第55話 人魚と狐の男

 海に潜ると南国っぽい鮮やかな青色の魚と黄色い魚が泳いでいた。


 その鮮やかな黄色い魚の群れを追いかけるように息継ぎ浮上を度々しながらも泳ぎ進むと人魚と目が合った。


 に、人魚! 凄く綺麗だ!

 ティアラを冠った長い金髪の美しい人魚さんが手を振ってくれた!


 フレンドリーだな!

 俺も手を振ったが、やはり長くは息が続かない。


 一旦浮上してまた潜ると、もう人魚の姿は幻のように消えていた。


 いやー、生人魚見れて良かったな!

 海龍トンネル内からでもちょっと見たけど。


 ……ん?


 俺が砂浜に戻るとジェラルドが貝や昆布やワカメのような海藻等をゲットしていた。

 この辺は漁業権とか無いんだろう。



「なー、ジェラルド、今な、金髪の綺麗な女の子の人魚がいて、ティアラを冠ってたんだけど」

「それは人魚の姫ではないか?」

「だろ!? いやー、いいもん見た! 寿命が延びたかも!」

「喰わなきゃ寿命は延びないと思うが」


「え、やっぱりこの世界の人魚の肉も食うと永遠の命になる言い伝えがあるんだ!?」

「海神の怒りに触れて長命の醜い怪魚になるだけだからやらないほうがいいという噂だ」

「怪魚! 人間のまま長生きじゃないんだな」

「ああ」


 そんな迷信じみた人魚トークをしながら浜に上がるとラッキーがブルブルして体の水を弾き飛ばしていた。


 おやおやおや。

 他の観光客にかからないようにしてくれよ。



 気がつくとミレナはラッシュガードをまた羽織っていたし、また男にナンパされていた。


 でもその男が同族の狐の尻尾と耳のある男だったので、ついふさふさの尻尾に見入っていた。



 あの尻尾、大きくて、もふもふで、立派だ……。



「ちょっと、ショータ! 海から上がったなら見てないで話しかけなさいよ!」

「あ、いや、立派な尻尾してるなって」

「尻尾がついてれば誰でもいいわけ!?」


 それは、わりとそう。


「はじめまして! 俺はミレナの同郷の幼馴染でカイって言います! こいつまだ危険な冒険者とかやってるみたいですね」


 おお、旧知の仲のやつと偶然再会したのか。



「幼馴染さんですか、ミレナさんはうちの店で働いてくれてるんで、いつもお世話になっています。危険な冒険者の仕事はその分は減っていますよ」


「え!? そうなんですか!?」

「ちょっと、こいつに詳しく教える必要なんてないから!」


 あ、個人情報か。すまん。



「ごめん、幼馴染って言うから」

「俺、ミレナと昔、結婚の約束をしてたんですよ!」


 !? 


「はあ!? あんたが勝手に大きくなったらお嫁さんにしてあげるとか何故か上から勝手な事を言ってただけでしょ!」


 おや、雲行きが怪しいな。

 


「またまた、照れ隠しだろ?」

「あんたの頭は本当にめでたいわね!」


 コイツらもケンカップルに見える。



「良ければ一緒に夕食でも」


 狐男に誘われたが、こいつがミレナ狙いなのは明らかだ。

 彼女が嫌がっていなけりゃ応援してやるべきなんだが、



「えっと、俺達は夕陽を見る為に待ってるんですよ」

「俺も待ちますよ! もうじきでしょう?」

「あんたはもう遠慮しなさいよ! 邪魔よ! シッシッ!」


「チッ、久しぶりに会ったのにつれないなぁ、ミレナは」

「「カイ〜〜!」」

「やっべ、女の子達に呼ばれた、ミレナまたな!」

「もう来るな!」



 現地の褐色美女から観光客の白肌の女の子やらが集まる集団にこの男は呼ばれたらしい。

 モテるのは狐族の女の子だけじゃなくて男もなのか?

 ちょっと羨ましいような。


 しかしミレナは怒っていたな、あまり仲良くはないのかな?


