いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~

果 一

第一章 反逆への序章編

第1話 転生は、モブからのスタート

俺こと久我哲也くがてつやは、ブラック企業の社員だった。


だった。というのは、今はもう違うからであるが、当時の生活はひどいものだった。




 三十路みそじを過ぎても彼女の一人もできず、パワハラが日常の職場でノートパソコンに食らい付く日々。




 こんな男前な名前なのになんで女の子が寄りつかないのか、世界はどうかしていると思う。


 


 そんな寂しく辛い独身生活の中、唯一俺の楽しみだったのは、ゲームだ。


 特に、死ぬ間際やっていたノベルゲーム『国家大戦・クライシス』は、超大作だった。




 舞台は中世を模した異世界。


 ブルガス王国とアリクレース公国の大戦、というのが本ゲームのメインストーリーだ。


 それぞれの国にいる二人の勇者を主人公に、互いに譲れないもののために戦う、非常に熱いストーリーだが――どちらかが勝って勝利するという展開ではない。




 二人が二人とも勇者であり、主人公でありラスボスではないのだ。


 即ち、ラスボスは他にいる。


 名はレイズ=トリシクス。魔術結社 《黒の皚鳥がいちょう》を束ねる男で、ブルガス王国に個人的恨みがあることから、アリクレース公国を焚き付け裏から操っている、ザ・真の黒幕と呼ぶに相応しい男だ。




 その男は残忍で狡猾。決して手札を見せず、自分の目的のためなら手段を選ばないミスティリアスなかっこよさを――持っていたら良かったのだが、残忍ではなく残念なヤツだった。




 女癖も酒癖も最悪。


 作戦が失敗したら、部下達を足で踏みつけてギャンギャン喚き立てる。


 そのくせ、作戦が上手くいっても部下への労いは一切ない。




 ろくな誘導カリスマ力も持たないくせに、親の権力だけでその場に立っているような、七光りの社長みたいなヤツだ。


 まるで、社交性や人間性、その他諸々のステータスを戦闘能力に極振りしたようなラスボスだった。




 だから俺は、クズなラスボスの配下として生きていることに、いささか不満である。


 


 え? いくら現実が地獄だからって、「俺、二次元の世界で生きてるんだぜ!」みたいなことを平気で言うのは、頭の残念な人間に見えるだって?




 それに関しては、俺も本当どうかしていると思う。


 俺が、ではなくこの世界が。




 冗談抜きで、俺は本当にクズなラスボス――レイズの配下をやっているのだ。


 まあ、要するに。




 ――俺、転生しました☆


 転生先は、もちろん『国家大戦・クライシス』の世界。




 なんでゲームの世界に飛ばされたのかはよくわからないが、たぶん朝帰りの疲れた身体で無理矢理ゲームをやりこんでいたからだろう。


 ゲームをやっていたと思ったら、いつの間にかこの世界にいた。




 過労しごとに次ぐ過労ゲームで、過労死むだじにしてしまったらしい。




 ともかく、俺はレイズの配下の一人である、カイム=ローウェンという17歳の青年に生まれ変わった。


 それが証拠に、ストレスで白髪の混じりかけていた髪は、黒紫色の艶やかなものになり、なんの特徴も無い黒瞳こくとうは鮮やかな紫炎色しえんしょくになって、自分で言うのも何だが結構な美少年になっていた。


 それはまあ、めでたいことなのだが。




 ――アリクレース公国の南端。《黒の皚鳥》のアジト。


 四方を塀で囲まれた、だだっ広い訓練場にて。




「なんでぇえええええええッ!?」




 俺は、血涙を流して剣の稽古に勤しんでいた。


 


 ラノベの王道、異世界転生。


 それもゲームの世界に転生したんなら、勇者とかラスボスとか、そういうチートなヤツになりたかった。




 なのに、俺がなったのはカイムという男。


 なった瞬間、思った言葉はただ一つ。


 『誰だ、お前』




 要するにまあ、俺が生まれ変わったのはゲーム本編にも登場しない、完全なモブキャラである。


 ひょっとしたら、物語中盤に当たる王国と組織の抗争シーンのカットに、ちらりと映っていたりしたのかもしれないが。




「いやいやいや! 配下に転生するとしてもせめて、四天王クラスにしてくれよ! マジで誰だよカイムって!」




 ガンッ!


 思いっきり振るった剣の刃が、木の幹に深く突き刺さる。




 俺がこうも嘆いているのには、理由がある。


 この『国家大戦・クライシス』、基本的にハッピーエンドであるが故に、悪役側の俺達は四天王の一部を除き、全員殺される。




 それも、勇者に、ではない。


 ほぼ全ての配下が、ラスボスであるレイズに利用され、こき使われ、散々辛酸をなめさせられたあげく、見限られて殺される。




 そういうイベントが、物語の各所に起こるが故に――たかがモブAの配下である俺は、明日にでも殺されてしまうかもしれないのである。




 前世ではろくな人生を送っていない俺が、今生でもろくな死に方をしないなんて、そんなのは嫌だ!


 だから、やることはただ一つ。




 前世で培ったこのゲームの知識と努力で、このクソッタレな運命を踏破とうはしてやる!


 


 幹に刺さった剣を抜くと、怒りと信念を込めて大きく振りかざした。




「ちっくしょぉおおおおおお! 死んでたまるかぁああああああ!」

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