第138話 遭遇

「背景の古城CGがリアルだってさ」


 動画の視聴者のコメントをカナタがチェックしてくれてる。


「あはは、背景もエルフも狐っ娘も本物ですとも言えないからなぁ」

「本物で異世界にいます! って言っても異星から来たって言ってるアイドルも誰も信じないから逆に嘘つかずに言える気もするよ」


「いやいやいや。嘘つきって思われるか頭おかしいって思われそうだ」

「まあ、スルーならスルーでもいいけどね、じゃあ全部無視も感じ悪いかもだし、ウインクの絵文字だけ返しておくね、無難に」

「ありがとう」

 


 動画配信やってくなら視聴者も大切にしなくてはな。



 そして寒風が吹きすさぶなか、俺達は中華料理店へと足を運んだ。

 温かい料理が恋しくなったからだ。


 店内に足を踏み入れると、かなり賑わっていた。

 安くて美味しい食堂だからな。


 一応メニューを見たけど、麻婆豆腐と決めていたので俺達はすぐに注文した。

 ややしてテーブルに麻婆豆腐が運ばれて来た。


 鮮やかな赤い色合いの麻婆豆腐は、コチジャンと豆板醤と、豆腐が絡み合う。

 鷹の爪の赤さがひときわ目を引く。


 食べてみると程よい辛さが舌を刺激する。


 そして豆腐の柔らかさと挽き肉の旨みが広がっていき、そこに白米のご飯を、口に入れて追いかける。


 一口ごとに体が温まっていくようだった。


 その後、デザートに杏仁豆腐を注文した。

 舌ざわりはまろやかで、味は優しい。

 美味しかった!


 満腹になって満足し、二人して退店。



 * *



 中華料理屋で麻婆豆腐を食べてから、帰宅してからはゆっくりと冬の祭典の本などを、タブレットを手にしてソファに転がりながらチェックした。


 テレビも一応つけてはいる。

 ケーブルテレビのアニメをBGM代わりに流してるから。


 カナタの方はお裁縫の本を読んでいるようだった。

 勉強熱心だ。えらい。


 そして怠惰な俺はスマホを見てみると猿助さんからSNSで一緒に好きな作品のコラボカフェに行かないかとのお誘いが来ていた。



「カナタ、友達からコラボカフェのお誘いが来たんだが、明日一緒に行かないか?」

「え、僕が混ざってて平気なの?」

「猿助さんは推しのグッズが欲しいんだし、人は多い方が、当たる確率が上がるから喜ぶはず」


「はず、じゃあなくて翔太がちゃんと訊いてみて。相手が大丈夫なら加勢に行くよ」

「分かった、ペロッとメーセージを送る」

「うん」

「お、凄い速さで既読ついた!」

「流石に早いね」


「猿助さん、ぜひ来て欲しいってさー」

「そ、そう? ならいいかな」

「ちなみにゴスロリの男の娘同伴でもいいかって聞いたら喜んでたよ」

「え!? そんな事まで書いたの!?」

「せっかくゴスロリを着るチャンスかと思って」


「ま、まあ、君たちがいいならいいけどね」

「じゃあ明日は午前中が仕入れで昼あたりにコラボカフェなー」



 そう言って歯を磨いてから俺達は就寝タイムに突入した。


 電気毛布が温かく気持ちよくて、俺はすぐに眠りに落ちた。


 翌朝。


 朝から粉末のトマトスープにお湯を注いだやつと食パンにマヨコーンをのせてオーブンで焼いて食った。

 え? 総カロリー? 知らない子ですね。


 朝食を簡単にすませて仕入れの為にドラッグストアやホームセンターに行く。


 はい、私がティッシュ爆買いおじさんです。

って毎回内心思いつつ、何食わぬ顔でレジにて会計を済ます。


 通販でも俺名義で大人の使うゴムを沢山購入しているから、かなり怪しいおじさんかも。

 でも俺が使うんじゃない、全部売り物です! 

 多分!


 予約していた沢山の弁当も回収して、魔法の風呂敷に突っ込み、お昼近くにカナタと共に猿助さんの待つコラボカフェへ向かった。


 「やあ、どうも! 猿助でござる、本日はお友達も、加勢に連れて来てくださって感謝の極みでござる」

「よ、よろしくお願いします、カナタと言います」


 カナタがキャラの濃い人が来たな!

って顔をしてるが、男の娘のお前もかなりのものだぞ。


 まあ、とにかく、仲よくやろう。

 俺は平和主義者だし。


「さて、猿助さんは誰狙いなんですか?」


 カナタが猿助さんの推しを訊いてきた。


「この金髪の子と銀髪の子でござる」

猿助さんがスマホを取り出し、コラボカフェ情報のページを表示させた。


「オッケー、把握しました」

「俺はこの着物の耳付きの女の子と、このエルフの弓兵が欲しいな、できれば程度だけど」

「承知! 推しが被らず助かり申した!」

「翔太、この金髪碧眼のイケメンエルフは男の人だよね? 男装の麗人とかじゃなくて」


「ああ、でもかっこいいからさ」

「そっか、確かに」

「そのキャラはまさしく男ですが女性人気も男性人気も高いでござる」

「うん、まるで理想の王子様だよね」


 そうなんだよ、俺はかっこいいキャラも好きだから。


「さて、注文が決まったならオーダーをするでごさるよ」

「はーい、僕は二人と同じものでいいよ、それにグッズがつくんだよね」

「かたじけない! しからばまずはドリンク無双から!」


 猿助さんが店員呼び出しブザーをぽちっと押して、俺達の多多買いが今、始まる!

















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