第33話 「勝利への執着と」
「やあ、我が弟子達よ。三人で雁首揃えて作戦会議かい?仲が良い様で大いに結構!私は一人疎外感を覚えているが、それとは関係なく業務連絡を持ってきたとも!」
昼下がりの平和な応接間に、騒がしい師匠が満面の笑みで突入してきた。
その様子に俺は何か面倒事が持ち込まれるのではないかと身構えたのだが、他二人は一切気にも留めていない。
テラスさんはゆっくりと紅茶を飲んだままで、レクシーもまだ眠気が残っているのか俺の肩にもたれかかってうとうととしたままだ。
師匠が不憫に思えてならないが、謎にハイテンションでうるさいのが常態化している師匠サイドの問題でもある。
せめて、俺だけは話に乗っておくか。
「業務連絡、と言われても一切ピンと来ないのですが。で、その内容は?」
「うむ、よく聞いてくれた少年!いやほら、君とレクシーが戦っている様を見せて欲しい相手が居ると言っていただろう?」
「あー……忘れてましたね、完全に。それを終わらせれば学院へ入る為の書状も書いてくれる、という話でしたっけ」
「なんだ、以外と覚えているじゃあないか。まあ、書状の話は半分嘘なんだけれどね!見せたい相手というのが学院長だから、許可とかは彼女から直々に貰ってくれたまえ。私も、わざわざ書類仕事はしたくないんだ!」
何とまさかの丸投げ。
しかも、学院長とかいうどう考えてもトップの人間に。
師匠は人脈も広いだろうと想像はしていたが、これほどとは。
「はあ。それで、時期はいつ頃です?出来れば早い内に知っておきたいんですが」
「丁度一週間後だから、よく覚えておいてくれたまえ。場所は学院所有の決闘場、私が数年前に無茶言って建てさせた施設だとも。いやあ、あの時は悪い事をした!」
「……大変ですね、師匠に振り回された人達は。レクシー、聞いてました?一週間後らしいですよ、決闘」
「んー……うん、分かった。その時になったら教えてくれる?」
「はいはい、聞いてなかったんですね。後で全部伝えますから寝といてください」
レクシーと前回一対一で戦ったのは、何ヶ月前の事だっただろうか。
まだ一週間も先の事だと言うのに、既に楽しみで仕方がない。
今度は、どんな方法で勝ちに行こうか。
次は、どんな方法で打ち負かされるのだろうか。
本当に、本当に、待ち遠しい。
「師匠、ルールは?」
「ふむ、別に学院主催のものでも無い訳だしねえ。普段とは多少趣向を変えて、武器も魔道具も杖も、文字通り何でもありの一本先取なんかでどうだい?」
「良いじゃないですか、普段と違い新鮮味もありますし」
「……ノベル、本当に良いの?杖有りになると、私が圧倒的に有利だけど」
「それが?足を掬うのは俺の得意技ですよ。間違っても、遠慮なんてしないで下さい。俺が、勝ちますから」
確かに、レクシーの魔力量なら適当な攻撃魔術が刻まれた杖を持つだけで、軍隊を殲滅出来る程の圧倒的な強さを誇るだろう。
だが、俺だって条件は同じだ。
それなりに恵まれた魔力量、何故か魔術の準備を一部短縮出来る眼、師匠から学んだ錬金術。
切れる手札の多さなら、間違いなく俺の方が多い。
「話はこれで全てですか?なら、俺は少し出かけてきます」
「そうなんです?ノベルさん、それじゃあまたー。お二人の戦い、楽しみにして……ヘルメス、そういや私も見て良いんだよね!?」
「別に拒否する理由もないし、好きにしてくれたまえよ」
「やったー!私だけ出禁にされないかヒヤヒヤしたよ、ほんとに」
「ノベル、行ってらっしゃい。……私、勝つからね」
「それを聞いて安心しました。場合によっては数日間屋敷に帰らないので、昨日稼いだ分の給料は置いていきますね。それじゃ、また」
机の上に金貨十数枚を置き、応接間を出る。
今回ばかりは勝たねばならない。
彼女に並び立てる存在であると、証明しなければならない。
でないと、いざという時に頼って貰えないのではないか。
……そんな不安と強迫観念を振り落とし、堂々と彼女の隣に並ぶ為にも。
今回ばかりは、勝つ為に手段を選んでいられない。
いつの間にか財布の中に入れられていた白い水晶を握り締め、癪ではあるが街に出かける。
* * * * *
「……ノベル、数日帰らないって言ってなかった?」
「あー、言ってましたね」
「間違いなくそう言っていたとも。案外、少年の方が気まぐれなのかねえ?」
「え……嘘、だよね?……浮気?」
「いやいや、ノベルさんに限ってそんな事はないと思うな!ヘルメスとは別の師匠を見つけたりしたんじゃないです?」
「……それは浮気だとも!おい、先に少年を見出したのは私だぞ!?」
いや、ノベルを最初に見出したのは私だから。
ヘルメスが相手でも、そこだけは譲れない。
「……あ。浮気相手かつ師匠の可能性がある奴、一人だけいるかも」
「本当かい!?教えてくれ、そして二人で殴り込みに行こうじゃないか」
「物騒すぎません!?きっと大丈夫ですって、落ち着きましょうよ!」
「落ち着いている場合じゃないよ、今は。テラスも見たよね、気絶したノベルを運んできたあの少女。ちょっと雰囲気も私に似てたし……髪色とか。あの人は敵だよ」
「そんなに似てました?灰色と白は違うと思いまーす!それと、敵は流石に言い過ぎですよ?……いや、本当に悪い人だったらアレですけど!」
そもそもノベルが自爆して気絶なんてする訳が無いんだから、何かを隠しているのは間違いない。
さっきから師匠が何かを悟ったような顔で青ざめているけれど、もしかしてあの人と知り合いだったりするんだろうか。
確かに、この辺だと完全な白髪は珍しいけども。
「……その少女、一人称が変だったりまるで人形のように端正な顔立ちだったり、会った時にどことなく人間じゃなさそうだ、などと感じたりはしなかったかい?」
「んー、一人称は別に普通だったけど。顔が綺麗だったのはまあ、確かに言われてみれば……そうだね」
「人間じゃなさそうとまではいきませんけど、不思議な人ではありましたねー。なんか、期待しているみたいな事を言われましたし」
「ふむ、確認してみるだけ確認しておくか。私の知っている彼女なら、人の師匠になれる程の器用さは持ち合わせていない筈だからねえ!」
そう言うと、師匠は勢い良く応接間から飛び出してしまった。
次の決闘、手を抜かないどころか絶対に叩き潰してやる。
膝枕はするのもされるのも嬉しかったからあれで手打ちにしようかと思っていたけど、そういえば私が寝ている間に何もされなかった気もするし、不完全燃焼感が拭いきれない。
「……テラス。私にも紅茶、貰える?」
「あ、はーい。今から入れてくるので時間かかりますけど、良いですか?」
「全然大丈夫、紅茶ならいくらでも待てるよ。人間は……うん」
「レクシーさーん、今凄い魔王みたいなオーラが出てるの自覚してますー?」
「え、そうだった?ごめん、自覚なかった。……いや、魔王みたいなオーラって何?」
うん、全くもって心外だ。
むしろ、私とノベルならノベルの方が魔王っぽいと思うけどな。
搦め手とかいっぱい使うし、それに対して私は王道を征く勇者タイプだと思う。
……まあ、魔力で身体能力を強化しても、剣は上手く扱えなかったんだけど。
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