?」
「行く。その前に情報を集めてる」
「ダメです!」
兄ちゃんは大声を出してしまったことに自分で驚いて口を塞ぎ、小声で、
「やめておいた方が良いですよ! あそこには魔女がいます。Aランク冒険者でさえ帰ってこなかったんですから」
「へえ」
ニヤニヤしてしまう。
装備品が高く売れるぞお。
ライラが俺の肩を小突く。
「情報だけ欲しい。それだけだ」
「そう言われましても……」
受付の兄ちゃんは言い渋っている。
そこに隣で大笑いしていたCランクの男が近づいてきて肩を叩き、
「なあ、Dランクの兄ちゃん。俺が教えてやるよ。その無謀に免じてな。くっくく」
そこで彼は一笑いすると、
「いや悪い。くくく。あのなあ、『魔女の森』に執着してるおっさんがいるんだ。そいつに話を聞くといい。色々教えてくれるさ」
「ちょっと、それは……」
受付の兄ちゃんが言うのも気にせず、Cランクの男は続けて、
「良いだろ、このDランクの兄ちゃんは挑戦したいっていうんだから。おっさんも久しぶりに仲間ができて嬉しいだろうよ。無謀な仲間がさ」
Cランク冒険者はぎゃははと笑う。
無謀な仲間ね。
それから『魔女の森』に執着、か。
「そのおっさんとやらはどこにいる?」
「夜になれば酒場の隅にいる。酒も飲まずつまみだけ食ってるさ。金がねえんだよ。酒をおごればよろこんで情報をくれるだろうさ。くっくっく。仮面をかぶってるからすぐ解るはずだ」
「いい情報だな」
俺はクスクスと後ろで笑っているCランクパーティをみて、目の前の冒険者の男をみて、それから、ポーチから大銅貨を二枚出して突き出した。
「あ?」
「情報料だ」
「ぶっあーっははは!」
Cランクの男は大笑いして、俺の肩をバンバン叩くと、大銅貨を受け取って、
「せいぜい頑張るこったな、Dランクの兄ちゃん。この二枚の大銅貨はお前が戻ってくる方に賭けてやるよ」
「好きにすりゃいい」
俺はライラを連れてギルドを出た。
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