天才という壁を過ぎ去ったアホな娘


「というわけで、リナ、ジャガー行くぞ。」


「ちゃんと俺のこと覚えてくれてたんですね。」




 ジャガーが尊敬するまなざしで俺を見る。


 ジャガーの忠誠度が50上がった。嬉しくない。


 家族に驚くほど辛辣な態度をとられたせいか、凄く感謝されている。




「カイザー、何で?」




 リナは疑問に思っていた。カイザーは自分のことを邪魔くさいと思っていた。そういう匂いだった、はずだ。




「うーん、なんていうかさ、」


「嬉しかったんだよ。俺に会えたからって言ってくれたこと。」




 単純にそれだけ。


 万年ぼっちだったカイザーにとって、村の外で始めて出来た知り合い。交友関係。クソ面倒くさい野郎と、ちょっと特殊な娘でも、大切にしたかった。


 リナの言葉でそれを大きく自覚した。




それを聞いたリナさんはといえば、




(可愛い。)




 少し頬を赤く染めて、瞳をぬらしていた。


 雄としてのたくましさを持ち得ながら、たまに子供ながらのピュアな感情でメスを狂わせる。




「カイザーは女殺し。」


「んっ!?」




 狙うメスが多くなる未来をリナは予想していた。








「それじゃあ、もう行きます。」




 大勢の銀虎族が見送る中、旅立とうとする3人。


 銀虎族には先ほどよりも穏やかな感情が向けられていた。




「リナ、体には気をつけなさい。」


「うん。」


「私は正直今でも反対です。」


「…うん。」




 元々世界を旅したことのあるレナだからこそ、世界の厳しさは分かっているつもりだ。




「でも、攫われたのならしょうがないわ。」




 しかし、その表情はどこか呆れているようでもあった。




「強い強い魔王様に俺のだって言われたんだもの。ならそっちの方が安心よ。」




 彼女は俺のだ。


 リナは俺のモノだ。


 リナは俺のペットだ。


 リナは俺の性




「言わせないよっ!?」




 レナさんの言葉の誘導からか、リナの妄想力がとんでもないのか。


 どちらにせよ、もう少しでこの世界に染められるところだった。




「私はカイザーのペット!」


「よしっ、行ってきなさい。」


「よしっ、じゃない!?」




 染められちゃった。








「良かったんですか?何も言わなくて。」


「もう既に言った。」




『この度のご恩は我々一族一生忘れませんとも。』




 そう言った。


 あとから出てくる事実。我々を助けたのは魔王の一人。世界に害悪をもたらすであろう人物に助けられた。




 魔王に助けられたことなど一族の恥だ。


 そもそも本当に助けられたのか?


 そもそもこちらは頼んでいない。




 心の奥底から湧き出す汚い感情を一喝し、消し去る。




「我々銀虎族は恩を忘れない、誰であろうとだ。」




 ジュゴンは遠ざかっていく3人を見つめた。+1匹。












 そうしてひとまず村に戻ることを決めた3人は、元の道をたどっていく。




「それでボス、そいつは結局どうするんですか?」


「ひとまず、魔王城で雇えるかエリスと相談してみる感じかな?」




 歩く三人とは違い、引きずられるリアベル。この長時間引きずられ続けたせいで、妙に移動の仕方が上手くなっていた。お尻をくねんくねんさせながら移動している。いや、気色悪いだけだった。ジャガーが建前としてのリアベルをどうするか聞く、カイザーは普通に答える。




「…雇ってもらえるんですか?」


「………………ある程度は融通聞かせてくれるんじゃない?」




 エリスを信じることにしたカイザー。


 どんな変態でも心優しいヒロインの彼女ならば、快く迎え入れてくれることだろう。








 クシュンッ




「同族の気配?」




 エリスは自分と同じ存在が近づいてくるのを予感した。












 そのまま帰るはずだったカイザー一行は、リアベルに懇願されて、リアベルの住処に行くことになった。




『絶対に、絶対に陛下のお役に立てるものがありますからっ!!!』




 なかったらお仕置きだが、本当だった場合、これからの魔王生活に役立つかも知れないので行くことにした。リナもジャガーも基本イエスマンなので、反対はなし。




 すぐそこらしいのでと、行ってみると、悪趣味なピンク色の洞窟があった。


 蛍光色で塗りたくったような真ピンクの奴だ。


 目もチカチカするし、物理的なピンク色が来るとは思わなかった。


 何故か誇らしげにこちらを見つめるリアベルの尻をひっぱたいた。




「な、何をするんですかっ♡」




 語尾がハートになっている時点で、全く以て説得力が無いが。




「あの気色の悪い洞窟は何?」




 リナが代わりに聞いてくれた。




「気色悪いとは、お子ちゃまには分からないんですね。サキュバスの最先端の流行を模したあの美的センスの塊が。」




 そうか、サキュバスという種族全体の恥部というわけか。


 これからはむやみやたらにサキュバスに近づかないようにしよう。




「悪趣味。」


「サキュバスの恥。」




 リナとジャガーも中々に辛辣だった。


 やめろ、泣きそうな顔でこっちを見るんじゃない。顔だけはいいんだから。




「ふ、ふふっ、まあまだ外面しか見ていませんからね。これからですよ。」




 違うと思う。




 入っていった俺たちを待っていたのは、意外にも真面目な感じの機械的な部屋だった。


 なんだろう、ピンク色の建物に入って期待を裏切られた感じ。


 なんとも言えない虚無感を感じた。




「ささっ、陛下こちらです。」


「お前も陛下かよ。」




 まあもういいけど。




 リアベルの住処を見ていると、ここがファンタジーの世界だと忘れてしまいそうになる。一応は中世ファンタジーであるはずのガバガバ設定で、様々な世界観が描かれていたのだ。




 ファンタジーという存在をガン無視したような、SF染みた部屋の中を歩く。どこかの宇宙船にでも紛れ込んだかのようだった。




「これは全部リアベルが作ったのか?」


「いえ。設計の殆どは私がしましたが、元々完成されていた代物というべきでしょうか。」


「完成されていた?」


「空から落ちてきた謎の物体を私が解析して、その技術を再現しました。」




 天才じゃん。




「元々その物体に完成された設計と、機能があって高度な文明が扱われてました。」


「私も知らない物質が使われていましたので、代用できるものでそれを作っただけです。」




 天才じゃん。




「猿真似の範囲で恥ずかしい限りですが、この先に私の最高傑作がありますので、」


「最高傑作?」


「スライムです。」








 アホな娘だった。






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