第23話 アタシにはやるべきことがある2(ライラ視点)
そのダンジョンは『枯れた幸福の迷宮』と呼ばれる場所で、分かれ道が多く、マップが必須の場所だった。
入り口の魔動人形も入る人全員に、
「マップは持ったのかな!」「持ってない?」
「死にたいのかな!?」
と注意を促している。
……ただ馬鹿にしているだけに見えるけど。
中に入る。
壁には位置を示す番号が打ち付けられていて、それを見ながら先に進む。
「このダンジョンは迷った奴が月に三人くらい死んでるな。特に下の階層はひでえ。罠があるからな」
シオンが不謹慎にそんなことを言っているが、ライラは黙ってチラチラと後ろを見ている。
シオンがそれに気づいて、
「
「やっぱりそうなんですね? ……タイロンさんたちは、あなたの跡をつけている。そしてそれは、あの人も同じだった」
「ああ。そうだ」
彼は頷いた。
ライラは深く溜息を吐く。
「あの日、アタシが尊敬していたあの人が死んだあと、タイロンさんたちが代わりにこのダンジョンに向かいました。けれど、彼らはダンジョンを攻略しなかった。攻略したのはあなただったんですね?」
「…………」
「なのに、彼らはあたかも自分が攻略したように報告した。それも一度や二度じゃないでしょう?」
「そこまで気づいたか。……どうして解った?」
ライラが違和感に気づいたのは冒険を終えてギルドに戻ってきたあとだったけれど、少なからず、シオンと一緒に『笑う頭蓋骨の穴』にいたときから感じていたものがあったのもまた事実だった。
シオンが分かれ道で迷うことなく右を選択し、ライラは跡を追う。
「アタシは、一緒に『笑う頭蓋骨の穴』に行くまでシオンさんは魔物なんか倒さずに遺品だけを集めてるんだと思っていました。ギルドの冒険者はみんな、あなたは魔物なんかゴブリンくらいしか倒してないって言っていましたし、準荒れ地でも、魔物は避けてきましたし」
「…………」
「でも、それは違かった。あなたは魔物を倒してる。それどころか、並の――いえ――上級冒険者が苦労するような魔物ですら、簡単に倒している」
「脳筋魔剣術でな」
その命名どうにかならないのかと思うけれどライラは続ける。
「アタシ解ったんです。あなたが回収して売っている遺品たちは他の冒険者が簡単には回収できない遺品なんだって。というか、考えれば解ります。お金になる装備を身につけている冒険者は、みんな、ある一定以上のランクのはずですから。死ぬ場所は難度の高い場所のはずです」
ライラは自分の腰にぶらさがったパトリックの剣を見下ろして、
「この剣だってそうだったんでしょう? ゴブリンから奪ったわけじゃないなら、あなたは、本当に最下層まで降りていって回収してきたんです。あなたが回収しなければ、本当なら行方不明になっていたはずの遺品なんですよね?」
「そんな殊勝な考えで拾った訳じゃねえよ。俺の行動理由は単純だ。金になるってだけ。結果的に回収困難なものを拾っているだけだ」
シオンは笑って言うけれどライラは本気だった。
「アタシは、でも、この遺品が戻ってきたその瞬間は嬉しかったんです。だからきっとシオンさんは回収不能の遺品を集めて誰かを救ってる。アタシが救われたように」
シオンは溜息をついた。
「その感情をぶっ壊したのも俺だろ」
「ええ――いえ、壊したのは彼らです。と言うよりそもそもただの張りぼてだった。嘘をついていたんです」
ライラは後ろを振り返る。
まだ見えない。
けれどついてきているだろう。
三階層に到達する。
最下層に近づいているのに、シオンは相変わらず剣も抜かず、殴る蹴るの暴行で魔物を倒して、ドロップ品を無視して先に進む。
本当に興味がないみたいだ。
そこでこれである。
ライラの布の袋は徐々に膨れてきていた。
シオンはライラの方をみて、溜息をついた。
「お前、なにしてんださっきから」
「決まってるじゃないですか。魔石と素材の回収です。タイロンさんたちにとられる前に回収するんです」
「あのな、すぐに持ちきれなくなるぞ。最下層に行くまでにどれだけ倒すと思ってんだ」
「大丈夫です! 途中にある落とし穴とか奈落の底まで続く穴とかに捨てるんで」
ライラはそう言って背負い直したがすでに重い。
「あの……重いんで運んでくれませんか?」
「運ばねえよ! お前が始めたことなんだからお前が責任もて!」
と言いながら、シオンは近くにある奈落の穴へ連れてってくれる。
ライラはその下に向かって布袋を開け、素材と魔石をゴロゴロと落とした。
「さて! 行きましょう!」
「お前の分はとっておかなくて良いのか?」
「そんなことしません! 自分の分は自分で倒します!」
「まあいいけどさ」
シオンは言って先に進み、ライラはその後を追いつつ、素材と魔石を回収していった。
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