10
「ねぇ、聞いた?Aの秋葉、またカノジョと別れたって」
「マジで?これで何人目?」
「5人。しかも、今学期だけで5人」
「それ、付き合ってないでしょ」
手を止めて、面白おかしく笑う先輩たち。話しているのは恋バナばかり。
同じく奉仕に来た先輩たちの話に耳を傾けながら、私は黙々とフラスコを並べていく。
今日のヒアリングに成果はなさそうだ。
そもそも、学校の七不思議なんて、馬鹿らしい。そんなもの気にするような年頃でもない。それを今更、どうして会長は気にするのか。後ろ暗いことがあるとしか思えないんだけど。
今度は、クラスメイトの恋バナに花を咲かせる先輩たちに、肩を落とす。
今日もいつもの授業風景。よそで騒ぐ声が聞こえようと、教室にいれば巻き込まれる心配はない。
放課後になるまでの暇つぶしを終えて、奉仕に向かう。
退屈過ぎたせいか、体が重い。
昇降口には、何やら大量にチラシを抱えた副会長が居た。どれだけ人手不足名なのか。
「あの、大久保です」
切符を差し出すと、彼は不愛想な顔でああと返事した。
チケットの裏に書かれた名前を確認して、副会長はこちらを見た。眼鏡の奥の真っ黒い目が、ジッとこちらを見ている。
不快感に早く立ち退こうと、手を差しだしてチラシを要求する。
「君が大久保 稔流か」
どうにも気に食わない言われ様だ。
「どういう意味ですか?」
不快感を露わにする。
しかし彼の表情は何1つ変わらない。
「会長と仲が良いそうだな」
なんだ、その失礼極まりない誤解は。
「いいえ」
即答すると、睨まれた。というより、見定められているのか。
副会長は目を眇めて、相変わらずじっとこちらを見ている。そしてチラシを渡してくれる気配は、全くない。
「あなたは仲が良いのよね?会長と副会長だし」
「違うな」
普通、YesかNoで答えるものでしょう。なんて思ったが、とりあえず聞き流そう。
そんなことより。
近親者なら、会長について何か知っているかもしれない。たとえ仲が悪かったとしても。
「白い幽霊と会長の関係って何か知ってたりします?」
「なんの話だ」
「学校の七不思議です」
副会長はやっとチラシを渡す気になったらしく、抱え込んだチラシの束を半分に分けた。
「幽霊か。会いたい人でもいるのか?」
「え?」
差し出されたチラシを、とっさに掴む。すこし皺が寄った。
危うく、ばらまくところだった。
幽霊の存在なんて。いて欲しいとすら、願ったことがなかった。もう会えないと、思っていたから。
「……信じてないわ」
皺を伸ばすように、表面を押さえつける。
「そっちは?」
癖みたいに聞き返して、チラリと副会長を見やる。
「俺は自分で見たもの、感じたものしか信じない」
副会長はきっぱりと言い切った。
「噂なんて人の嫉妬や妬みにまみれた話など、信じるに値しない」
……ん?それ、白い幽霊と関係ある?少なくとも、学校の七不思議に妬みなんて関係ないでしょうよ。
とはいえ、ここは話を合わせておこう。人を知るにはいい機会かもしれない。
「噂にだって本当のことはあるんじゃない?」
「真実かどうか見極められないほど、俺は耄碌していない」
凄い自信。
「それに、真実はただそこにあるだけだ」
「……みんなが、そう言えれば良いけど」
静けさに、チラシを張る渇いた音だけが広がる。
「どこに貼れば良いの?」
「文Ⅱ科を頼む」
「分かったわ」
戻るのか。どうせなら別棟にでも行ければ良かった。少しくらい身になる話が聞けたかもしれないのに。
文Ⅱ科へ向かうための渡り廊下で、昼間の先輩たちとすれ違う。
「いつか痛い目見るんじゃない?」
「泣き寝入りでしょ。騒いだら、男子寮に忍び込んだのばれるんだから」
「絶対、保険の為に呼んだよね」
「計画的すぎて笑えるわ」
彼女たちは懲りずに恋バナに花を咲かせている。どうやら私とは違って、高校生活を満喫しているようだ。
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