第91話 あんかけパリパリ焼きそば、鳥の巣風
俺は一度に沢山移動すると疲れる体力があまりないおじさんなので、市場から魔道具屋、馬車停留所に行って戻って来た。
夕食までにはジェラルドも帰ってきた。
そしてルルエが一匹増えた。
「わー、この子が僕を乗せてくれるの?」
「クルルゥ」
「鳴いた、かわいい……」
「そうだと、言ってるようだぞ」
「わあ、よろしく」
「カナタは明日は近くの公園でルルエに乗る訓練をするといい、大人しく賢いから振り落としはしない」
「はい、ジェラルドさん」
「じゃあ夕食まで休憩ね、先にシャワーを浴びるわよ」
「どうぞ、どうぞ」
フェリはまだ賢者の家にて寝かせているらしい。
充電期間だと思って数日間そっとしておくか。
そして夕食タイム。
この頃になったらもうだいぶ涼しくなってるから、俺もキッチンに立つのが辛くない。
「日本の中華街にあるらしい、鳥の巣あんかけ焼きそばを再現してみよう」
今日俺が使う材料は、豚こま肉、イカ、豆、人参、キャベツ、もやし、生しいたけ、中華蒸し麺。
それと中華スープ、オイスターソース、酒 醤油、水溶き片栗粉、水、酒、塩、胡椒、サラダ油、ごま油……ってところだ。
「へぇー、本当にパリパリ麺が鳥の巣みたいに丸くなってるね」
カナタが鳥の巣に見立てたパリパリ麺を楽しそうに見てる。
「ああ、そんでこの巣のてっぺんからあんかけをかける」
「あら、美味しそうね」
「とろみのあるあんがかかったとこから柔らかくなっていく」
さて、調理も終わってキッチンからリビングに移動して実食の時だ。
手を合わせていただきます!
「翔太、このあんかけ焼きそば美味しいよ!」
「面白い食感だな、味もいい」
「なかなか美味しいわ、肉と野菜とイカも入っているわね」
豆はジェラルドが育ててくれた家庭菜園のものだ。
もぐもぐ、美味しい。
「肉がないとミレナがガッカリしそうだしな」
「べ、別にわざわざガッカリとかは言わないわよ、次はお肉が食べたいと言うくらいで」
「ハイハイ」
「私はちゃんと美味しいって褒めたからね!」
「はい、よく噛んで食べなさい。
明日の朝はローストビーフサンドを出してやるから」
「え!? 本当? やったわ!」
ミレナは本当に肉が好きな女子だ。
「ローストビーフ? 朝から豪勢だね!」
「明日は乗馬訓練的な事をするんだろ? スタミナはあったほうがいいだろうしな。
馬じゃなくてルルエだけど」
「頑張るよ」
「俺でも乗れたから大丈夫だよ」
「訓練は俺が見ててやるから」
「ありがとうございます、ジェラルドさん!」
ジェラルドは軽く頷いてから風呂に入りに行った。
「じゃあカナタが訓練してる間に私が小屋を広くしておくわ」
「じゃあそれを俺が撮影する」
「翔太は手伝いなさいよ、撮影はミラでもできるでしょ?」
「はい! 撮影できます!」
ミラが元気に挙手をした。
じゃあ俺も小屋作りの方に手を貸そう。
「はい、手伝います! ノコギリで竹を切るくらい俺もやろうとは思ってたんだよ、そう言えば」
「ここにも竹があるんだねぇ」
カナタがしみじみとしつつ言った。
周囲は昔風のレンガ造りの西洋風建築が多いから少し以外なんだろう。
「不思議な夏の森って所には年中あるし、俺が金も家が無い時はいざとなったら竹で簡易的な家を作るしかないかなって思っててさ、でもジェラルドが森の家に泊めてくれて助かった」
「良かったねぇ、優しいエルフさんと会えて」
「ホントだよな」
「はー、あのエルフが優しいですってぇ?」
ミレナにはジェラルドは塩対応なので、彼女は不満げな顔をしている。
これは仕方ないよな。
* *
翌朝になって伯爵様から連絡が文字通り空を飛んできて、アレルギー対策の魔道具が完成したとの事。
良かった! 鼻水と鼻詰まりは大変なストレスだもんな!
「これで苦しんでる人も減らせるよな……」
「翔太、何かいいことあった? 晴々とした顔してる」
朝食後はルルエの騎乗訓練に行くカナタが俺の顔を見て声をかけてきた。
今日は当然パンツルックだ。
「こっちの錬金術師さんに花粉と花粉症の情報を共有してたんだが、アレルギー対策グッズの魔道具が完成したとの知らせだ。朗報だろ?」
「確かにそれは朗報だね!」
伝書鳥はまだ窓辺に待機してくれてる。ならば……
「えーと、手紙におめでとうございますと書いて足に括りつけて……と、よし、飛び立て!」
伝書鳥は再び空に飛び立った。
いい朝だなあ。と、しみじみしていると、
「よし、朝食のローストビーフサンドを食うか!」
バタバタバタ! 急に二階から元気に階段を駆け降りて来る音がした。
「今ビーフって言った!?」
「言った、朝食にするから席につけ」
尻尾が喜びでピーンと立ったミレナだ。
今日も元気だな!
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