第1章:国会

(1)

「あ……あの……あれ、誰ですか?」

 笹塚は衛視と呼ばれる国家公務員だ。

 職務は国会の警固・警備。

 その笹塚に、奇妙な質問をしたのは、女性の2人連れ。

 片方は五〇代ぐらいと思われる、もう片方は三〜四〇代の可能性が高い外見。

 見学に来た観光客ではないようだ。

 2人の女性のスーツ姿から、笹塚は、そう思った。

 だが……。

「どなたの事ですか?」

 2人の女性が指差す先には……人が多過ぎて、誰の事を言っているのか判らない。

「あ……あの……判らないんですか?」

「いえ……ですから……」

 何かが、おかしい。

 女性2人の顔に浮かんでいる表情は……恐怖。

 2人は、スマホを見ながら何かを話している。

 複数の人物ついての会話。

「あの顔……誰?」

「でも……伊切さんにも見えた……一度、会った事が……」

「どうなってんの……?」

「ホントに、あたし達以外には……見えてないの?」

「それに……何で、2人……?」

「わかんない……」

「あの、だから、どうされ……?」

 笹塚が、そう声をかけた瞬間、2人の女性は、笹塚に背を向け、走り出す。

 ゴキャっ……。

 走り出して数秒後、齢上の方が転ぶ。その瞬間、嫌な音がする。

 転んだ女性の右足の足首から先の向きがおかしい。

 笹塚は無線機インカムで応援を呼ぼうとしたが……どう説明すれば良いか判らない。

 見える範囲には、他に何人もの人間が居るが、ほぼ全員が何が起きているか理解出来ないまま、固まっているようだ。

 何故なら……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る