灰色の勇者は人外道を歩み続ける
六羽海千悠
プロローグ・ダイス
プロローグ
俺は今、どこまでも白い地面が続いている場所にいる。
そして
「さあ、じゃあ君、そこの席へ座りなさい」
その場所で俺は、長い髭を生やした白いじじいに座ることを促されていた。じじいに促された場所は、彼の真正面でお互いが向き合うようになっており会社の面接のようだった。
正直じじいと正面で向かい合うのは勘弁してほしい。
なぜこんなことになっているのだろうか。
俺はついさっきまでコンビニにいたはずだ。そしたら、突然コンビニの床が光輝いたところまでは覚えている。
手には、丁度手に取っていた期間限定の『いちごかぼちゃごぼうメロンパン』が握られていた。まいったな。万引きしてしまった。
ただ怖いもの見たさで手に取ってみただけだったのに。
万引きするならそのリスクに見合ったものをせめて持ってきたかった。なんだよ。『いちごかぼちゃごぼうメロンパン』って。
だがとりあえず、さっきまでコンビニにいたのは間違いないだろう。手に持っているパンがそれを証明している。
「はよ座れ」
二回目の催促をされてしまった。現状の把握くらいさせろ。というかどう考えてもこいつが犯人じゃあないか。ボコるか?
「はよ座れ!!!」
ボコろう。
♦︎
「さて、お主にはこれから勇者として異世界へいってもらうことになる。儂はその仲介役みたいなもんじゃ」
おとなしくじいさんの前にある椅子に俺は座っていた。
ボコるのは話を聞いてからにすることにしたからだ。
そこで俺はあまりに突拍子もない事実を突きつけられたわけだが。
しかしよくある勇者誘拐ものか。まさか当事者になるとは思わなかった。いや、当事者になった人たぶん皆そう思ってるんだろうな。だってすごい突拍子無いもん。それこそ全くほしくなかったパンを万引きしてしまうくらいに。
「理由を聞いても?」
「勇者が召喚された理由なら召喚したものに聞いとくれ。儂は仲介役にすぎんからのぉ」
白い髭を触りながらなんてことなさそうに答える。こいつ、人ごとだと思って内心どうでもいいと思ってるな。
「まあろくな理由じゃなさそうですけど。というか、そうぽんぽん異世界から人呼んだりとか、しちゃっていいんですか?世界のルールとかそういうのに反したりしないんですか?」
「問題ないのぉ。お主たちにとってみれば異世界じゃろうが世界を覆う世界、一回り大きな世界にとってみれば何の不自然もないことなのじゃよ」
「ふーん」
予想外の返答。「主には関係ないじゃろ」とか言われると思ったのに。しかしこれは面白い話を聞けたな。世界の真理っぽい話をそんな簡単に話しちゃっていいのだろうか?
「それじゃぁ本題にはいるがの、とりあえず『スキル』を決定するぞぃ。その世界にはスキルがあるのでの。
これからその世界の存在となる主らにスキルを与えなければ、その世界の存在ではなくただの異物となるからの。とりあえずこの六面のダイスを振れぃ。出た目の数でお主がこの場で選べるスキルの数が決まるぞぃ」
じじいがそう言うと、いきなり空中から六面のサイコロが現れて地面に落ちてきた。サイコロは、片手で握って振るサイズではなく、両手で持たなければ振れないごきげんようサイズだ。
というかなぜ行く前提で話が進んでいるのか。俺は何一つ承諾していないが。こういう人の都合を無視して自分勝手に話を進めて周りを巻き込む輩が、はっきりというと『嫌い』だった。
『異世界に行く』なんて体験、普通の人間じゃ一生かかっても味わえないし面白そうなのでチャンスを逃すつもりはない。
だから俺はこの申し出を断りはしないが、あまりにこちらの事情を顧みない姿勢は、正直勘に触るので、俺はこのじいさんを一泡吹かせようと心の中で堅く決意した。
まぁとりあえず今はサイコロだ。スキルと言っていたがよくゲームとかにあるものと同じやつだろうか。もしそうだったらアレがあるかもしれない。
「確認したいことがある」
「なんじゃぃ」
「スキルというからにはステータスなんてものがあるんじゃないのか?あるなら先に今確認したいんだが」
