赤色幼少記~落ちこぼれは優秀な義弟と共に物理的に這い上がる~

赤ひげ

一年目

第1話 プロローグ

「……かーちゃんッ!! 助けてぇー!!」


 ぼくが必死で叫んでも何も変えることはできないって分かってた。


 この底の見えない崖の下に落ちていくだけ。


 それでも……届かないって分かっていても。


 ぼくは必死で手を伸ばしていたんだ。


 そんなぼくからかーちゃんは決して目を離さなかった。


 血だらけの自分の姿なんて気にもせず。

 痛みを忘れたように笑って――

 ぼくに向かって腕を伸ばして――


 そしてぼくは深い深い崖の底へ落ちて行ったんだ。




 最後にぼくへ向けて言った言葉は、かーちゃんに群がった獣たちの叫び声に紛れて聞き取ることができなかった。


 それだけが気になったけど――

 もう……この深さじゃ助かりっこない。


 魔法まほーが使えるなら助かる可能性もあるんだろうけど、ぼくはあつかえたことがない。



 底にへばりついて生きるものだと思っていたけど、まさか実際にこんな高さの崖から落ちてへばりつくことになるなんて思ってもいなかった。


 ぼくは生まれながらの落ちこぼれだと分かっている。

 だから。


 期待を込めた目。

 あこがれを込めた目。

 

 どころか――


 がっかりした目。

 バカにする目。

 軽べつする目。


 すべてに、えんがなかった。


 だって、本当ほんとーの落ちこぼれは……誰にも『にんしき』されないものだから。

 

 だから……いても、いない。


 空気のような存在ですらない。だって空気は大事だからいなくなれば誰でも困る。


 だから……ぼくがいなくなっても……誰も困らない。


 それは言い過ぎかも。とーちゃんとかーちゃんとねーちゃんだけは、ぼくの六才の誕生日を祝ってくれようとしていた。


 けど……もう……


 そんなことを考えているうちに、ぼくの記憶はそこで途切れてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る