第73話 奇襲作戦

《カイム視点》


 急ピッチで準備を進め、会議から丸一日経過した。


 日付は、二月二十一日の深夜だ。




 俺は、フロルと二個小隊を引き連れ、林の中を駆けた。


 自分と数人だけなら《空間転移ワープ》で軽々移動できるが、大部隊を引き連れるとなるとそうはいかない。




 だが、今引き連れているのは半年以上も組織で訓練を積んできた優秀な者達と、《黒の皚鳥》出身でも優秀だった者達を選抜してある。




 後者にとっては、かつての仲間達を叩くことになるわけで、未練とかないのか心配だったが、そんなことはないらしい。




 なんでも、一度見すてられた恨みもある上、こちらの方が待遇がいいらしい。


 可愛い女の子も多い……とのことで、なぜか俺を崇拝し始める者まで出る始末だった。




 そんな、頼もしい兵達も、ここ最近に至っては、アリスのお陰でめざましい成長を遂げている。


 無属性の《身体強化ブースト》を持っていなくても、体内に特殊な魔力の循環を促すことで、平時の3倍近い身体強化が可能となる。




 ちょっとした裏技なのだと、アリスが言っていた。


 原作にそんな設定はなかった気がするが、いろいろシナリオも変わってきているし、その辺りは突っ込まないでおこう。




 そんなわけで、俺達は残像を残していく速度で一日林の中を駆け抜け、最短ルートでカサルナム遺跡を目指した。




 そして、夕方には林を抜け平原に出る。


 そのまま敵を先回りするようにひたすら走り続け、深夜に、カサルナム遺跡手前1キロ付近の高台へとたどり着いたのだった。




「アイツ等は、まだ来ていないな」




 高台に身を潜める形で、下の道を覗き込む。




「うん。予定通り、奴等が来る前に先回りできたんだと思う」




 隣に立つフロルが、白い息を吐きながら答えた。


 俺達はここで体力を回復しつつ、敵の進撃を待つ。


 高台からの奇襲。


 それが、俺達の立てた作戦だった。




 シンプルだが理に適っているはずだ。


 もっと適した奇襲方法もあるんだろうが、前世ではただの会社員だった俺に、兵法の知識があるわけがない。




 だから、ゲームとかでよくあったシチュエーションをなぞるしかないのだ。




「おそらく、近いうちに奴等が下の平原にある道を通る。俺が合図したらA小隊は俺とフロルに続いて奇襲を仕掛けろ。B小隊は援護の魔法をこの高台から撃ってくれ。乱戦になることが予想される。無理しなくて良いから見方には当てるなよ」


「「「了解!」」」




 白いローブを身に纏った彼等が、一斉に小声で答えた。


 皆同じような衣装だが、よく見ると襟元に金の刺繍で「A」とか「B」とか書いてある。


 それぞれ30人。所属の小隊を表すものだった。




 彼等はもう、覚悟が出来ているようだった。


 冷たい空気が、彼等の緊張で更に研ぎ澄まされていく。


 ――やがて、白い雪が降り始める。




 ゆっくりと落ちてくる白い玉が、夜空の漆黒とのコントラストを描く。


 その冷たさに導かれるようにして、遠くから魔法の明かりが見えてきた。


 見る限りざっと60人。 


 こちらの戦力と変わらない。


 


 だが――地の利はこちらにある。




「来るぞ」




 俺は雪に解け入るような小声でつぶやき、気配を殺した。


 彼我の距離が、ぐんぐん縮まる。


 向こうのペースは変わらない。こちらにはまだ気づいていないのだ。


 


 やがて、彼らは高台のふもとに差し掛かる。


 その瞬間――限界まで張り詰めた空気を破るように、俺は叫んだ。




「作戦開始!!」

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