龍?爬虫類の最終進化形みたいな奴?

「俺がいない間、危ないか。」




 確かに現在魔王の空席、更には何もしていな状況ではどんな事態が起こるか分からない。しかし現在の頼みの綱のカイザーは銀虎族の方に行かれてしまう。




「じゃあ俺のペットを貸すから、それを護衛にしてくれればいいよ。」




 そう言ったカイザーは、大きめの笛を出す。見るからに手作りのようだ。




「これは?」




 何でしょう。そう聞く前にカイザーはその笛を高らかに鳴らす。気持ちが高揚するような力強い楽しげなメロディー。快いその音に身を任せようとするも、異変に気付く。




 ジャガーは耳をふさぎ、頭を抱えていた。


 ジャガーの妹のリナは陛下にしがみつきながら、震えていた。




 かくいう自分も背中がゾクゾクするような感覚に襲われる。ゾルディスもガルドも何かを警戒する。そんな辺りを見回す際に窓から見えてしまったのだ。










 巨大な体が。












「おい、何故龍がここにいるぷぅっ!?そんな情報は聞いてないぞぅ!!!!」




 ルテンが叫ぶようにグルテンを問い詰めようとする。しかし、そのグルテンが隣で腰を抜かしていた。当たり前だ。




 龍。この世界で最強の種族だと大陸公認で決定している種族。魔王であろうと、龍には手を出さない、というかそもそも次元が違う。


 古代では神々や悪魔ともしのぎを削りあうような、現存する伝説の生き物。現在、確認されている龍は3種。つまりは目の前にいる龍が世界が知りえてなかった4種目の龍となる。




 狂気的なほどに黒い鱗。城を軽く上回るほどの巨体。圧倒的な覇気。そのすべてを持て余すほどの力。




 無理だ。そもそも魔王ごときが逆らえるような存在ではない。




 ルテンは気を失おうとしているグルテンを放って、逃げ道を探そうとする。




 龍に睨まれながらのそれは、最も愚かな行動の一つだ。




 壁を突き破って出てきた、尻尾。それにからめとられたルテンは、




「ま、まてぷ。まだっぷぷぷぷっ、ぶぶぶぶぶぶっっっ!!!」




 壁の穴の闇の奥へと消えていった。








「…まさか、龍とはの。」


「龍だな。」


「龍ですね。」




 カイザーが龍をペットとして飼っているという現実がようやくのこと追いついてくる。




「龍をペットにか。陛下は大物だな。」


「それ皮肉かの?」




 彼らの中でのカイザーの強さが跳ね上がっていた。龍をペットにしたということ、カイザーの命令は絶対ということ。これから察するに手懐けたのだろう、あの龍を。いや、そもそもどこであんなものを見つけてきたのだろう。




こちらに見せつけるかの如く、捕まえたルテンを振り回している。




「民に説明する必要がありますな。」


「ええ、演説は得意だから。」


「ご尽力しましょう。」




 三人は途方に暮れたように龍に驚く民の方に歩いて行った。












【過去回想】




 私は目を覚ました。




 最も強き龍は周りの自然を脅かすように目を覚ました。大地も空も見えるすべてが震えていた。自分に怯えていた。目に映るすべてを支配する感覚に久々の喜びを覚える。




 憎き神々と大悪魔ども、更には同族であるはずの龍に手を組まれて、なすすべもない我が力を封印されてから数千年が過ぎていた。今度は、今度こそは何もする間もなく灰燼にしてやると意気込んでいた。




 まずは腹ごしらえと、周りにいる魔獣たちを狩るために動こうとする。それに本能で気づいた魔獣たちは即座に我から離れるように逃げ出した。この絶対強者ゆえの特権が凄まじいほどに我の興奮を掻き立てていた。




 しかしある異変に気付く。




 ある一定の間隔で止まってしまったのだ。我から逃げ出そうとしていた魔獣がある線で止まるようにその場に立ち尽くしていた。恐ろしいものに板挟みされるような状態に少しの苛立ちを感じた。




 我は龍だ。我より恐ろしいものなど存在しない。強いものなど存在しない。自分以上の支配者は存在しない。それが世界のルール。なのに我よりも恐ろしいものを見るかのように奴らは逃げる。








 ふざけるな。








 この世に最悪の象徴として降臨した頃からから知ることのなかった屈辱という感情が自分の中に生まれるのを感じた。世界最強であるという自負に傷を付けた存在を許せるはずもなく、








ブレスを溜める。








 不敬な魔獣含め、皆殺しだ。確かに向こう側に居る何かに攻撃しようとしたその瞬間。








 同時に、赤い閃光が迸った。






「困るな~。食料があるから、暴れないように言ったはずだけど。」




 目の前に居たのは小さな鬼の子供。まだ成人どころか、小童の域も出ていないような鬼がそこにいた。私の口元を両手で包み込むように押さえていた。だが、気にせずブレスを放とうと、




『おい。』




 一瞬の静寂。


 ともに、万力の如き力の牙が私に襲いかかった。








 ブレスは体内に放たれ、己の牙が自分の口内を傷つける。久方の痛みに頭が冷静になる。






 目の前に居るのは何だ?






 子供だったはずだ。比較的な強者の一族であろうと、圧倒的な実力者達の前ではなすすべもなく絶滅するような種族。


 しかし、




 その鬼神のような力が。


 周りを押しつぶすような重力の覇気、


 絶対的強者しか持たないはずの捕食者の目、




 それが目の前の矛盾を作っていた。




 武神と戦神を融合したような子供。




 なんだこれは?




 龍は目の前の存在を疑った。というか信じられない。




「なあ、お前新米か?」




 子供は我に話しかけてくる。


 新米とは我に言っているのか?




 そもそもこの森は彼、【終末龍 ヘルヴェ】が封印されたことで生まれた森だった。体から溢れる潤沢な魔力が更地であったはずの土地に多くの生命を反映させたのだった。この森が禁足地となったのもヘルヴェの強力な魔力を吸った魔獣が闊歩するからだ。




 そんな森の支配者、否生み出した者が新米。追い打ちを掛けるような無礼に思わず、口から炎が漏れる。貴様よりも数千年長く生きておるわ。




「まあ、いいか。これからは森で暴れないようにな。」




 その命じるかのような口調に余計に腹が立つ。故にもう一度攻撃を仕掛けようと、今度は手加減も何もなしの全力を放とうとして、














 死を予感した。














 自分の口の前にかざされた掌。何でも無い。


 ただ目の前にかざされた手。この最後の慈悲を踏みにじれば、死ぬのは自分。


 そう予感するほどの絶対的な差。




 強さを突き詰めた何かが子供の皮を被っていた。




 そのあとはただ遊ばれただけ。


 恐怖に震える自分は暴れ回った。天災が縦横無尽に暴れ回った。


 ブレスは手刀で真っ二つ。勢いが強く、尻尾も千切られる始末。


 己の爪で体をえぐろうとしても、腕ごともぎ取られ、理不尽の塊のような存在だった。




 無意識で主従関係を体に刻まれた。


 死の恐ろしさを知った。


 強者に対する畏怖が生まれた。




 その日、龍は一人の鬼族に屈し、忠誠を誓った。








 なお本人は意識していない模様。


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