第3話 真夜中の討伐

 ――青白い月が照らす下、漆黒の影がぎる。


 黒い影――俺は、生い茂る木々の隙間を縫い、風を切って駆け抜ける。




 夜はいい。


 視界が不明瞭な分、他の感覚を鋭敏に研ぎ澄ます。


 


 聞こえる。


 俺の左右に展開し、併走しているファング・ウルフの足音と息づかいが。




「……数は右に3、左に4。少し離れたところにボスが1か。ボスの気配だけ、なんだか異様に大きいな」




 この程度、わざわざ《索敵》スキルを使うまでもない。


 俺の耳と第六感で、常に位置を把握している。




「狩りをはじめよう」




 にっと、不敵に笑った瞬間。


 暗闇の向こうからグルルル……といううなり声が聞こえてきて。


 青白い毛並みの狼のようなモンスター、ファング・ウルフが次々に飛びかかってきた。




 先陣を切って飛んできた一匹が、鋭い牙のついた口を大きく広げて迫る。




「お腹を空かせてるんだね。食事を上げよう。でも……」




 俺は素早く腰に佩いた片手直剣を引き抜き、突きを放つ。


 月光を跳ね返す剣先が、ファング・ウルフの口に突き刺さった。




「……俺の料理は、鉄と血の味がするけど」




 刃を垂直に立て、そのまま下にスライドさせる。


 下顎と喉を搔き斬られた一体目は、瞬時に絶命した。




 と、間髪入れず、倒れ伏す一体目の影から二体目が飛び出す。


 それと同時に背後からもファング・ウルフが肉薄する気配。




 俺は、地面を思いっきり蹴って空中へ飛び上がる。


 俺を襲った二体が、真正面から激突するのを下に見ながら、俺は左手を空に掲げた。




「《火球フレア・ボール》」




 ボッ!


 掲げた掌の上に、赤い火球が生まれ、宵闇よいやみを照らす。


 俺は、眼下で絡みつく二体のファング・ウルフめがけて火球を放った。




 ごう


 一瞬にして二体のファング・ウルフは火達磨になる。




 そんな、深夜の即興焼き肉パーティーに参加したい命知らずのモンスターは、まだまだたくさんいるらしい。




 足音軽く着地した俺めがけて、残りのファング・ウルフたちが一斉に飛びかかってくる。


 焼き肉になるか、挽肉になるか。


 彼等にはその二つしか選択肢が残されていないというのに。




「立派な牙を付けているとこ悪いんだが……君たちは食われる側だ」




 そんな俺も、今はまだ食われる側だ。


 だが、いつか。ラスボスに手が届くときが来たらそのときは――




「全身全霊を持って、お前を食い潰す」




 覚悟を決めると同時に剣を構え、地面を蹴って駆けだした。


 俺の周囲をぐるりと取り囲むようにして飛びかかってきたファング・ウルフの速度より尚速く。


 一陣の夜風となって、四体の脇を縫うようにすり抜ける。




 そして――残心。


 一瞬の静寂を打ち払うように、四体のファング・ウルフは、切り口から血を吹き出して倒れた。




「あとは……群れのボスか」




 ぼそりと呟いた俺の背後から、ガウゥ! という恐ろしい声が聞こえた。


 振り向くと、今までのファング・ウルフよりも二回りも大きなボスが、地面を蹴って、空高く跳び上がっているところだった。




 名付けるとしたら……ボスファング・ウルフといったところだろうか。


 


 蒼銀そうぎんのシルエットが月を背にして、襲いかかる。


 赤く輝く三つの眼が、闇夜の中異様に不気味に映った。


 


「《石弾ロック・バレット》ッ!」




 俺は、てのひらをボスファング・ウルフに向け、土属性の魔法である《石弾ロック・バレット》を放つ。


 小石大の大きさの岩が瞬時に生成され、狙い過たずファング・ウルフの眉間を――貫かなかった。




「っ!?」




 石弾は、相手の額に当たった瞬間、粉々に砕け散ってしまったのだ。


 俺は咄嗟に跳び下がって距離をとる。




「なるほど。この程度じゃ傷一つ付かない……と」




 やはり、あのとき感じた気配で強いヤツの予感はしていたが。


 


「やってみるか。初めての大物退治!」




 この程度のモンスターに苦戦しているようなら、レイズを倒し、死の運命を回避するなんて夢のまた夢だ。




「見せてやるよ。現時点での、俺の本気を!」




 そう言葉にした瞬間、鋭い牙をむき出しにして、ボスファング・ウルフが襲いかかってきた。

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