第35話 決意と出発
繭に残されていた莫大な魔力のおかげで実力を伸ばしたぼくたちは、かなり広範囲を探索することが可能になった。
今はもう、あの時、殺されかけたナーガや同等のミノタウロスたちが束になってもぼくたちはひとりでも相手取ることができる。
もちろん叶わない相手はまだいるけど……。
それでも探索をしていたところ、新たな手記を手に入れることができた。これがそもそもの希望へのきっかけだ。
そこに書いてあったのは、帰る方法ではなく、『行き』の道のりが書いてあった。
少し考えればその通りだ。
ぼくのように事故で落ちる者もいれば、この崖下を探索のために来る者もいる。
そして探索を目的とするなら、行きの情報は計画をそうとう練り込んでいるはずだ、と。
目を通したところ、道というには険しいけど手記を書いたひとたちが通った道のりを確認することはできた。
「いや~いざここを離れるとなると名残惜しい気持ちが……――ないな。早く崖上で綺麗な
『グルゥ~……』
『ヴォ~ゥ……』
最近、落胆の色を顕著に表すようになった気がする。
つがいの魔獣もいるって聞くけど、ポチとプチの場合、単体で次の世代へ力を紡げるから興味がないのだろうか。
だとしたら、どんなに強いとしても不幸そのものじゃないか。
「とりあえず武器になる魔獣素材は片っ端から持っていくぞ」
『ヴォゥ!』
蔓や魔獣からとった糸を利用してプチの背中に剣代わりの牙や爪を巻き付けていく。
魔力液を入れた竹筒や食料は、辛うじて形を保っているリュックに詰め込みぼくが背負う。
魔法も魔術も使えないぼくは、牙や爪を短剣代わりに投げることで、牽制の意味も含めて利用するので、いくらあっても足りないと言えば足りない。
銀の短剣はずっと使い込んで愛着があるので、投げるとしても別の武器だけれども……。
愛着と言えば骨剣もそうだったけど、戦いの日々の中で役目を終えたように砕けてしまった。取得した魔獣よりも強い魔獣に対して使う場合、消耗がとても激しい気がする。
「あとは石芋探しの時に見つけた変な石だけど……一応持ってくか」
『グルゥ!』
大きさの割りにかなり重い、魔力を通すとぼんやり光る石。そして反応しないけど光を吸収しそうなほどに漆黒の石でこっちはさらに重い。
明らかに砕いた岩場の岩とは違うんだけど、どちらも正直にいって使い道が一切わからない。
ポチやプチも首を傾げながら魔力を通して光らせたりしていたけど、もう飽きたようだ。
ヒノだったら何か知ってるかもとは思ったけど、あの時以来、ヒノの囁きが聞こえることはなかった。
「よし……それじゃあの出っ張り崖までは結構かかるから極力戦闘は避けていこう!」
『グルゥ……!』
『ヴォゥ……!』
出っ張り崖とは手記に記されていた『入口』をぼくらが勝手に命名したものだ。
手記には岬のように突き出した崖、と書いてあった。
その付近に土砂崩れが起きたように比較的なだらかな崖が続いているため、他に比べればかなり楽な道のりになっている。と記載があり、事実そうだった。
そう、ぼくたちは確認しているんだ。
道の存在も、実際に他よりも格段に楽に登れることも。
それなら、なぜこの拠点のほら穴に戻っているのか。
「この前のように……一方的にやられるなんてことはもうないぞぉ……あんのクソ蛇がぁぁぁぁッ!」
『グルゥ――ッ!』
『ヴォゥ――ッ!』
それは戻ったわけではなく、戻らざるを得なかったんだ。
他の断崖に比べれば光輝いて見えるほどになだらかな道だ。
見つけるや否やぼくたちは実際に登ることに疑問も持たなかった。
でも、昼のはずが急に夜になったかと思うほどの暗雲……ではなく、上空から襲来したやつと出くわすことになったんだ。
そしてぼくらは揃って死にかけた。――という現実がおよそ半年前だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます