第8話 ようこそ!『笑う頭蓋骨の穴』へ!

 で、現在に戻る。




 俺はライラを背負ったまま夜もぶっ通しで走っている。

 

 ライラは、はじめはしがみつくのに緊張していたようだけれど途中から完全に慣れたようでうとうととして俺の首元によだれをくっつけていた。


 汚えな。


 シネアルタスに入るとライラはあたりをキョロキョロと見回して、ぎゅっと肩に力を入れている。

 

 それもそのはずで人の姿がほとんど見えない準荒れ地には魔物がうようよしていて、ダンジョンでしか見ないような奴らが群れで行動している。


 ああいう奴らは刺激しない限り襲ってこない。

 脇をすり抜け、時には飛び越えて進んでいく。






 シネアルタスについて、ライラの腹が二回目に鳴ったころ、俺たちはこの地の中心を見つけた。


 でかい城は半壊状態。

 街を囲っていた壁が破壊されて廃墟になっている。


 おそらく金目のものはすでに持ち出されているだろう。


 シネアルタスが崩壊してからすでに二度冬を越している。

 あたまのおかしい盗賊が探索するには十分な年月だ。






 ダンジョンは街からしばらく走ったところにあった。

 入り口は門で閉じられていたはずだが、すでに内側から破壊されている。



「…………ん?」



 門の側に幌馬車が止まっていた。

 血の跡があって、連れてこられた馬が帰らぬ主人を待ち続け、魔物に襲われたのがわかる。


 かわいそうに。


 俺が馬車に近づいて中をのぞき込むと、ずっと背負われていたライラが身体をほぐす運動をしながら言った。



「馬車からも盗もうとするんですか?」


「ちげえよ。ことあるごとに軽蔑してんじゃねえよ。……ふーむ。この馬車綺麗すぎないか?」


「そうでもないですよ? 結構使い込まれてボロが来てると思いますけど……」


「ここが準荒れ地になったのは二年前だぞ。ってことはこの幌馬車は二年間手入れされずに放置されて、この状態を保ってるわけか?」


「そう言われると……綺麗すぎますね。それに、あれ」

 


 ライラは馬車の中を指さした。


 だいぶしおれているが大きめのパンが落ちていて、虫がたかっている。



「本当に最近ここに来たみたいですよ。数日前でしょうか?」



 どういうことだ?

 同業者がここに来てるとか?


 アザリアが俺を騙して情報料をちょろまかしたってことか?

 いや、あいつに限ってそんなことは……いや解らん。


 俺はダンジョンの方を向く。



「誰かが中にいるみたいだな。この様子だと死んでるだろうが」


「……獲物だと思ってるんですね。装備品が良い手土産になると思ってるんでしょう」


 

 ……否定はしない。



「何で黙ってるんですか! ごうつくばり! ほらあそこの虫がたかったパンも持っていったら良いですよ!」


「あんなもん売れるか!」

 


 そこまで強欲じゃねえよ。

 

 はあ。



「行くぞ、ほら」

 


 俺はライラを連れてダンジョンに近づいた。


 門の両端に柱があって、そこにまるで下半身が埋まっているかのように上半身だけの魔導人形が設置されている。


 入るためにはこいつに魔石を補充しなきゃならない。

 イーヴァはどうせ自分が入る分しか入れてないだろうしな。


 と、見てみると、魔石はまだ結構入っていた。

 馬鹿なイーヴァが何も考えずに入れたのか、その後に来た馬車の連中が入れたのか。


 魔動人形の片方に近づくと両方が目を覚ます。

 そしてやかましいことに交互に話しやがる。



「ようこそ!」「『笑う頭蓋骨の穴』へ!」

「推奨ランクはD以上!」「最深階層は五!」

「現在危険度は、なんと、S!」「災害起きちゃってるよ!」

「あぶない、あぶない!」「入るには冒険者証を見せてね!」


「え、危険度S?」



 ライラは後退る。


 俺は彼女を見て、



「入るのを止めてここで待っていてもいい。馬車のなかであのパンと一緒にな。準荒れ地だからやばい奴がうようよいるけど」


「つ……ついて行きます」


 

 俺とライラは冒険者証を魔導人形の目の前に突き出す。



「Dランクで入ろうとするなんて、死にたいのかな!」


「うるせえ、鉄クズ。早く門を開けろ」


「ひどい! 心が傷ついた!」「心って、なに?」

「わかんない、ぎゃはは!」



 どこのダンジョンでもこいつらはやかましい。

 創った奴に文句を言いたい。


 それからも鉄クズたちはべらべらとくっちゃべっていたが仕事はするようでぶっ壊れた門をぎぎぎと開く。



「あれ! ちょっとしか開かないよ!」「故障してるみたい! あちゃー!」

「修理する人呼んできて! シオン・スクリムジョー!」「ライラ・マリー!」



 冒険者証に書いてある名前まで確認してやがる。


 そこでふと、俺は馬車の方を指さして、



「あの馬車に乗ってきた連中はこのダンジョンに入ったのか?」


「そうだよ!」「何日前かなあ?」

「えっとえっと、ぴきーん! 思い出した!」「四日前!」


「なんで思い出した方が答えねえんだ」



 そして知ってるならもう片方に聞くな。

 うるさいから。



「で、なんてやつだ。入ったなら冒険者なんだろ」

「「えっとね、えっとね!」」



 二つの魔動人形は腕をバタバタさせて、何かを検索するように頭をぐるぐる回して、



「「ぴきーん!」」



 同時に言うと、以下の名前を叫んだ。



「ヘイグ・スコデラリオ、Aランク!」「ジョン・ミック、Aランク!」

「メアリー・ドッド、Aランク!」



「それって……」



 ライラが驚きの表情を浮かべ、固まる。


 二体の魔動人形は最後に同時に一つの名前を叫ぶ。






「「グウェン・フォーサイス、Sランク!」」






 つまり、


 

「Sランク冒険者のパーティが、戻って来られないダンジョンってことですか!!」

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