第12話 希はそわそわしてその日を迎える
「ついにやって来たわ」
緊張で寝れなかった希だが化粧で誤魔化す事に成功する。ドレスもオークションで得たお金でリフォーム出来た。これで万全だ。
「最推しに会うなら、これくらいは必要よね!」
ゲームに登場するユーファネートのような豪華絢爛さはなく、ドレスに散りばめられていた宝石はオークションに出しており、すっきり清楚な感じに仕上げていた。
「
鏡の前でくるくると回りながら服装チェックをする希を、セバスチャンが感動の様子で見ている。この1ヶ月で完全に信者となっており、ユーファネートの背後に控え、尊敬の眼差しを送るセバスチャンの姿は使用人達の名物となっていた。
「ユーファネート様の
「そう? ありがとう。セバスチャンがそう言ってくれるなら間違い無いわね。ああ、レオン様早く来ないかな。この服装をお気に召して下さると良いのだけど。そう言えばセバスチャンは準備万端なの?」
「はい、もちろんでございます。しかし本当によろしいのでしょうか? 私のような者が殿下へのお世話係りを務めるなど。それに紅茶を淹れるなんて」
予定のお茶会で、希はセバスチャンに紅茶を淹れるように頼んでいた。それだけでなく、全体的なサポート担当にも命じていた。
最初は反対した両親だが、希の強い推薦とセバスチャンの成長度合い。周囲からも子供レベルであるが及第点が出ているとの報告を受け了承した。当然ながら事前に娘が気に入った子供の執事が対応をするが、幼い行動なので許して欲しいと王家には連絡済みであった。
「私はセバスチャンの成長が見たいの。ダメだったかしら?」
「とんでもございません! このような大役を任せて頂けるなんて幸せでございます。それにユーファネート様が親身になって、アドバイスまで頂きました。このセバスチャン、身命を賭して失敗はいたしません」
両手で拳を作り気合いを入れる可愛らしいセバスチャンにユーファネートは抱き付いて頭を撫でる。
「もう。本当に可愛いんだから」
セバスチャンがハグされるのも侯爵家の日常となっていた。わがまま姫ユーファネートの変わりようは、使用人達から受け入れられており、それは希が使用人達に謝罪して回ったのも大きかった。
「お嬢様が謝罪!?」
「本当に変わられた?」
「あの高熱はひょっとして神の采配?」
「これでライネワルト侯爵家も安心だわ」
今までどれだけだったのよ! と謝罪後にヒソヒソと聞こえる声に希が思わず心の中でツッコむ。それほど使用人達の反応は凄かった。
セバスチャンの頭を撫でながら、兄ギュンターの関係が劇的に改善したことも思い出していた。最近はユーファネートが稼いだ資金を使い、事業を一緒に始めている。
ギュンターが特に力を入れているのは落花生増産であり、希から聞いた落花生の効能に興味を持ち、困窮食として使えると聞くと領民に無償で種を配布するほどだ。
(雷獅子ギュンターが農業に目覚めるなんて。ここって『君と共に耕す☆ 野菜を育てるのは誰だ!?』なのかな? でもあれにはギュンターは出てこないのよね。ユーファネートと一緒にいるセバスチャンとレオンハルト様は出てくるけど)
知らず知らずのうちに希はセバスチャンを抱きしめるだけでなく、首に鼻を近づけて匂いまで嗅ぎ始めた。
「あ、あの。ユーファネート様?」
真っ赤になりながら希に声をかけ、身じろぎをするセバスチャンだが、思考の海に沈んでいる希には届かない。抱きしめる腕をさらに自分側に引き寄せ、無自覚にセバスチャンとの距離を縮める。
(侯爵領内の森に住む魔物を討伐したらドロップする「腐葉土」を教えた時は凄かったわね。野菜や果物の収穫量が増えると聞いたお兄様が冒険者から入手した腐葉土を使ったら一瞬で落花生が出来上がって私もびびったわ)
検証に付き合った希すら驚愕する効果にギュンターは大喜びで冒険者ギルドに高額買取り依頼を出す。本来なら
現在、ギュンターの元には「腐葉土」が集まりつつあり、落花生の種を増やすために利用されている。落花生の収穫で土まみれになりつつも、領民の未来を思い描くギュンターの顔は誇らしげであり、両親も頼もしそうに眺めていた。
スチルで見る凜々しい俺様系キャラのギュンダーはおらず、希にはやんちゃな弟が出来たような気分になっている。
「ふふ。後でお兄様のところに行こうかしら。そう言えばレオンハルト様の到着はまだかしらセバスチャン」
いつまでも嗅いでいたいサボン系の香り。目を閉じながらセバスチャンの匂いを満喫していた希が確認するが返事はない。腕の中にある温もりは感じているので離れたわけではなさそうだ。
「セバスチャン?」
不思議そうしながら開けた希の目に入ってきたのは、ゆでだこのように真っ赤になって幸せそうに目を回しているセバスチャンであった。
◇□◇□◇□
レオンハルトが来るまでしばらく時間があると言われた希は、ギュンターが敷地の一角に作った畑に来ていた。
「どのような感じですか?」
「おおユーファか。お前に教えてもらった腐葉土は本当に凄いな。種と一緒に蒔くだけで効果が出るからな。これでもっと腐葉土があれば落花生の大量生産が可能なのだが」
ゲーム内では大量に取れないレアアイテムだが効果は抜群であり、
腐葉土の効果をギュンターは周囲に秘匿しており、冒険者ギルドマスターと両親、屋敷で農業指南をする庭師などごく少数の者しか知らない。
「レオンハルト殿下がそろそろいらっしゃる頃だろう? 準備をしなくていいのか?」
「まだ時間があると聞きましたので、お兄様の様子を見に来たのです。お兄様こそ準備はよろしいので? 出迎えは家族総出とお父様が仰っていました」
「ふっふっふ。俺はこれがある!」
今のギュンターは農作業姿であり、連絡があってから着替えたのでは到底間に合わまに。心配した希が問うと、ギュンダーが嬉しそうに胸を張った。高らかに上げられた腕には凝った意匠の腕輪が装着されている。
「ひょっとして『へんしんすーる』?」
「なんだユーファは知っていたのか」
残念そうな顔をするギュンターはスチルですら見た事がない可愛らしい表情を浮かべており、希は思わず抱き付きそうになるが、泥だらけのギュンダーを見てなんとか踏みとどまる。
ギュンターが装着している腕輪は「君に心を届ける☆ 心を捧げるのは誰だ!?」で登場する衣装管理アイテムであった。それを農作業用に使用しているとは。腐葉土など目でもない超レアアイテムの無駄遣いに希は苦笑していた。
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