「ショータ、夕陽、もうじき見れるぞ」


 ジェラルドが変な空気を変えるように声をかけてきた。



「おっと、それは見逃せないな! ミラの所に戻ろう」

「ああ」

「そうね」


 レジャーシートにてちょこんと待ってるミラの元へ帰った。


 俺はカメラを構えて夕陽を撮るために日没を待った。

 ややして太陽が地平線の向こうに沈みかけ、海はキラキラと輝いた。


 最高に美しい。

 ふと、両隣に座っていたミレナやジェラルドの横顔も綺麗だったから、そちらも撮った。


 言うまでもなく、ミラもラッキーも可愛いので撮ったけども。


「さて、夕陽を撮影できたし、サンセットバーベキューと行くか」

「海底都市では魚が多かったから、私は肉がいいわ」


 肉巻きおにぎりも食ったはずだが、まあいいか。



 浜辺でバーベキューなんてまるでパリピだなと思いつつも、いつぞやミレナがくれた鳥を焼く時が来た。

 しばらく魔法の鞄の中にいた。


「ミレナがくれた鳥肉を焼くぞ」

「やっと出てきたわね」

「丸焼きか?」


 鳥の首はもう落ちてるし羽根も内蔵も除去してある。


「大きいほうが派手でいいかな? 解体してもいいけど」

「ショータ、腹にハーブでも詰めて焼くか?」


「米を腹に詰めても良いな、中がピラフのやつ」

「何でも良いから早く焼いてよ」

「分かった、分かった」


 ミレナは待ち切れないようだ。



 ダイナミックに焚き火の上で丸焼きにすることにした。

 棒で串刺しにして、軽く塩コショウして回しながら焼くんだけどジェラルドとミレナが交代でやってくれた。

 ハンター系の原始人のゲーム画像みたいで絵面がおもしろいからこの光景も撮影した。




「こんがり焼けてきたわよ」

「じゃあ仕上げに万能調味料をかけて切り分けて食べるか」


 俺は葦などをカットして、日本で仕入れてきている万能調味料をふりかけた。


 これをかけたらだいたい美味しくなる!



「やはりバーベキューにはこの調味料だな」


 ジェラルドもご満悦だ。


「これをかけると魔法のように美味しいわね!」

「そうだな」


 俺が相槌を打つと、ワンワン! と、ラッキーが吠えた。


「ああ、お前も腹が減ったか、すまんすまん、塩コショウしてない肉か魚を……」

「やあ! さっきぶりだね! 美味しそうな肉だね!」


 さっきの狐男が戻って来た! ラッキーが吠えたのはこいつが来たからか。



「ええと、カイさんでしたか? さっきの女の子達はどうしたんですか? 大丈夫ですか?」

「振り払って撒いて来ました!」



 何がしたいのかな? ミレナが本命だから置いて来たってことか?



「なによ! 食事時なんだし、遠慮しなさいよ!」

「そう言うなよ、ミレナ、肉はいっぱいあるじゃん」


 確かに肉はいっぱいあるな。


「三人と犬がいるから!」

「あ、なに、このお人形! すごく綺麗だし動いてる!」


 狐男は配膳をしているミラに注目した。

 なかなか目が高い。


「聞きなさいよ、ちょっと!」


 とりあえずここを穏便にやり過ごすならちょっと食べ物も分けてやった方がいいな。


「カイさんの分も取り分けますね」

「いやあ、ショータさんは優しいな!」

「あんたはあつかましいわね」

「いやいや、あはは」


 俺はもう笑うしかなかった。

 狐男は万能調味料をかけた鳥肉を食べて、


「すげえ! 過去いち美味い! なんだコレ!」


 などと言っていたし、美味い味に正直なところは悪くないなと思った。

 彼は凄い勢いで食べている。



「カイ、あんた食べ過ぎじゃない? これ元は私の持ち込みの肉よ」

「金なら払ってらやるから〜」

「そういう問題じゃないわよ、全く」



 でもミレナもお金を出すからと、俺にアイスをねだっていた過去があったような……。


































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