第27話 いつか本物のダークヒーローに


 あれから一週間が経過した。


 ☆5第9席とかいう大層な地位と期待を引っ提げて登場しておきながら、終始小物みたいな立ち振る舞いだった三日針貶外は、無事警察に逮捕される運びとなった。

 薬品をぶっかけて脅した甲斐があるというものだ。


 しかもダメ押しで犯行内容を一部始終記録した動画をアップしておいた。

 主にヒイロが戦闘を始めたあたりからだ。

 これなら三日針の罪が誤魔化されることもない。


 これでヒイロも高位ランクのスキル使いは優遇されて罪が軽くなる、という妄想から解き放たれることだろう。


 友達として一安心だ。

 陰謀論者への道はそういうところから始まるのだ。


 組織として瓦解した☆0狩りは、だからといって一人残らず消え去ったわけじゃない。

 馬鹿はどれだけ叩いても次から次へと現れるのだ。


 とはいえ大部分はあの戦いで逮捕されたそうなので、今までよりずっと数は減らせただろう。

 事の顛末を教えてくれた護堂ソラは、それはそれは嬉しそうな笑顔で語っていた。


『ありがとうございます、魔王様!』


 それはそれは、とても幸せそうな笑顔だった。


「まあ俺としては全然嬉しくないんだけど」


 しかし俺からしてみれば折角見つけた玩具が壊れてしまったようなものだった。


 ☆0狩りという誰からも擁護されない完全無欠の悪。

 そんな不良集団をボコることで束の間のダークヒーロー気分を味わっていたというのに、これでは元通りどころか、☆0狩りの数が減った分だけ状況が悪化してしまっていた。


「どうしよっかなー」


 護堂ソラは「☆0狩りが倒されてもわたしは魔王様の正義にどこまでも着いていきます!」なんて口にしていたけど、それも怪しいものだ。

 人間誰しも、定めていた目的が達成されれば熱量は冷めていくのが常だった。


 あのハッキングの手腕を失うのは本当に痛いが、いつまでも益体のないお遊びに付き合わせるのも悪いだろう。

 NDNLのみんなにも申し訳ないし、次の悪い奴らが見つかるまで暫くはお休みさせてもらうことにしよう。


 自分の計画性のなさをまざまざと見せつけられるようだった。


「この椅子から眺める景色も、暫くは見納めになるな」


 俺はこれまでNDNLの面々と顔を合わせて会議していた一室でしみじみと感慨に耽っていた。


 スキルによって通常より凶悪性を増した不良、☆0狩り。

 彼らは社会にとっては害にしかならない蛆虫集団だったかもしれないが、俺にとっては一時の幸せを与えてくれる恵みをもたらす雨だった。


 それが壊滅した今、俺たちに敵はいない。

 ダークヒーローが悪の敵である以上、敵となる悪がいなければ成立しえない。

 人助けを主とするヒーローとはそこが違っていた。


「ヒイロの奴も暫くは入院するみたいだし」


 あれで複数人から暴行を受けた身だ。

 幾つかの骨にヒビが入っていたようで、入院することになった。

 お見舞いに行った時、彼はこう言っていた。


『魔王ベルゼブブは悪だったけど、でも奴のお陰で☆0狩りがいなくなったのも事実だ』

『そうだな』

『……ちゃんと俺一人でもどうにかできるようにしないと、このままじゃヒーロー失格だ。本格的に鍛えないとな』


 なんて、いかにも前向きでヒーローらしい様子だった。

 目標があるのはいいことだ。

 今の俺には決定的に欠けているものだった。


「また地球にいた時みたいに薬物の違法売買でもして釣った売人を潰すか……」


 或いは嘱託殺人のサイトでも立ち上げて、のこのこと依頼しにやってきた馬鹿をハッキングで住所特定して警察に売り飛ばすか。

 異能バトルが挟まる余地があればいいが、期待はできなさそうだった。


「ま、しばらくはそれでもいいか」


 ここ数日は理想のダークヒーローでいられて幸せだった。

 この幸福感があればしばらくは大丈夫だろう。

 いずれ強い渇きに襲われても、その時はその時だ。


「いつか夢見たダークヒーローになってみせる」


 だからそれまで、とりあえず強さを磨いておこう。

 俺は背伸びをすると、練習がてらその辺の悪人を襲いにいくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る