第6話 確かな心、進む日々

20XX年9月x日


 千々石ミゲルの日記の解読は順調に進んでいる。だけど未解読の暗号や記号が残っていて、澄川先生と由紀子さんが中心になって、私も時々手伝っている。日記には、彼が京都で過ごした出来事や暗号化された人物名が書かれていた。いきなり豊臣秀吉が登場したのでビックリした。

 作業中、澄川先生がちょっと疲れた顔で休憩を取ると言った。


「先生、ちょっと顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」


 私がそう言ったら先生は「昨日、飲み過ぎたみたい」と笑いながら研究室を出て行った。 


 最近はマスコミからの取材依頼が増え、由紀子さんが対応している。澄川先生が由紀子さんに頼んだようだけど、何となく複雑な気持ちだ。由紀子さんと先生が一緒に作業してるのを見ると、自分の作業が楽になって嬉しいけど、同時に寂しい気持ちも湧いてくる。


 今日の一言:

 澄川先生と由紀子さんて、なんだかんだ言って仲が良い。


 次の日の予定:

 明日は解読の手伝いを頼まれた。嬉しい。


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20XX年9月x日


 今日は久しぶりに一日中、千々石ミゲルについて澄川先生と一緒に調査した。千々石ミゲルの棄教には相反する解釈があり、今回の発見が一石を投じることになるだろうと先生は言っている。どうも女性との出会いが彼の運命を変えたらしい。何かドラマチックだなぁー。


 今日の一言:

 最初はだらしないと思ってた澄川先生が、なんでか気になり始めてる。何でかな?


 次の日の予定:

 事務処理。やってもやっても書類が増える。先生は今日も顔色が少し悪かったけど、書類がたまってるから、休むわけにもいかないみたい


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20XX年10月x日


 澄川先生の観察日記を書き始めたのは良いのだけど、段々と書いたり書けなかったりと不定期になってしまった。多分、先生を見る自分自身が変わってきたのだと思う。もっと先生と色々なことを話したい。


 今日の一言:

 澄川先生のことを意識してしまう。最初はだらしなくて苦手だったのに……。千々石ミゲルの日記の謎が全て解けたら、私と先生の関係も変化するのかな?


 次の日の予定:

 由紀子さんの解読の手伝い。


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20XX年10月x日


 お昼休みに澄川先生と由紀子さんと大学の近くにある有名なレストランでランチを食べた。最近の私がかなり沈んでいたから、由紀子さんが気を遣ってくれたみたい。昼食を食べながら、由紀子さんが今度再婚する話を聞いた。それを聞いて、何故か安心してしまった。なんで澄川先生のことを気にしているんだろう?


 今日の一言:

 由紀子さんの再婚相手が決まっていることは、澄川先生は初めから知っていたみたい。それならそうと、もっと早く教え欲しかった。


 次の日の予定:

 明日は由紀子さんが出張。その分は私が頑張る!


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20XX年10月x日


 今日は本当に大変な一日。研究室でいつものように事務処理をしていたら、突然、パソコンの画面が真っ黒になり、『このコンピュータのファイルは暗号化されています。ファイルを全て回復したければ、お金を払う必要があります』というメッセージが表示された。澄川先生のパソコンと研究データが保存されているパソコンも同様だった。どうやらハッカー集団によるランサムウェア攻撃だったみたい。


 直ぐに大学のネットワーク管理者に来てもらったけれど、ランサムウェアに感染してしまったパソコンは、ウイルス対策ソフトが更新できていなかったようだ。以前は前任の助手の方がパソコンの管理をしていたけれど、私も澄川先生も詳しくないので放置してしまい、ウイルスの侵入を許してしまった。幸い被害は澄川先生の研究室のパソコン3台だけだった。


「原本があるから、データは諦めよう」


 澄川先生はそう言いましたが、私はこんなことで諦めたくなかった。


「ダメ元でパスワードを入れてはダメですか?」


 私がそう言うと、澄川先生は少し考えてから笑顔になった。


「そうだね。真希ちゃんに任せる」


 先生は私を信じてくれた。


 突然、頭の中に明確な数字と文字が浮かんだ。何の迷いもなく、そのパスワードを入力する。この能力、祖母から聞いた話では、何世代にもわたって家族に受け継がれてきたらしい。でも、今までこんな形で役立ったことはなかった。

 桁数が合わずに何度か失敗し、やがて元の画面が表示されるようになった。保存されているファイルも開けるようになっている。


「これで復旧できたんですかね?」


「どうだろう? 後でネットワーク管理者をもう一度呼んで確認して貰おう。でも、凄いね! 立ち上がるようになっている。でも、このパスワード解読の難しさは、ミゲルの日記の比じゃないよ!」


 私はパソコンが復旧できた嬉しさよりも、先生の最後の言葉が引っかかった。


「こんな自分って、気味が悪いですよね?」


「そんなことないよ。急にどうしたの?」


 私は直ぐに答えられませんでした。しばらく沈黙が続き、私は自分が泣いていることに気づきました。


「小学校の頃、この能力が原因でいじめられたんです。何もかもがおかしいと言われて、孤立してました。長い間、不登校だった時期もあります。それから大学を卒業するまでは、能力を隠していたんです」


「話してくれてありがとう。辛かったね。でも、どうして俺の前で、能力を使ってくれたんだい?」


「それは……先生が信用できるって、思ったからです」


 私がそう答えると、先生は優しく頭を撫でてくれました。


 その瞬間、何かが変わりました。私の心の中で、先生への感情が確かなものになりました。私は澄川先生が好き。もうこの気持ちはごまかせない。


 今日の一言:

 私は今まで人から認められてこなかった。だから認めてくれた澄川先生のことが、単純に好きになってしまったのだと思う。恋って、こんなに単純なことだったんだ……


 次の日の予定:

 これから澄川先生とどう接したらいいんだろう?


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【挿絵】時を超えた日記:第6話 Created with DALL-E

 https://kakuyomu.jp/users/tuyo64/news/16817330665265467380

 


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