第17話 必要の杖

 4日目の午前中。

 午前中だけ休息時間となり、キースやフィラデル、ミント、リーリャ達と一緒に遊ぶことになった。

 赤龍隊隊長から、ウチの娘に手を出したらただではおかんぞ、と言われたことは内緒だ。


 人族の生活に詳しくない彼らは、色々と聞いてきた。

 朝起きたら何をするのか、鱗がないけど痛くないのか、遊ぶときは何をするのか、キスとかするのかとか。

 キスするのかと聞いてきた時、子ども達はいたずらな顔つきで僕とリーリャの顔も見比べる。

 このませりゅうめ。


 そして、僕が魔法学校の設計科に所属していることを知ると、何か作ってと懇願された。

 リーリャも見たいと興味津々。

 どうしようかと悩んでいた時、ふと、ダイからもらった魔法式メモ帳の存在を思い出した。


 どれどれ、どんな魔法式があったっけかな。

 盗聴器、ピッキング道具、盗撮機、懐中電灯、野戦砲って、おいおいおい、なかなか物騒なものしかないじゃないか——ん、これがいいかもしれない。

 だけど、なんでこんなものがあるんだ。


 僕は魔力を魔法式に流しこむ。

 その光景を興味津々で覗き込む子ども達。


 出来上がったのは竹とんぼ。


「何それ〜変な形」

 陽気に笑うフィラデル。


「これはね、こうして手を擦り合わせて、回すと——ほい」


「え、嘘、飛んだ!」


 飛び上がる竹とんぼを目線で追いながら首を上げるフィラデルとキース、ミント。

 落下してきた竹とんぼを奪い合い、勝ち取るキース。


「えっとこれを、こうやって、ほい——あれ、うまく飛ばないな」

「どれどれ、こうやるんだよ」


 キースの手に自分の手を添える。

 勢いよく手を擦り合わせて話す。


「うわーすごいすごいすごい!」


 大はしゃぎなキース。

 次は私だよ!

 横からほっぺたを膨らませながら不貞腐れるフィラデル。

 僕も忘れないでねっとミントも一生懸命張り合う。


 竹とんぼの魔法式は単純だったから3人分作るか。

 地面に魔法式を書き込み魔力を注ぐ。


 フィラデルとミントにそれを手渡すと、二人とも大喜びで竹とんぼを空に飛ばし始めた。

 驚くことに、彼らはすぐに竹とんぼを使いこなしただけでなく、その飛距離である。

 僕はせいぜい3 mしか飛ばせないのに、特にキースは力任せに回して、20 mほどの高さまで竹とんぼを飛ばしてしまうのだ。


 子どもといえども、龍人はすごい力である。


 次に、キャッチボールを教えることにした。

 まあ、メモ帳にボールの魔法式があったからだが。


 こうやってお互いにボールを投げ合うんだと言いながら、ミントにボールを投げる。

 手には当たったが落としてしまうミント。


「大丈夫大丈夫、じゃあ、それを投げ返してみて」


 ミントはエイっと可愛い声を出しながらボールを投げた。

 山なりのフワッとしたボールが返ってくるかと思いきや——。

 ボールは直線的に目にも止まらぬ速さで僕の右頬を掠め、後方に飛んで行った。


 ドン! というボールらしからぬ音が後方からして、その次に、ミキミキと木が倒れる音がした。


 え?

 そうだった、龍人だった。

 ボールすら殺人の道具と化してしまう。

 こんなの素手で取ったら手がもげる。

 絶対もげる。


 凶器となったボールだが、意外とこれをかなり気に入ったらしい。

 彼らにもう一度ボールを渡すと、お互いに投げ合い出した。

 あの豪速球を投げ合い素手で取り合う子ども達。

 いやいや、凄すぎだろ。


 不安にさせないように笑うようにはしていたが、内心少し、恐ろしかった。

 まあ、彼らには心眼があるから、それもバレていたような気もするが——。


「いいですね。子どもって」


 不意に話しかけてきたのはリーリャ。

 楽しそうに遊ぶ子ども達を嬉しそうに眺めている。


 12時も近づいてそろそろ休憩時間が終わろうとしていた。

 休憩した気分ではなかったが、リフレッシュにはなった。

 最後に、フィラデルが取っておきのものを見せてあげると言い出したため、フィラデルの跡をついていく。


 結界を出る4人。

 結界を勝手に出ていいのかと聞くと——今から行く場所に行く場合のみいいんだとか。

 鬱蒼とした森が急に開けた。


 光の加減で黄金に光っているように見える湖。

 その横にある小さな神殿のような石造りの何か。


「ここ、ここ」


 フィラデルは石造の何かを指差す。

 近づいてみると地下に続く階段が見えた。


「おっとどうしたんだ」


 その神殿から出てきたのはロイド赤龍隊隊長。

 つまりフィラデルの父親。


「カケルが遊んでくれたから、お礼に神殿を見せにきたんだ」

「そうかそうか」


 ロイドは目を細めながらフィラデルの頭を撫でる。


「ロイドさん、ここは一体」

「カケル君、ここは龍族にとって聖なる場所。神殿だよ。龍の避難所にもなっている場所。ここには龍族の宝具が眠っている——と言われている」


 言われている?

 曖昧な回答。


「言われているということは、ないんですか?」

「赤龍隊は時々この神殿の見回りをするんだが、正直に言えば一度もそのようなものを見たことがない。まあ、そもそも神話みたいな言い伝えだからな。それか、何かしら条件を満たせば出現するのか、それとも既に誰かに盗まれてしまったのか」

「そうなんですね。それで、どういった宝具なんですか」

「カケル君だから話すが、口外禁止だよ。その宝具は『必要な杖』。杖が認めた龍人が、その杖を必要とした時にだけ現れる最強の杖という風に言い伝えられている」

「そんな杖があるんですね」

「まあ、誰も見たことはないが」


 中は複雑な構造になっているから、迂闊に入らない方がいいという忠告も受けた。

 ちょうど12時になったため、ロイドと子ども達と一緒に村に戻る。

 子ども達は、手を振りながら自宅に戻っていった。


 さあ自分はこれから特訓だ。

 今日こそ重力球を完全に制御してやる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る