第21話 ぼくとポチ その1
「
『パゥ!』
「
『パゥ!』
「よ~し分かった。お前は今日から『ポチ』だ」
『パゥッ!』
ぼくが何と呼んでも反応する可愛いやつだ。思わず頬が緩んでしまう。
さすがに『
候補はいくつもあったけど、最初のポッチャリな印象を流用して『ポチ』に決定した。
「今日からお前はぼくの弟だ。もう遠慮することなんてないからね」
『パゥ!』
結論から言うとぼくはポチと共に生き抜くことに決めた。
ぼくがポチと離れようと思っていた理由。それは元が元だったので、ぼくと一緒よりも生き抜ける可能性が高いと思っていたからだ。
でもさっきの状況を見た場合、まったく逆だと言う事が分かった。
繭の中で十分な成長ができなかったのが原因かは分からないけど、あの状態では遅かれ早かれ命を落とすことになる。
だから。
むやみに連れ帰る気はないけど、ポチが望むなら一緒に村に帰ることも視野にいれている。
それにまさか、あの万物をひっくり返すような大地の魔法が、砂山を作る程度の威力になるなんて思ってもいなかった。これからの成長に期待なんだろうけど、今時点だと落ちて来た当時のぼくといい勝負のダメダメ具合だ。
いや、魔法じたいは使えてるからぼくよりはマシだった。ちょっと見栄を張ろうとしました。
「ヒノもしっかり面倒見てあげるんだぞ」
『……』
『パゥ!』
ポチはぼくの肩の上に視線を向け、挨拶代わりに尻尾を振り回し、喉を震わせているけど、ヒノは相変わらずだ。
ぼくがフード付きのローブを着続けていることもあって、ヒノは最近フードの中に納まっていることが多かった。
ヒノは岩とかはすり抜けるけど、フードには触れられるようになった様子だ。
着込んでるうちにぼくの魔力が染み込んだことで触れられるようになったのかもしれない。それもあって気に入っているようにも感じていた。
「それじゃ寝床とは別にあのほら穴を見やすい場所を探そうか」
『パゥゥ~!』
残った繭を守ることが目的ということは変わらない。
でも、問題なく孵った場合にどのような形で生まれるのか。それが気になってしょうがない。ということも事実だ。
「ぼくは魔力を感じることができないから、周りに注意するんだぞ~」
言葉が通じているとは思っていない。
でも、ぼくが共に居るということを分かってくれたのか。さっきよりも心なしか元気が溢れているように見えた。というよりも尻尾の振りがすごい。
『ルゥゥ……ッ!』
ポチが鼻を掲げながらヒクつかせた直後だ。密林の奥に向かって姿勢を下げたことを確認するとぼくは隣へ立った。
「何か……いる?」
ポチが唸る方向へ目を凝らす。すると深い草むらの中に身を潜めていた魔獣を視認する。
二本の角を見た時、ぼくでも名前を知っている凶悪な魔獣『バイコーン』かとも思ったけどどうやら違うようだ。
鹿? よりもガゼルやインパラ……のような捩じられた角が後ろ向きではなく、前向きに付いている。肌色ではなく、薄緑の毛並みが保護色の役割も果たしていたため、注意しなければ気が付くこともできないだろう。
なんて思った時だった――
「やべ――ッ!!」
魔獣が角を向け信じられない速度で一直線に飛んでくるも、ぼくはぎりぎりでポチを抱えるように横に跳ぶ。
魔獣は鹿にも見えるが足先がまったく違っていた。
動物ならば蹄であるはずが、敏捷性を追求した結果なのか三本のかぎ爪となっている。
『ビャアア――ッ!!』
やや甲高い鳴き声は戦闘開始の合図だ。
即座に相手は首を垂れその強靭な角をぼくに向けると、周りの風が角に収束するように纏わり付き始めた。
あれは……魔法だ――
ただでさえ堅固な角をさらに小さな竜巻が包み込んでいく。
でも……こちらも先手ばかり打たれているわけではなかった。
『パゥゥゥッ!!』
ビョコリ――と土が突起の形に変わり、魔獣の前足に突き刺さる。
小さく細いということがこの場合は利点となったようだ。
『ビャッ!!』
ぼくも相手が怯んだそんな隙を逃さない。
何よりもあの風を纏った角はちょっとやっかいそうだ。
「ガアァ――ッ!!」
ポチの魔法で作った一瞬でぼくは滑り込むように近づく。
そして首を刈るべく短剣を抜き放った。
ザグリ――という耳障りの悪い音と共に深々と走り去った剣閃に、魔獣は悲鳴にも似た鳴き声をあげ、紫色の鮮血を宙で踊らせた。
仕留めるまではいかずとも、手応えはありだ。そこで魔獣は自慢の脚力を駆使すると大きく飛び退く。
だが、着地するはずの地がさらに幾多の突起を生成していた。
「ポチ。よくやった――ッ!!」
着地と同時に突起が足裏に突き刺さると、ふらつくように態勢を崩す。
ぼくは間髪入れずに詰め寄り、先程とは逆側の首筋へ短剣を走らせると、不快な感触を感じた直後、そのしなやかな筋肉に包まれた首がくるくると空中を泳ぐ結果となった。
「……思ってたよりいいコンビかも?」
抱えたままのポチに目を向けると、ポチは自慢げな瞳でぼくを見つめ、フシュフシュと荒い鼻息を噴き出していた。
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