第71話 会議は終わりを告げて
「ミリィちゃんって……それ、本当のことなのだ!?」
「え? あ、うん……本当だけど。知り合いか何かなのか?」
「それは……っ!」
フェリスは、何かを言いたそうに、口をパクパクさせる。
だが、一瞬寂しそうに目を伏せて「いや、なんでもないのだ」と呟き、力なく着席した。
「? まあ、とにかく。そのミリィって子の身が危ない。俺が今言えるのは、これだけだ」
フェリスの反応は気になるが、今はレイズ達の出鼻をくじくために全力を注がねばならない。
レイズは、魔神ゼルドラスの復活を目指して状況を開始している。
それを阻止しなければいけない。
もし魔神が復活しようものなら、こちらが一気に不利になる。
ゲームの中では、《
ゆえに、勇者アリスやその仲間達も数々の戦いを切り抜けて成長したあとだったのだが――この世界線ではまだ二ヶ月しか経っていない。
俺はともかく、仲間達の成長が追いついていないのだ。
だから、魔神の復活だけは断固として阻止しなければならない。
「魔神ゼルドラスの復活だけは何があっても阻止したい。奴等がカサルナム遺跡にたどり着く前に仕掛けて殲滅し、速やかに魔魂を回収する」
「了解。ミリィって子の方はどうするの?」
「その子も同時に保護する。相手が二面作戦で来ているんだ。俺達も二手に分かれて、それぞれ対応する」
フロルの問いかけに、そう答える。
「わかった」
「うむ」
「……わかったのだ」
「ん」
4人はそれぞれ頷いて、賛同を示した。
「あとはメンバーの配分だが……」
俺は少しの間思案する。
遺跡に向かう者達だが、こちらは配下の者達が二個小隊。
おおよそ60人程度だ。
その中にどれだけ強者が紛れているかは不明だが、いたとしても四天王が1、2人くらいと見積もっておいていいだろう。
ミリィを取り囲む現状は不明。
ガースからの報告がない以上、《黒の皚鳥》本陣から、確保に向けて部隊が出ているとは考えにくい。
この後出陣するのか、それとも既に公国剣士団が動いているのか……
「こちらも、それなりの部隊で相手した方が良さそうだな」
前回作戦が成功したからと言って、今回も上手くいくとは限らない。
むしろ、相手は後がないから死にもの狂いでくるだろう。
窮鼠猫を噛むと言うが、相手は虎だ。
追い詰められた虎が牙を剥くと、どうなるか……それがわからないほど、俺はバカではない。
「遺跡の方は、俺とフロルが出る。それから、ある程度実戦訓練を積んだ者達を、こちらも二個小隊動員する」
《
これだけで既に大盤振る舞いだ。
加えて、次期幹部候補のアリスが推薦するレントも連れて行く。
戦力としては申し分ないだろう。
「次いでミリィの方だが……」
俺は、ちらりとフェリスを見た。
「フェリス、やれるか?」
「! ぼ、僕は……」
フェリスは逡巡するように目を泳がせる。
やはり、何かあるのだろう。
原作で彼女はすぐに亡くなってしまうから、彼女のことはほとんど知らない。
どうやらミリィと関係があるみたいだが。
「どうしても無理そうか? 無理強いはしないが、お前がミリィのことを知っているとしたら、公国より有利に動けるかもしれない。そういう意味で頼みたいんだが」
もしフェリスがミリィと知り合いなら、公国が彼女の捜索に手こずっている内に、うまく接触して保護できるかもしれない。
そう考えての人選だった。
「わかった。カイムがそう言うなら、やってみるのだ」
フェリスは、首を縦に振る。
だが、その顔は彼女には珍しく、少し不安に揺れていた。
「よし。あとはリーナと、ガースだな。少数精鋭のようだが、リーナには黒影もいる。おそらく大丈夫だろう」
「わかったのだ」
「了解なのじゃ」
フェリスとリーナは、こくりと頷いた。
「シリカはアリス達と一緒に待機していてくれ。可能性は低いが、遺跡に向かうのが陽動で、その隙に本体がこの場所を攻めてこないとも限らない」
「ん。わかった」
シリカは、眠そうな目を細めて答えた。
まあ、《解放の試練》の場所は知られていないだろうし、ほぼ問題ないのだが……みんなが安心して暮らせるこの場所は、守りたいのだ。
「頼んだぞ」
俺はそうシリカに告げて、全員を見まわす。
「それでは状況を開始する。全員速やかに準備せよ」
「「「「了解!」」」」
俺の言葉に、全員が張り切って答える。
――そして、長い戦いが幕を開けたのだ。
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