第160話 かっこいい剣士とお弁当

 弁当作りをした翌朝。


 宿の豆のスープと硬いパンと焼いた豚肉の腸詰めで軽い朝食を済ませて出発する。


 宿の外に出たら爽やかな晴れの空だった。


 船旅なので晴れで良かったと思いつつ、幌馬車の荷台に乗せてもらって船着き場まで皆で向かった。


 俺達の他にも荷台に乗ってる人たちがいる。

 皆、船着き場に向かうようだ。

 ちなみにドールの二人は俺とカナタが一人ずつリッュクに入れて背負ってる。


 しばらくして船着き場に着いた。

 そこではしばしのお別れか、抱き合って別れを惜しむ人達もいた。


 ジェラルドとミレナはまた赤いリボンを腕に巻いて臨時で船の用心棒となった。



「何事も無ければいいが……」


 俺はそう呟いて船に乗った。

 船の帆が上げられ、風をはらんで船は進む。


 しばらく甲板からぼーっと海を眺めていたら、潮風を切るように銀色のトビウオのような魚が群れになって海上スレスレを飛んでいるのが見れた。


 キラキラと輝いて綺麗だ。

 なかなかに幻想的な姿だったので、思わずカメラで撮影した。

 ミラとユミコさんも、リュックから顔を出してその様子を眺めてた。



 トビウオのような魚が進路を変えて海に消えてしばらくして、小さな島に着いた。


 そこで船乗り達が島人から何かの補給物質を受け取り、船は再び船は大海原を漕ぎ出した。



 ここまで船旅は順調だった。



「ワン!!」


 まず、俺の足元にいたラッキーが突然吠えた。

 すると近くにいたミレナの尻尾がブワッと逆立った。


「なんか来たわ!」


 !?


 船が、止まった。

 船なのに何故か急ブレーキがかかったかのようだった。


「うわぁつ!!」


 悲鳴が上がった。

 つんのめった人が何人も甲板で倒れたし、船から海へと投げ出されそうだった人をミラの糸が素早く捕えて船の中に引き戻した。


「た、助かった、ありがとう!」


 ミラを肩に乗せてた俺が礼を言われた。

 いいえ、と言う暇もなく、巨大な白いイカの触手が船体を捉えてたのを視界にとらえた。


「クラーケン!?」


 触手が数本甲板にいる人間に向かって伸びてきた!

 用心棒の剣士がたちまちその触手を切り落とすが、足は複数ある!


 ジェラルドは弓を構え、矢をつがえた。

 ミレナは太ももの刃物を抜き、構え、クラーケンの頭部をめがけていつもの集中砲火の如く射出!!


 俺も杖を振りかざし、魔力の風で矢と暗器の攻撃力を上げるサポートをしたが、クラーケンは小賢しくも触手でそれらの武器をはたき落とした!


 そして船体が大きく傾いたと思ったらクラーケンの巨体が船に乗り上げてきた!


「今だ!!」


 誰かがそう叫んでクラーケンめがけて飛んだと思ったらその頭部に剣を突き立てた!!


 それは人間の剣士だった。

 クラーケンは青い血しぶきとともにギャオオーッと、断末魔の声を上げ、剣士は突き立てた剣を引き抜いた。


「仕留めた!」

 剣士がそう宣言するやいなや歓声が上がった。


「デカブツを海に落とせ!」

「「おうっ!!」」


 それから用心棒達は総出で半身を船に乗り上げていたクラーケンを海に落とした。

 ミラの魔力の糸も巨体を掴んで海に返すのに一役かった。



「あー、びっくりした、勇者みたいに強い人も乗ってたんだなぁ」


 さっきの戦闘のMVPの剣士が俺の前方の甲板上にマントを靡かせ、雄雄しく立っていたのを俺は半ば呆然と眺めつつポツリと呟いた後に、船乗りが叫んだ。



「おい! 怪我人を集めろ!」

「船医はどこだ!?」


 船乗り達が船医を探して叫んだ後に、


「船医は船が急に止まった時に頭を打って気絶したぞ!」


 と言う返事が返ってきた。


「あ、俺の出番かも」


 比較的最近手に入れた癒やしの力で俺は怪我人の治療をした。


「わりといるもんだな、ああいう巨大なイカ」

「とりあえず転覆は免れたな」


 ジェラルドがふうっとため息をついた。


 遊園地のアトラクションもびっくりな船体の傾き具合だった。


 さっきの勇者みたいな剣士がこっちを向いた。

 あ、精悍なイケメン!! 年齢は二十代半ばくらい!?

 顔もかっこいい、卑怯!!

 俺が女なら惚れてしまいそうなレベル!!



「お疲れ様です」


 癒やしの魔法を使った俺に言っているようだ。


「あ、ありがとうございます、そちらも見事な活躍でした」


 剣士はニカッと笑って背を向けて仲間らしき人の元に向かった。


「ねー、今の剣士様、めちゃくちゃかっこよかったわね!」


 そんな女性の黄色い声も聞こえた。

 その勇敢な剣士の姿をじっと見つめる女性達の中に、なんとミレナの姿もあった。


 ん? まさか、これは……一目惚れ!?



 そう思って俺は奇跡的な瞬間を目の当たりにしたとしばし固まっていたら、ミレナが振り向いてこちらにつかつか歩いてやって来て、


「ショータ、お腹すいた! お弁当!!」


 と、言ったのだった。

 俺は一瞬ガックリと項垂れた後に、やれやれといった感じでレンコンの甘酢あんかけのお弁当を魔法の風呂敷から取り出した。

























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