第6章:オブリビオン

(1)

「間に合って……くれ……」

 俺の漫画にアドバイスをしてくれてる自称・霊能者の府川は……深呼吸をした後、そう言うと何か呪文を唱え……。

 密教で「刀印」と呼ばれる片手の人差し指と中指だけを延ばし、他の指を折り曲げた状態で、空中に印を描く。

「もしもし……」

 府川は、スマホに出ると同時に、スマホの音量を上げたようだ。

『覚えてるかい? あたしだよ、春日かすが美由紀』

「誰だ?……春日って……陰陽道の大春日一族の末裔とかいう『設定』か何かか?」

『そうか……あんたにまで影響が及んでんのか』

「何を言ってる?」

『元凶は、その男だ……。少なくとも……このバカデカい呪いの渦の中心の1つだ』

「その男?」

『漫画家の安房清二だよ……。「本家・祟り屋」とかいう下んね〜漫画の作者の……』

 自称・霊能者の府川と、編集者の松田が、俺の方を見る。

『助かりたけりゃ……何もするな。少なくとも、呪術的なマネは……。どんな修法だろうと、この呪いに関わったが最後、暴走する』

「な……何を言ってる?」

『あたしは……ヤバいと思った時に、うっかり、そいつと……「縁を切る」修法を使っちまたんだよ。そいつが引き起こした呪いに巻き込まれねえようにする為にね』

「え……?」

 謎の女の声が、そう告げた瞬間……電話は切れた。

「多分……あんたにかかってきた電話の主と同じだ」

 府川は、スマホの画面を見せる。

 さっきの電話の発信元は……公衆電話。

「そして、あんたにかかってきた電話と同じだ……。呪いも一緒に送られてきてた。俺の心を操って、この電話を取らせないようにする呪いが……」

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