赤色幼少記 ~落ちこぼれは優秀な義弟と共に物理的に這い上がる~
赤ひげ
一年目
第1話 プロローグ
「……
ぼくが必死で叫んでも何も変えることはできないって分かってた。
この底の見えない崖の下に落ちていくだけ。
それでも……届かないって分かっていても。
ぼくは必死で手を伸ばしていたんだ。
そんなぼくから
血だらけの自分の姿なんて気にもせず。
痛みを忘れたように笑って――
ぼくに向かって腕を伸ばして――
そしてぼくは深い深い崖の底へ落ちて行ったんだ。
最後にぼくへ向けて言った言葉は、
それだけが気になったけど――
もう……この深さじゃ助かりっこない。
底にへばりついて生きるものだと思っていたけど、まさか実際にこんな高さの崖から落ちてへばりつくことになるなんて思ってもいなかった。
ぼくは生まれながらの落ちこぼれだと分かっている。
だから。
期待を込めた目。
あこがれを込めた目。
どころか――
がっかりした目。
バカにする目。
軽べつする目。
すべてに、
だって、
だから……いても、いない。
空気のような存在ですらない。だって空気は大事だからいなくなれば誰でも困る。
だから……ぼくがいなくなっても……誰も困らない。
それは言い過ぎかも。
けど……もう……
そんなことを考えているうちに、ぼくの記憶はそこで途切れてしまった。
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