仕事開始

 俺達は壁の修理の仕事場へと足を踏み入れた。結構朝が早いっていうのに、もう多くの種族が働いている。重い荷物を持ったり肉体労働をしている様子。


 果たして、自分に出来るのか不安になってきた。とにかく頑張るぞ。


 俺達に気づいたのか、一人の人物が近づいてきた。これまたクロエとも大きさが変わらない程でかい。顔は爬虫類のトカゲみたい。彼か彼女かはわからないがリザードマンという種族なのだろう。


「現場監督のルークだ。話は聞いている。早速で悪いがすぐに仕事に入ってくれ、人手が足りないんだ。着替えは用意してあるから、小屋で着替えてくれ」


 なるほど、彼がギルドで聞いた怖い親方のようだ。第一印象としては悪い人には見えないけど、仕事を一緒にしてみないとわからないのかな。


 俺達は渡された作業着を着るために小屋へと向かう。さて、ここで問題が発生する。俺は女性の裸も見れないんだ。どこまでが裸認定されるのかは俺もわからんが、肌色率が高まると体が痺れて動かなくなってしまう。


 それをクロエには言わなくてはならない。


「シイ、理由があってあまり人に体を見せたくない。それぞれ一人ずつ着替えようかと思っている。どうかな?」


「いや、こっちとしても助かるよ。俺も理由があって一人で着替えたかったんだ」


 まさか、クロエの方から言ってくるとは思わなかった。だが、助かった。一人で着替えられるのなら何でもいい。


 俺はクロエに先に譲ってもらって着替えた。俺の背中には小さな羽があるんだが、そこもちゃんと考えられていて、羽の部分がきちんと空洞になっていた。


 それぞれの種族用の服が用意されているんだなと感心した。二人の着替えが終わって、親方の元へと戻った。親方は俺達二人の様子を見て頷いた。


「よし、着替えたな。二人には外壁修理の為に石を運んでもらう。肉体労働だから結構きついぞ。そこでなんだが、えっとそこのちっこいの」


「あっ、えっと、俺ですか」


「そうだ。お前、その小さな体で仕事が出来んのか?」


 顔の表情は一切変わらない。なんか、雰囲気は怖い。かと言って、この仕事に志願しておいて今さらできませんとは言えない。


 顔怖いから言えない。


「で、出来ます!!」


 俺は必死に答えた。


「そうか……」


 親方はそれだけ言って話は終わった。なんだったのだろうか? まあいいや、とにかく頑張って仕事をするぞ。


 まずは、材料となる石を運ぶ仕事だ。


 俺は絶句した。自分と同じくらいの石の大きさだからだ。とてもじゃないが持てる気がしない。が、試さないのもどうかと思うし、もしかしたら軽いかもしれない。


 石を持ち上げようと力を入れた。


「んぎぎぎぎ、んにゃーーーー!!」


 石は少しも動く気配を見せない。隣では、俺の持とうとしている大きさの石を、四つぐらい担いで持ち運んでいるクロエの姿見える。


 同じ二足歩行の生物なのか疑わしくなってきた。


「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん、絶対無理だって諦めなよ」


「いや、無理かどうかはやってみないとわからないでしょ!!」


「今やってみて動かないんだろ」


 確かにそうである。俺はひとまず石を持とうとする動作をやめて、俺に話しかけてきた人を見る。親方と同じリザードマンだ。ただ、親方と違って表情が柔らかい。


「お嬢ちゃんには石運びは無理だって、とりあえず石運びが終わるまでは休んでなよ」


「でも、それだと仕事しに来たのに……」


「んーー、じゃあ先に砕いてやるよ。壁の修理をする時に必要な分だけ砕くんだけど、ある程度はわかっているしな。先にやってもいいだろう」


「是非、お願いします!!」


 という事で、リザードマンに石を砕いて俺が持ち運べるサイズにしてもらった。持ってみると、ちょっとふらつくけど持てる。これで、何回か往復すればいいな。


「持てそうだな。嬢ちゃんはゆっくりでいいからな。焦らずに持つんだぞ」


 優しいリザードマンのお兄さんに助けてもらって、何とか運び続ける俺。


「シイ、私も手伝う」


「いや、自分の分があるだろ。そんなの悪いよ」


「んっ、心配ない。それなら、もう終わったから」


 よく見て見ると、俺以外の分はもう終わっているようだった。なるほど、俺は周回遅れしているわけだ。悲しいなぁ。


「大きいのは私が一気に持ってくから、シイは小型のを持って行って」


「わ、悪い、お願いする」


 という事で、無事にクロエに手伝ってもらって終了。あれっ? 結局、クロエがほとんど運んでるじゃん。俺は何もしていないに等しい。


 次、頑張れば大丈夫だから。そう、自分に言い聞かせました。


「ちっこいの次は石を小分けにして運んでくれ」


「はい」


 親方の命令を受けて、俺は石をひたすらに運んだ。上へと進む坂があるので、若干きついが弱音は言ってられない。


 よぅし、この調子でもっと頑張っちゃうぞ。二個ぐらいなら一気に持っても大丈夫だよな。持ってみた、多少はフラフラするが大丈夫そうだ。


 二つずつ持てば、予定の二倍速く終わるしそうしよう。


「お、おい、大丈夫か?」

「ちょっと無理してねえか」

「ゆっくりやればいいんだぞ」


 と優しい言葉がかけられる。だ、大丈夫だって無理してないから。


「あっ!!」


 前が見えなくて石に躓いて転んだ。その拍子に高い所から石を落としてしまった。


「痛い……」


 いや、そんなことより石はどこに!? 


 俺はすぐに立ち上がって石がどこにいってしまったのかを確認する。上から落としてしまったし、下に人がいたら危険だ。


 下を見る。親方と目が合った。親方は俺が落とした石を持っていた。どうやら、俺の落とした石が直撃してしまったようだ。


 うん、俺終わったわ。


「ちっこいの!! 話があるから降りてこい!!」


 そっか、役立たずだしクビかな。なんか、転生してからこんなのばっかだな。俺はなにしてんだろうなぁ。


 自己嫌悪しつつも、俺は命令通りにするしかないので下に降りて、親方の後ろをびくびくしながらついて行くのだった。

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