第24話 触らぬ神に祟りなし

風が少し寒くなってきた頃、青く澄んでいる空に少年の声が鳴り響く。


「先輩! なにやってるんですかぁぁぁぁ!!!」


演劇部の部室には叫び声をあげた少年と土下座している女子生徒の姿があった。


「ゆ、許してくれよ! 柳沢くん!!」


「これ、高梨先輩へのクッキーだったんですよ! なんで勝手に食べちゃうんですか!!」


「だ、だって、机にあったから柳沢くんが私に向けて送ってくれるのかなーって」


「そんなわけないでしょ! まったくこの自己評価が高すぎる先輩は...もう呆れの感情しか湧かないですよ...」


呆れ声を通り越して軽蔑したような声を聞いた先輩はより一層頭を地に擦り付ける。

とても先輩とは思えないような風貌だ。


蔑んだ目で見下されながら数十秒の間土下座し続け、先輩が無言立ち上がりこう言った。


「でもね...柳沢くん。私は反省もしていないし後悔もしていないのさ! だって柳沢くんの手作りクッキーが食べられたからね☆」


ドゴッ!


部室に嫌な音が鳴り響き、雪野先輩が壁に向かって吹き飛ぶ。嫌悪感を隠さず顔にだしている高梨先輩がそこに立っていた。


「ん、後輩くん。ウザい気配したから蹴った。悪いことはしてないから反省も後悔もしてない」


「あはは...」


「痛い...痛いぞ...レッドカード相当だ! 退場しろ、出ていけ! 高梨!」


非力な高梨先輩が雪野先輩をあそこまで吹っ飛ばせる訳がない。演技だけは上手い人だからあれは確実に演技だ。


ガララという扉を開ける音が聞こえ一人の生徒が部室に入ってくる。


「柳沢先輩こんにちは! またやってるんですか...懲りないですねぇ、雪野先輩も」


「林堂くんこんにちは、まったく土下座も見慣れてきたものだよ...」


「見飽きるくらい見ましたもんね...雪野先輩は今回なにやらかしたんですか?」


僕は乱雑に開けられた袋を指差す。

すると何があったか察したように「あぁ」という声を漏らした。


「そういえば今日でしたね。高梨先輩の誕生日」


その瞬間空気が凍った。

そういえば誕生日だから作ったクッキー食べられたこと言ったっけ?

言ってない気がするな...完全にやらかした


「後輩...二人いる...柳沢後輩、これ、私の?」


雪野先輩が何かを懇願するような目でこちらを見てくるが、これはもう正直に言うしかないだろう。犠牲になるのは僕じゃないからな。


「...はい」


プツンと何かが切れるような音がして、高梨先輩が般若のような形相になる。


「雪野ォォォ!!!! お前ってやつはいつもいつもォォォォ!!!!」


「ひぃぃぃぃ、おい! 柳沢くん! なんとかしてこの暴走高梨を止めてくれ! ちょっ、高梨追いかけて来ないでくれたまえ!」


...触らぬ神に祟りなし、南無南無...


「や、柳沢先輩! 止めなくてもいいですか?」


「...」


「林堂! どうにかしてくれぇ!!!」


「うわぁ! こっち来ないでくださいよぉ!」


「あ、待て! 逃げるな! 林堂!」


「雪野ォォォォ!!!」


空中に舞う砂埃、荒れていく部室を見て、遠い目をしながら僕は思う。


あぁ、今日も平和だなぁ...


__________________________________________


「それで、片付けだけして帰ってきたと」


「うん」


あの後騒ぎを聞き付けた大野先生がやって来て暴走した高梨先輩を止めた。

当然雪野先輩は今年何度目か分からない生徒指導室へ、高梨先輩は走り疲れて保健室に行った。


あの先輩絶対許さねぇ...片付け僕達でやる羽目になったんだぞ。


「それは災難だったな。クッキーは結局どうしたんだ?」


「後日また作って持ってくことにするよ」


そうか、とだけ言って兄さんは自分の部屋へ帰っていた。

残された僕は夕食の準備に取りかかる。

今日はそうだなぁ...冷蔵庫にある材料的にハンバーグでも作ろうかな? あと味噌汁とホウレン草とコーンでも炒めるか。


肉は解凍してあるし今から作るか。取り敢えず玉ねぎ切って...うっ、いつもの事だけど涙がでてくるよ...あー辛い辛い。

次に油敷いて、焼いて、周りが焦げ付かないようにヘラで落とさないとな。

キツネ色になってきたからこれでよし!


少し置いて粗熱が取れたから、合挽きと合わせて混ぜる前に調味料をぶちこむ。

パン粉、牛乳、塩、砂糖、ニンニク、胡椒入れて混ぜ合わせる!


この混ぜ合わせる感触が良いんだよね...

タネが出来上がったから、これをハンバーグの形にしていく!


そしてここからがハンバーグ作りの目玉と言っても過言ではない、ぶん投げタイムだぁ!


パン!パン!パン!パン!


なるべく早く! 効率良く!


パン!パン!パン!パン....



...よし、これで全部のハンバーグ(生)が出来たぞ! あとはこれを焼くだけだな。


ということで焼けたものが此方になります。

一回言ってみたかったんだよね! 某3分クッキングみたいなこの台詞!

そういえば世の中にはハンバーグを30秒で作る動画があると聞いたことがあるな。多分具材とか切ってないんだろうなぁ。


「兄さん~もうちょっとで夕食できるよー! 降りてきてー」


そう叫んで少し時間が経った後、大量の書類を持った兄さんが降りてきた。


「なんなのそれ?」


ハンバーグを焼いている間に作った味噌汁の味見をしながら僕はそう言った。


「あーこれ? 弟よ、喜べまた作業の時間だ」


はぁ、どうして僕の周りにはこんな人しかいないんだろうか。


「兄さん。これから夕食の時間だからその書類は一旦戻してきて」


「いや、でもテーブルに置けばいいんじゃないかな?」


どうやら記憶力も無いようだ。


「前そう言って書類に水溢したのは誰だっけな?」


「...はい」










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