犯人捕縛作戦 3

「よくやったエイミー!」


 昼休みになってライオネルとともに医務室へ向かった後、陶器人形の欠片を拾ってきたことを告げると、ライオネルがものすごくほめてくれた。

 きっとライオネルもこの陶器人形が可愛いと思ってくれたに違いない。


(へへへ、以心伝心って感じがするわ!)


 エイミーは、陶器人形の欠片を、パズルのピースのように正しい位置に並べているライオネルを見てにこにこと笑った。やっぱり拾ってきてよかったと嬉しくなっていると、ライオネルが並べ終わった陶器人形を並べ終わってウォルターを振り向く。


「こんな奇妙なものを扱っている店なんて滅多にないだろう。ここから探れそうだな」

「そうですね。そんなものを売っている店なんてほとんどないでしょうし、わざわざこんな変な顔の人形を特注する人もいないでしょう。犯人の特定に役立ちそうですね」

「…………うん?」


 なんだか話の流れがエイミーの予想していたものと違う。

 首をひねるエイミーをよそに、二人は真剣な顔で話を続けていた。


「この手の人形は呪術具を扱っている店とかにありそうですね。念のため妙な魔術がかかっていないか調べたほうがよさそうです」

「ああ、頼む」


 ウォルターがそう言って破片を回収していこうとしたので、エイミーは慌てた。


「ま、待ってください! それ、どうするんですか?」

「魔術省に持って行って解析させるつもりですが……、ダメでしたか?」

「ダメです! それと同じものを作ってもらう予定なんです!」

「ちょっと待てエイミー。まさかお前、これが欲しくて破片を集めたのか⁉」

「そうですよ? それ以外に何かありましたか?」


 ライオネルがあんぐりと口をあけた。


「お前、これが欲しいのか⁉」

「はい! あ、大丈夫ですよ、ちゃんと殿下の分も作ってもらいますからね! わたしたち婚約者で両想いの恋人同士ですから、もちろんお揃いです!」

「…………」

「……ぷっ」


 唖然とした顔で沈黙したライオネルの背後で、ウォルターが小さく噴き出した。そして肩を震わせながら、言う。


「だ、大丈夫ですよエイミー様。調べが終わったら、ちゃんとお返ししますから。何なら、私の方で手配して、これと同じものを二つ用意させましょう」

「本当ですか⁉」

「おい、ウォルター‼」


 エイミーがぱあっと顔を輝かせるのと、ライオネルが焦った声を上げたのは同時だった。


「お前さっき呪術具とか言わなかったか⁉ そんな呪いの人形を俺に持てと⁉」

「ちゃんと呪いの魔術のかかっていないものを手配しますって」

「魔術がかかっているかかっていないの問題じゃないだろうが! なんなんだこの――何を表現しようとしているのか意味がわからない不細工な人形は‼」

「それが可愛いんですよ! ほら見てください、この……怒っているのか笑っているのかわからない目とか」

「エイミー、お前は本当にこれが可愛いと思っているのか?」

「もちろんです。これが出来上がったら、わたしだと思って大事にしてくださいね。わたしも殿下だと思って大事にします!」

「あぁ……」


 ライオネルは両手で顔を覆ってうつむいた。

 エイミーはそれを勝手に首肯だと認識して、ウォルターに人形の手配をお願いすると、持参したお弁当を開く。

 しばらくの間、作戦会議もかねて医務室でお昼を食べることにしたのだ。

 ライオネルはパンでいいと言っていたが、それでは栄養が偏るので、ライオネルの分のお弁当も持参している。


「はい、殿下。ちゃんと冷めても美味しいものだけを詰めてきましたから安心して食べてくださいね」

「……ああ」


 何故かぐったりしているライオネルが、疲れた顔でお弁当を受け取った。

 ライオネルのためにお茶を用意していると、陶器人形の欠片を片付けたウォルターが、学園の見取り図をテーブルの上に広げる。


「食べながらでいいんで聞いてください。今日のこの陶器人形が降って来たときの追跡結果ですけどね、術者はここにいたみたいですよ」


 見取り図には、赤いピンが刺さっている。


「二年三組か」

「ええ。今回の追跡魔術で調べられるのは場所だけですから、人物の特定にまでは至っていませんが……こちらが二年三組の名簿です」

「この時間帯にこの教室で授業を受け持っていた教師も頼む」

「はい。ええっと……授業の担当教師の一覧はこちらですね」


 ウォルターが二年三組の生徒の名簿と、それからどの教師がいつどこで教鞭を取っているかの一覧をテーブルの上に広げる。


「二年三組の生徒とそれからこの教師については、今日から監視をつけることにしています。いつどこで何をしていたかすべてまとめて報告するように伝えておりますので」

「ああ、助かる」


 話を進めているウォルターとライオネルをよそに、エイミーはじーっと名簿に視線を落として、それから首をひねった。


「でも殿下、二年三組には、殿下やわたしのお父様のことをよく思っていない貴族は、いませんよね」


 どの貴族がどこの派閥にいてどういう立ち位置であるか、エイミーはすべて記憶している。

 エイミーが言えば、ライオネルとウォルターはもう一度名簿を確認して、難しい顔で唸った。


「念のため、エイミーの頭にあの変な人形が降ってきた時間、この教室に名簿に載っている以外の人間がいたかどうかも探らせろ」





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