第四話 天の災い
「て、天の牡牛ってそんなにすごいんですか……?」
ニントルの顔は青白く、今にも手足が震えそうだった。ニントルの質問に答えたのはシャルラだ。
「そうね。確か壁の一部が崩落……いえ、完全に崩壊したそうよ」
「まじかよう。ウルクの城壁って多分あたしら二十人分くらいの高さだったよな」
ターハの呆れたような言葉がより一層危機感をあおったのか、ニントルは今にも泣きだしそうだった。
「心配しなくてもいいわよ。前回はほとんど奇襲みたいなものだったから被害が広がったけど、今回はちゃんと備えられる時間があるから大丈夫よね、エタ」
ミミエルの質問にエタは首を縦に振った。
「前回は何があってどうすればいいのかわかる前に戦いが終わってしまったからね。今回は前回の記録もある。ううん、こういう時のためにエドゥッパは記録を保存しておいたんだ」
「つまり、対策があるんだな?」
ラバサルの端的な質問に自信をもって答えた。
「はい。迷宮を攻略します。いつもと同じです」
「迷宮? じゃあ、天の牡牛はどこかの迷宮から産まれた魔物なの?」
「違うよミミエル。天の牡牛は迷宮から産まれたんじゃなくて迷宮そのものなんだ」
「はあ!? いや、迷宮が生き物ってそんなんありかよ」
「今更よ、おばさん。前回だって迷宮っていうわりに都市だったじゃない」
そうだけどよう、とターハは唸る。
確かに今まで少なくとも迷宮はどこかにあるもの、だった。それがいきなり襲ってくるのだから面食らうはずだ。
「前回の戦いの最中に迷宮の居場所を明かす掟を使った人がいたそうです。それは天の牡牛を示したらしいので、天の牡牛は獣の形をした迷宮であると推測されたとか」
「なら、ある意味やることははっきりしたな」
ラバサルの言葉に全員が頷いた。
「いつも通り迷宮の核に到達し、迷宮を攻略する。それが天の牡牛を倒す術であり、ウルクを救うことになります」
「そうなると、やっぱり天の牡牛の掟とその弱点を探らないといけないのね」
ミミエルの疑問に答えたのはシャルラだ。
「いいえ。もう掟はわかってるわ」
「うん。天の牡牛の掟は地震」
「地震……弱点は……」
「……わからないね」
全員で頭を抱えた。
雨粒のすべてを受け止められないように、落雷の光をかき消せないように、地震を止める術などありはしない。せいぜい地震に強い建物を造るくらいだ。
天災に弱点などあるのならば誰も苦労はしないのだ。神の随獣とまで呼ばれるのには相応の訳がある。
決して倒せないからこその天の牡牛である。
「ただ……前回の戦いで天の牡牛はウルクの都市部を半壊させたのち撤退したそうなんだ」
「一部の人はそれを神々がウルクを許したと判断したみたいね」
「あんたの意見はどうなのよ」
ミミエルのじろりとした視線と、全員の真剣な目つきがエタに集中する。
「……多分、核の力が衰えたりしたんだと思う。地震の掟なら、地震が起きなくなれば弱体化するはず。実際に天の牡牛が目覚める直前に地震が起きたそうですから」
「おっと、それじゃあ地震を起きなくしちまえば……いや、無理だよな。せめて地震がいつ起きるかとかがわかればいいんだけどな」
ターハの端的な疑問にエタは思案気になった。
「そうですね……その方向から考察してみるといいかもしれません」
「地震がいつ起きるかわかるの?」
「そういう掟があれば一番だけど……地震が起こった場所なんかを記録していれば何か手がかりがつかめるかもしれない」
「なら、わしらが遠征の準備を進めよう。エタとシャルラは何とかして地震について調べてくれ」
ラバサルの提案はもっともだった。
地震についてわずかでも記録しているとすればエドゥッパだけだろう。
エドゥッパの学生だった二人なら手がかりを掴めるはずだった。
「いえ、もちろん準備も大切ですがそれよりも……最悪の事態に備える必要があります」
「最悪の事態?」
「はい。ウルクが本当に壊滅した場合、避難しなければなりません」
あまりにも不吉な発言に一同は表情を凍らせた。
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