生前葬⑤
「さ、仕切り直して同窓会を始めましょう」
暫しの沈黙の後、礼香の合図で同窓会が始まった。教室の机を避けて思い思いに床に座る。
てっきり飲み食いがあるんだと思っていたが、事情があるようで今回は集まって話をするだけらしい。
それでも、積もる話であっという間に時間は過ぎていった。
当初は行くことすら迷っていたが、覚悟を決めて来て良かったと今は思う。
懐かしの母校も過疎化で村に子どもがいなくなったことで随分前に廃校になってしまったらしい。
その代わり、今でも定期的に集会やイベントで活用されているらしく、きちんと管理されてこまめに清掃もしてるそうだ。
まるで時が止まってように綺麗なのはききゅうさまのお陰かと思っていたが、何から何まで頼ってる訳ではないようだ。
考えたら祖母は俺が中学3年生の時に風邪を拗らせて亡くなった訳で、病気の治癒のように大きすぎる願いは叶えられないのかもしれない。
親切な村の住民達は、そのまま祖母の家を使ってくれていいと言ってくれたが、当時の俺には村を出る選択肢以外存在しなかった。
長くいると取り込まれる。そんな漫然とした恐怖が俺の中で渦巻いていたのだ。
「でも、探すの本当に大変だったのよ。結局13年もかかっちゃった」
礼香がそう言って苦笑した。
「ほんとほんと。ようやく見つけたと思ったらすぐまたどっか行っちゃうしさぁ」
「まじか、俺、探されてたのか」
どのタイプでも郵便ポストや郵便受けは基本的に見ないようにしている。特に借金がある訳でもないけれど、とにかく世間との関わりを絶ちたかった。
「ききゅうさまもね、信じたからといって無尽蔵に何でも叶えてくれる訳じゃないの」
「そうそう。行方不明の孝浩を探すのはさ、年に一回出来るかどうかなワケ」
「なのに見つけても、大抵遠い場所。そんで葉書送っても戻ってきちまうし、お前の行先は誰ぁれも知らんのよ」
「仕事柄各地を転々としてるからなぁ」
まさか今回だけじゃなくて毎年誘われていたなんて青天の霹靂だった。
律儀なものだ。
俺はこんなにもこの村を拒絶していたと言うのに。
かた。かたかたかたかたかた。
「あれ、なんか揺れてない?」
綾音が言うや否や教室の机と椅子が小刻みに揺れ出して、次いでギシギシと建物全体が大きく軋む。
「んん、揺れてるかぁ?」
「いやいや、鈍感過ぎだろ時生。震度3くらいはあるぞこれ」
「念のため机の下に潜っておきましょう」
この村は土地柄小さな地震が頻繁に発生する。最初に北海道からこの村に越してきた時は、余りの揺れの多さに絶望したのを覚えている。
「孝浩、来た時はぶるぶる震えてたよなぁ」
「怖いもんは怖いんだよっ」
俺は照れ隠しに時生の背中を軽くはたく。
地震はすぐに収まって、それからまたしばらく過去の思い出話に花を咲かせた。次から次へと溢れ出る詳細なエピソードに、みんなよくそんなにはっきりと昔のことを覚えているなと感心する。
俺はもうこの村で過ごした日々は曖昧だ。同窓会の葉書を見て、ここに来るまでの間に色々と記憶が蘇ったりもしたけど、普段思い出すことなんてほとんどない。
忘れているということは、自分が思うほど嫌な記憶ではないのかもしれない。
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