月明かりの裏で

篝火

第一章 運命

第1話 始まり

西暦Eve年──


 それは、すべての始まりにして、この国の終わりの日……。


 些細なすれ違いから始まった争いの火種は、瞬く間にこの国を戦禍せんかの渦に追いやった。

 ある者は目の前で家族を殺され。

 ある者は目の前で恋人を陵辱され。

 ある者は目の前で子供を壊された……。

 そう……この国は正にの名にふさわしい悲しみと闘争の世界に成り果てたのだ。


「まだ……戦争は終わらないのか……」

 革命軍『ルシファー』に所属する青年兵は、一時いっときの休憩の中で一人呟く。


「ロキ、まだそんなこと言ってるのか?」

「……!なんだライか……あぁ、この戦争のせいで……今日、『クレイ』が死んだんだ!」

「!!!」

 ロキの言葉を聞いたライは、驚いた表情を少しして静かに隣に腰掛けた。


「……まさか、アイツも逝っちまったのか!」

「あぁ、つい二時間前にな……」

「『明日の戦争が終わったら、休暇が貰える……そしたら俺、結婚するんだ!』って言ってたのにな……クソ、俺たちはアイツの彼女にナンて言えば良いんだ?」

 人はそれをフラグと言うのだか、この二人にはそれを考えてる余裕がなかった。


 そして、友人を喪った事による行き場のない怒りを近くの大木にぶつけるライにロキは小さく語りかけた。

「なぁ、ライ」

「どうした?」


「俺は……俺たちは何のために戦ってるんだろうな……?」

「……!?」

 それは、答えのない現実。

 ある程度の年齢になった者が訓練を行い、戦場へと駆り出される結果……辿り着く疑問の一つ。


「さぁな、俺にもわからない……」

「家族を失い、友を喪い、それでも戦い……その果てに何が待ってるんだろうな……?」

「わからない、それもこれもこの国が……『ゲヘナビス』が俺たちの人生を狂わせたからだ!」

 ゲヘナビス……世界五大国家の一つにして、侵略国家の異名を持つ国。

 ソコに生まれた者は、一切の希望を抱けず、ただ搾取される日々を送る。


 ある場所では重税による搾取が行われ、ある場所では人権や尊厳の搾取が行われる。

 時に、貴族の娯楽のために領民の人間同士の殺し合いの賭け事が起きれば、凶暴な獣による領民の逃げ惑う姿が見世物としても行われる。


               続く

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