第29話 少しずつ距離を詰める2人
「身体に精霊花 凄い、本当に
「本物の薔薇の令嬢ユーファネート・ライネワルト様だわ。私、いじめられちゃうの? あの夢のように? それにしても『てんせいしゃ』ってなんのことだろう?」
テンション高くはしゃぐ希と不安げな表情を浮かべるフィネ。転生者ではないと、少し冷静になりつつも
「ねえ。精霊花ってミソハギよね? どこにあるの? 背中? 肩? いつから現れたの? 大きさはどのくらい?」
「ご、ごめんなさい! ギュンター様、助けてください!」
勢いよく距離を詰める希の迫力に、のけぞりギュンターの背後に隠れるフィネ。そんな震えるフィネにギュンターは、2人の間に立つと距離を取らせる。
「おい。ユーファ。フィネ嬢が怖がっているだろう。そこまでして確認する必要があるのか? 今の行いは貴族としてなっていないぞ。俺は兄である前にユーファを拘束して尋問しないといけなくなる。少し落ち着いてくれ」
「酷いですわ! 私はフィネさんと仲良くなりたいだけですわ。ちょっと勢いがよかったのはみとますが。ところでフィネさん。私は薔薇の令嬢ではありませんわよ。最近は落花生の令嬢と陰で呼ばれておりますわ」
ギュンターの言葉に希が頬を
「落花生の令嬢ですか? 最近、侯爵領で落花生が特産になったからでしょうか? 私も育てています。え? でも、薔薇も有名だし、夢で黒幕令嬢だと言われてまし……し、失礼いたしました!」
なにげに黒幕令嬢とのキーワードを出したが、当の本人を前に言っていい言葉ではなかった。貴族令嬢相手への暴言にフィネは全身の血が引いたようになり貧血を起こす。
そして、そのまま倒れそうになったがフィネをギュンダーが支えてくれた。
「大丈夫か? フィネ嬢。どこかで横になるか?」
「ありがとうございます。ギュンター様。やはり私を守ってくださる。
「いや、俺とフィネ嬢が会うのは今日が初めてだったと思うが? そこまで俺を信頼してくれるのはなぜだ? そういえば出会った時も俺に抱き着いてきたよな? それに雷獅子? それってユーファが前に言っていたよな」
目を潤ませるフィネに、ギュンターが困惑しながら問いかける。雷獅子との単語に希も反応し、近くで話を聞こうと近付く。フィネは希が視界に入っていないのか、ギュンダーに熱い視線を送っていた。
「定期的に夢を見るのです。その内容は鮮明で、数年後の未来なのです。学院に入った私の事を守ってくださるるのが、『雷獅子ギュンター』様なのです。身長は今よりもっと大きいのですが、その凛々しい立ち振る舞い、流れるような金利の髪、そして透き通るような綺麗な瞳。それに雄々しくも優しい瞳に――」
「よし、少し待とう。そういえば1年前にユーファも同じ事を言っていたな。ユーファも同じ夢を見たのか?」
夢の内容と前置きしながらも、徐々に熱を帯びるフィネをギュンターが止める。グイグイと近付くフィネを押さえながら、困った表情で妹が『雷獅子ギュンター』と言ったのを思い出し問い掛けてきた。
「ええ。言いましたわね。ひょっとすれば私も同じ夢を見たのかもしれません。ですが、今はフィネさんのお話を聞いた方が良いのでは?」
希は、ギュンターからのツッコミをさらっと躱すとフィネに質問をするように伝える。腑に落ちないギュンターだが、後でも問い詰める事は出来ると質問を続ける。
「他にも夢を見るのか?」
「そ、その。ユーファネート様と同じ学院に行くのですが、そこで私は色々とユーファネート様から虐め――邪魔をされます。そして、いつも颯爽と助けて下さるのが雷獅子ギュンター様なのです!」
「お、おう。そ、そうか」
「つまりギュンダールートを攻略しているのね。レオン様とかぶらないのでしたら私的にはオッケーですわ!」
フィネがテンションが高くなる様子が妹と同じと感じながらも、なにやらしたり顔で頷くユーファネートに視線を送る。だが、それに反応せずになにやらぶつぶつと呟いているので、後で必ず確認をしてやる思いつつギュンダーは会話を続ける。
どうやらフィネは夢の話を本気で信じているらしく、キノコのダンジョンも夢で見たとの事であった。その為に隣町からここまでやってきており、学院に通うための学費を稼ぐのだと聞くと、ギュンターはその行動を高く評価した。
「若い娘が一人でここまでやって来たのか。それほどキノコのダンジョンは魅力的なのかい?」
「はい。夢で見た内容だとレアなフルーツ味のキノコを手に入れて商人さんに売れば1年ほどの生活費が手に入っていました」
学院は基本的に無料で学べるが、それ以外の教科書や制服、休日の食費などが必要になる。市民で特待生になれば援助はあるが、ぎりぎりの生活になるため、貴族や豪商以外の者はある程度の備蓄が必要であった。
それを自身の手で稼ごうとするフィネの話を聞き、ギュンターはキノコのダンジョンの評価を見直した方が良いのではと考えていた。そんなギュンターの隣で希がフィネとコミュニケーションを取ろうとお菓子で釣ろうとする。
「フィネさんの好きな落花生を使ったお菓子ですわよー」
「落花生は好きなのですが、なぜユーファネート様がそれをご存じなのでしょうか」
ゲーム知識を元にフィネを攻略しようとした希だが、どうやら逆に警戒させてしまったようであった。まあ、いきなり初対面の相手に言われればそうだろうな。そう思いながら希は違う攻略の手を伸ばす。
「しかたないですわね! では、お兄様のマル秘情報を提供しましょう!」
「本当ですか! どんな対価を払えばいいですか!」
「おい! なんだよ、俺のマル秘情報って。ってか、フィネ嬢も食いつきが凄いな!」
希の提案がよほど魅力的だったのか、目を輝かせるフィネに思わずギュンダーはツッコんだ。そんなフィネに希は嬉しそうに何度も頷く。
「ちょっと乙女の会話をしますからお兄様はあっちで紅茶でも飲んでいてくださいな」
「いやいや。俺の話をするんだろう! 何を言われるか気になるだろうが」
「セバスチャン。お兄様をあちらに案内してちょうだい」
「はっ」
「おい、セバス! 放せって。気になるだろうが! いや、ちょっ。強っ! 引っ張るなって。分かった、分かった。行くから! 引きずるのはやめろって」
主人の一言でギュンダーを引きずっていくセバスチャン。目を輝かせているフィネに、希は嬉しそうに椅子に座るように伝え、自分が知っているギュンダー情報を事細かに伝え始める。
「まあ、そんなところにほくろが?」
「ええ。それだじゃないわよ。お兄様の好物も教えちゃうわ!」
「素敵です。ユーファネート様! 一生ついていきます!」
二人の会話が終わったのを確認したギュンダーの眼に写っているのは頬を染めるフィネと、満足げに語り終えた妹の姿であった。
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