第23話 爆緋鳥ガルーダ

 ――――ピチャンッ――――


 下界の級友達と昼食を取っていたルカへ唐突に降りかかった水音。瞬きにも勝るとも劣らない瞬間の転移は見渡す限り蒼の神秘空間へとルカを引き摺り込んでいた。



「こっちの都合もお構いなしだな……しかしまぁ、一緒に居たサキノは転移されてないところを見ると、ココの言ってた強制召喚レイドコールはどうやら俺限定みたいだな」



 全戦全召ぜんせんぜんしょう強制召喚レイドコールの実績は己が特異であることを疑う余地はない。

 現在地、学園学園最上階の天空食堂。ルカは窓ガラスの傍へと寄りって高所から都市を見下ろす。



「ココに言われたように無理はするべきじゃないんだろうけど、実際見つかるよりも先に俺が幻獣を見つける事が出来れば、遠距離砲や武器の巨大化で先手を打つことも可能。移動が破壊的だったら高所ここから見下ろせば位置を特定出来るかもしれん」



 ルカが想起するのはバジリスクやクジャタ。都市をいとも簡単に破壊する騒音や物陰を探してルカの黒眼が目下を彷徨う。

 そんなルカの意識の断片に映り込む、時間外れの打ち上げ花火。



「……花火――じゃない、よな?」



 空に打ち上がった花火は遠方で軌跡を残しながら宙を縦横無尽に駆け巡り、それはやがて一直線に学園へと飛来し――。



「やっぱり幻獣かよっ!? このまま突っ込んでくるつもりか!?」



 バリィィィンッ!! と豪快に窓ガラスを突き破りながら鳥獣が天空食堂へと侵入を来たした。

 巨大鳥を回避したルカへと、続けて巻き起こる花火――『爆発』によって砕けた机や椅子や爆散する。



「爆発……!? ケルベロスと同じような異能の力か!? だとすれば室内じゃ場所が狭過ぎる!」



 机を盾に飛来する鉄屑や木片をやり過ごしたルカは瞬時に翠眼で身体を強化し、外に面する扉を蹴り飛ばす。



「先手を打とうとしてた目論見が簡単に破綻するなんて……非常階段をちんたら降りてる余裕もないな!」



 手摺や柱をパルクールさながら使いこなして大幅に時間を短縮しながら地上へと高度を下げていく、その上部で大爆発。



『アアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』



 最上階から脱した鳥獣は爆破を引き連れながら大きく旋回、地上間際を滑空してルカへと爆飛を繰り出す。



「直線的な突進――武器巨大化で仕留めてやるッ!!」



 一撃決殺。紫紺の瞳に切り替えたルカは宙に躍り出て巨大長剣を創造し、黒弧をなぞり縦一閃。

 上部に突如現れた黒の大剣に幻獣は――。



『ゲアァァ』

「爆発で鋭角的に避けるなんてアリかよ!?」



 爆緋鳥『ガルーダ』。

 緋色の嘴、わしの頭部、気高きたてがみ、二対四枚の翼といった、神々しさを兼ね備えた幻獣。


 ルカの決め手を回避したガルーダは先鋭な嘴で獲物の貫通を狙う。



「盾が間に合った……! こいつの加速力が乗り切る前で――」



 ガルーダの返報を小盾で辛うじて防ぐ。しかしルカの安堵を裏切るかのように「すぅっ」と周囲の酸素が警告をあげる不吉な音。


 ドォォォン! と鼓膜を破るほどの大爆発がゼロ距離にて引き起こされる。

 


「ゲホッ……!? 構えてたのが盾で助かったけど、自動追尾の爆発は防御も駄目って事か……!?」



 爆煙から飛び出したルカは地を擦過し、ガルーダの厄介性を認める。

 体勢の整わない内に迫りくる追撃に、ルカは対抗策を頭に巡らせながら翠眼でその場から駆け出した。



「戦闘において優位に立ち回るために移動は主要マスト……だけど時間差の爆発を撒き散らすガルーダが相手じゃ動きが制限される……! うっ!? 爆破を前……にっ!?」」



 時にはガルーダはルカの前方を横切り、行く手を阻むように爆破を仕込む。進路を防がれたルカは速度に乗ることもままならず、優位な動きを作らせて貰えない。



「建物を利用して姿を晦ませる知能もある……無闇に動けば影からグサリ、回避に徹しても爆発が襲い掛かる」

『ゲアアアアアアアッッ!!』

「ふぅ――結界。……無理くり回避しようとしても埒が明かない。一旦仕切り直そう」


 

 身体を護る半円球状の結界がガルーダの猛攻によって盛大に揺さ振られる。

 突貫、爆破、翼撃。ありとあらゆる攻撃を繰り出すガルーダは、しかしルカに通用しない事を悟ると上空へと舞い上がった。



「よし距離を取ったな。この距離じゃ当たらないだろうけど、ひとまず電磁砲で狙ってみるか……? いや魔力を無駄に消費するのも自分の首を絞めるだけ……」



 高層ビル群の間を飛び回るガルーダを眺めながら戦略の発案と棄却を繰り返す。

 そんなルカに一抹の違和感が。



「爆撃が止まってる……完全自動フルオートって訳じゃないのか? ん、粉……? まさかッ――――!?」



 先程まで脅威の象徴としていた爆撃の終息。代わりにルカの眼に飛び込んだのは、太陽光に反射しキラキラと煌めく粒子。

 


(爆発をさせて周囲一帯を崩落させるつもりだ!)



 結界に閉じこもる可能性のあるルカを確実に仕留めるためのガルーダ凶悪の一手――爆紛をルカは目で捉えてしまった。


 ルカはその場を脱そうと一歩踏み出した。

 しかし。


「逃げ――」

『ガルアアアアアアアアアアアッ!』

「っ!? やっぱり逃がしちゃくれないっ!」



 翠眼を解放して危地の離脱を図るルカを足止めするように両足の鉤爪を差し向けるガルーダ。ルカは堪らずバックステップで回避を取らされるが、その行動はガルーダの思う壺。地を穿つガルーダは豪快に翼を羽ばたかせ急上昇し、四つの翼を開帳する。



『アアアァァァッッッ――――――ッ!!』



 起爆スイッチが押された。



(マズイマズイ……! 結界を――)



 大爆発の渦は高層ビルの尽くを破壊してルカの頭上へと。



(――いや、結界じゃ駄目だ。ガルーダは爆発で仕留めるつもりじゃない。結界ごと生き埋めにする圧死を狙ってる――)



 ルカの橙黄色の双眸に焼き付けられた、神々しくも禍々しい幻獣の姿。それはまるで生死の審判を握る神獣のようで。

 ルカは降り注ぐ多大な瓦礫の山を受け入れるしかなかった。



『アアッ! ガアアアァァッッ!』



 ガルーダは余念なく更に爆紛を撒き散らし、爆発と倒壊は留まることを知らない。視界の確保すら困難を極めるほどに爆紛を散布した爆緋鳥ガルーダは、ようやく動きを停止させ宙に止まり翼を折り畳んだ。



『ガルアアアアアアアアアアアッ!!』



 勝利の雄叫び。

 歓喜を含んだ絶叫とともに宙で小さく飛び跳ねるガルーダ。

 ありとあらゆる物の悲鳴を巻き上げた霧が次第に晴れていく中。




 一つの影が霧中で動きを見せていたのだった。

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