第3話

 それから更に数年経ち、私は16歳になった。リメルは私より2個上だといつだったか聞いたから、18歳か。


「今日はお父様にお会いする日だから衆目の中であなたを甚振るけど、派手な魔法なだけでそこまで痛みはないから。すぐに下がらせるから隠れて回復しなさい」


 今日は私の誕生パーティーである。パーティーといっても仲の良い家門はいないので身内だけの小さなものだけどね。

 それでも一族の誕生日はサクマーレ家にとって貴重なイベントだ。

 故に、いつも忙しいお父様が一族の前に顔を出す。

 私達兄弟はお父様の前でどれだけ自分の奴隷を手懐けているかパフォーマンスしなくてはいけない。

 血が出る方法は怖いので、私は毎回炎魔法を使っている。

 もしこの家から逃げて追手が来ても立ち向かえるように必死に努力したおかげで、今では第6段階まで使えるようになった。

 この国でもトップレベルの魔法師となったのだ。

 一応お父様とレベルは同じだけど、闇属性と光属性は特別なので同じ段階でも差が出てしまう。

 まあ第6段階以上を使える魔法師は全国でも数える程しかいないので十分すごいと言えるだろう。


 おかげで自分で魔法を自由に作れるようになり、最近編み出したのが見た目は派手だけど威力はイマイチな魔法。

 これでリメルが苦痛そうな演技をしてくれれば完璧に周囲を欺ける。


「僕はヴィナ様の全力を受け止めても何ら問題はないですよ」

「いくらあなたが回復魔法を極めていても攻撃を受けたら痛覚は感じるのよ。それに、私が全力を出してあなたが耐えられるとでも? 強がるのはやめなさい」


 魔法を極めていくうちにかなり自信をつけてしまったのか余裕綽々なリメル。

 とはいえ、第6段階の魔法を喰らえばタダでは済まないだろう。


「残念です……ヴィナ様の全てを受け入れたかったのですが……」


 本当に残念そうに眉を下げるリメル。

 その姿に出会った頃の殺気溢れんばかりの面影は見当たらない。


 なんか思っていたのと違う方向に育ってしまったのよね……。

 普段は従順なのだけど、たまに変なポイントで反抗してくる。最終的には私の言うことを聞くので特に困ってはいないんだけど。

 まあ私を恨んでいる様子はないから復讐されることはないかな……?

 適当に言い訳してパフォーマンス以外では彼を攻撃することなかったからね。

 最初は警戒していたリメルだったけど、いつからか私を視界に入れるとホッと安堵するような表情を見せるようになった。

 私が近くにいると他の一族の者に虐められないから盾みたいなものなのだろう。


 私達の主従関係にはお父様も一目置いている。

 リメル程の能力の持ち主を手駒にしているので、その分私の評価も上がるのだ。

 だから今回のパフォーマンスは一層期待していることだろう。

 お父様でさえ私が編み出した魔法のカラクリはわからないと思うから、何も心配することはない。


 あ、そういえばいつものアレ言うの忘れていた。

 急に思い出し、未だシュンと耳を垂らしているリメルを見る。


「念の為言っとくけど、私がこんな魔法を編み出したのは、」

「わかっています。僕を虐めることに何の興味もないからですよね」

「そうよ。ナヨナヨしている男を虐めても興醒めするだけだわ」


 実際、もうこんな言い訳をする必要はないと思う。

 リメルは私への警戒を解いているし、私が本当の意味でリメルを傷つけたくないと思っていることもバレている気がする。

 でもツンデレ発言がすっかり板に付いてしまったようで今更やめられない。


「ヴィナ様だけですよ、僕の外見にイチャモンをつけるのは。屋敷の中では『宝石のよう』と言われているのに」


 はぁ、と溜息をつくリメル。

 屋敷の使用人たちが陰でリメルの容姿を褒め称えていることは最早誰もが知っている。

 兄弟たちもプライドのせいで口には出さないが、内心綺麗な奴隷を与えられた私に嫉妬しているのだろう。

 私がイレギュラーなだけで、本来サクマーレ家の人間は綺麗なモノほど壊したくなる気性だ。

 他の兄弟たちの奴隷も整っている者が多数だが、その中でもリメルは飛び抜けている。


 純白の髪に真っ青な瞳。高い身長は細身ながらも筋肉が付いておりスタイル抜群だ。

 リメルには私のタイプはゴリマッチョと話しているのでどうにか言い訳が通じているが、この宝石のようにキラキラした外見に目を奪われない人間はまず存在しないだろう。


 だけど、それを自分で口にするとは、随分自信過剰になったものだ。一応奴隷の分際なのに。

 まあ私の前以外で言わなきゃ誰にも咎められないから別にいいけど。



「ヴィナお嬢様、そろそろパーティーが始まりますので会場にご移動を」


 リメルと話しているとあっという間に開始時間が来てしまった。

 使用人が待機室のドアを開けたまま退室を促す。

 リメルから差し出された手に自分のを重ね、真っ赤なドレスの裾を持って立ち上がった。


 そういえば、出会った時は私の手なんて絶対握らなかったのに、今では自然と差し出すようになったのね。

 信頼されていると喜んでもいいのか不思議な気持ちだ。


 ……だって、リメルとはこのパーティーが終わったらお別れだから。

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