第182話 魔法使い

 猿助さんが異世界に来た。


「ステータス オープン!」


 そして思い出したようにお決まりのセリフを言っていた猿助さんであったが、何も出て来なかったでござると、しょんぼりした。


「気にするな、俺もステータスは出ないから」

「エスタ氏も!? で、では、次は魔法を試してみるでござる!」



 え!? いきなり!?



「村の中で火魔法はだめだぞ、小さい火球のはずが、万が一にも大爆発とかだったら大惨事だし、まだ、安全そうな水魔法あたりを」


 俺がそう提案すると、猿助さんは元気よく返事をした。


「承知!」


 そして猿助さんが何も無い空間に向けて手を突き出し、ウォーター! と叫ぶとなんと、


 ピューっと手のひらから水鉄砲のような水が出たではないか!



「「「えっ!?」」」


 俺達一同驚愕!! いきなり魔法が使えた猿助さんも驚いている。



「ええ!? すご、猿助さん凄い! じゃあ僕も一応試してみようかな」


 そう言ってカナタもウォーター! と叫んではみたが、何も起きない。



「やっぱり僕は無能なんだ……雑貨を売るくらいしかできない一般人」


 カナタがしょんぼりしてしまった!



「そ、そんなことないでござる! カナタ氏は癒やし系の美形でござるし! 拙者は多分あれでござる! 三十歳まで童貞だと魔法使いになれるってやつ!」


 カナタのフォローの為にいきなり童貞だとカミングアウトしてしまう猿助さん。

 お人好しか。


「あ、なんかごめんね」


 変なことを言わせる形になり、顔色が蒼白になるカナタ。

 そして逆に真っ赤になる猿助さん。



「で、でも、水魔法と言っても水鉄砲程度なので戦闘では使えなさそうでござる」

「レベルが上がればもしかしたらもっと強くなれるかもしれないな」


 俺がそう言うと、


「そうか! やはり修行がいりますな! やはりまずはスライムから!?」


 張り切りだす猿助さん。


 しかしスライムというとかつてのミレナを思い出す。

 壁尻事件を!!



「スライムだと初心者は核が分かりにくいかもしれないから小さな角兎程度にしたほうが無難じゃないか?」


 ジェラルドがそう語ると、やはり殺意の高い角のある兎がいるんでござるな! と、興奮してたけど、


「でも見た目がかわいい兎だとやりにくいでござるな」


 と、かわいい生き物はやはり倒しにくいと困っていた。



「じゃあゴブリンか」


 ジェラルドがまたファンタジーワードを出して来たのでまたも興奮する猿助さん。


「ファンタジー世界定番のゴブリン!」

「ねー、ゴブリン退治は今度でいいからとりあえず早く宿屋に行きましょうよ」

「そうでござった! ミレナ殿、かたじけない!」



 そんな訳でこちらの俺の家に行く前に精霊祭を楽しんで行く事にしたので、俺達はミレナが予約してくれていた村の宿に泊まる事になった。


 とはいえ、ミレナは女の子なので男の俺達とは別の部屋だ。

 全部で三部屋とってあり、部屋割りはミレナ+犬のラッキーとユミコさん(個室)と、ジェラルドとカナタが相部屋、俺と新入りの猿助さんが相部屋。っていう感じだ。


 ドールは俺がミラを、ユミコさんをミレナが引き受けてる。

 ミラとユミコさんはジェラルドのリュックからもう出している。


 それからミレナは俺からのお土産が楽しみだけど夜中なので、ひとまずは猿助さんがくれたチョコだけ貰って部屋に戻った。

 寝るためにな。



 俺は猿助さんと同室なので今は二人で部屋の中にいる。


 宿に移動する最中も猿助さんは、「幌馬車は初でござる! 感動でござる!」


 と、興奮していた。

 確かに幌馬車に乗るとファンタジー感があるよなと、俺も思った。


「やはり興奮して寝れないでござる」


 ジャージに着替えてベッドに体を横たえても無駄だったようだ。

 なにせ水鉄砲レベルでもいきなり魔法が使えたわけだし、興奮して目がギンギンに冴えてるんだろうなぁ。


「でもここは小さな村だから歓楽街もないし、眠れる薬草茶でも飲んでみるか?」


 俺はカナタにも使った薬草茶を魔法のカバンから取り出した。


「歓楽街!」


 猿助さんがカッと目を見開いた。

 薬草茶よりそちらに興味が湧くのは仕方ない。


「そう、いわゆる花街。ケモミミ専門店もあるから今度案内しても構わないけど、しっかりゴムは使うんだぞ」

「は、はい! 拙者はケモミミっ子に童貞を捧げる為に今まで純潔を守っていたに違いないでござる!」


 そっか、ケモミミっ子に捧げたいのか。

 しかしとりあえずずっと起きてても精霊祭がしっかりと楽しめなくなりそうだ。

 なので猿助さんには薬草茶を飲ませ、更に眠れる朗読動画の音声を流したら、何とか寝てくれた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る