「ふむ、ステータスの確認かの。いいじゃろぅ、だがお主には今確認する術がないからのぉ…。儂から一時的にステータス確認の能力を渡すからそれで確認せぃ」
「あ、あとサイコロを振る練習ってしてもいいのか?」
「うぅむそんなこと言い出すやつ初めてじゃのぅ。練習かの。ま、いいじゃろぅて。このダイス振りは『世界』と一緒じゃ。イカサマしようがなにしようが出た目の『結果』だけがすべてじゃ。あ、じゃが不正がバレたらスキル付与はなしじゃからの」
正直ダメもとだったが両方とも通ってしまった。
だが、なるほど。『世界』ね。確かに正々堂々正面から戦いを挑まれようが外道に毒を盛ろうが殺されれば結果は等しく死。『世界』っていうのはなんだかんだいって『何でもあり』だからな。突然ダイスを振れと言われて言われるがままに振るのも、少しでもいい目が出るように小細工をするのも結局のところ出た目がすべて、そういうことだろう。
「とりあえず鑑定の力を授けるぞぃ」
じじいから力が流れ込んでくる。
すごい嫌な字面だった。なんでじじいなんだろう。せめて純粋無垢な少女であってほしかった。こいつのせいで罪もない世界中のじじいが嫌いになりそうだ。
「よし、これでステータスと唱えれば確認できるぞぃ」
「どうやってステータスを確認するんだ?」
「自分を見て『ステータス』と言えば見えるぞぃ」
「ふむ。『ステータス』」
♦︎
灰羽秋(はいばねあき) LV0 (精神体)
種族 勇者
職業
能力
・【部屋創造】 (未解放)
スキル
・鑑定 LV極(付与)
固有スキル
・勇者のカリスマ
・勇者の加護
・ポテンシャルアップ LV極
♦︎
思ったより情報がすくない。LUKとかそういう能力値がのっているんじゃないかと期待してたのだがどうやら違うタイプのステータスのようだ。
それにしても種族から勇者になるのか。勇者ってどちらかというと職業とかそういうものだと思ってたけど。不思議だ。異世界に行ったらそういう異世界の仕組みとか文化とか見て回るのもいいかもしれないな。
それに能力もすごい気になる。【部屋創造】。文字通り部屋を作る能力だろうか?俺は元々何かを作るのが好きな人間なのでこれはこれで嬉しいな。
【部屋創造】の詳細が気になり【鑑定】をかける。だが何も表示されなかった。未解放だからか?
「どうじゃ、確認できたかの」
「ああ、できた。だがこの未解放っていうのはなんだ?」
「それは向こうの世界で召喚された瞬間それをトリガーにして発現するものじゃからの。ここではまだその能力に目覚めておらん。いわば準備中みたいなもんじゃ」
なるほど。それじゃあこの能力とやらには頼れそうにないな。このじいさんに一泡吹かせるのはこのサイコロ振りの場面が一番いいと思ってるのだがそういい手は浮かばないか。
「種族が勇者となってるが勇者という種族はいったいどういう種族なんだ?」
「ふぅむ。そこまで人間と変わらないがの。しいて言えば勇者というのはここを通ったもののことじゃな」
「ここを?」
「そうじゃ、ここでダイスを振り恩賜を受けた『人間』が『勇者』じゃよ。まぁ能力が人間より少し高いというところもあるが怠けてれば一般人にも抜かれてしまう程度のもの。ただ、普通の人間と違い種族専用の固有スキルがある。効果は見ればわかるじゃろ。あと寿命がなくなっとるの」
とってつけたように言われたが最後の情報結構重要だぞ。生き方変わるぞそれ。不老か。引きこもり続けて思うまま何かを作ったりとか憧れてたんだよな。さすがに延々は無理だろうけど。
というかこのじいさん割とぺらぺら情報しゃべってくれるな。余裕あれば行き先の世界の情報や知識なども可能な限り引き出してみるか。
「後で貰えるスキルとか確認できるのか?」
「ふむスキルをかの?なんで確認したいのか知らぬがそれはダメじゃな。ダイスを振ることに関係ないからのぅ」
なるほど。ダイス振りに『関係ない』からダメ、ね。
でもそれって逆に言えば
「関係すればいい訳だな?」
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