天然チートの第一王女殿下、表情筋が死んでいる

猫魔怠

第1話 いつか訪れる未来

 ドゴォォォォォォォォォンッッ!!!


 

 激しい轟音が雲ひとつない青空の下に響き渡る。

 轟音の発生源は多くの人々が暮らす街の中心に聳え立つ巨大な純白の城。

 その城の中間よりも少し上の高さにある部屋から黒煙が天に向かって登っている。


 黒煙の根本。

 壁の一部が破壊され、空に鎮座する太陽の光が直接降り注いでいる。

 そんなボロボロになった城の一室に一人の少女が立っていた。


 太陽の光を受けて輝く母親譲りの銀色の髪。

 どこか眠たげな父親譲りの金色の瞳。

 動きやすさを重視しつつも、淑やかさも感じることのできる黒のドレスに包まれたバランスの取れた肢体。

 一言で言うのなら美少女だ。


 「どうしよう‥‥‥‥。今月は大丈夫だと思ったのに‥‥‥‥」


 少女の言葉はこの状況は自分が起こしたものであると言外に認めるものだ。

 ズーンという効果音が付きそうな表情で項垂れる少女に2匹の生物が近寄り、足をすりすりしたり鼻を擦り付けたりして慰めようとしている。


 「ありがとう‥‥‥。私を慰めてくれて‥‥‥。うん。私、頑張る。お父様にお城壊しちゃってごめんなさいって謝るわ」


 3匹の生物に慰められた少女が表情を明るくして、これから自分がやることを声に出して確認した。

 その光景は実に心温まるものだ。



 少女に寄り添う2匹の生物の姿に目を瞑れば‥‥‥。



 少女の足にすりすりと自らの殻度を擦り付けているのは蛇だ。

 漆黒の体に紅の瞳を持った体長5メートルほどの蛇である。

 これだけなら普通の大きな蛇で済ませることができるのだが、この蛇の周りには黒と紅の輪が浮いており蛇の意思に従って宙を動き回っている。

 その姿はこの世界で邪神と呼ばれ太古の昔に遺跡の奥に封印された神の一柱そのものだ。

 そしてその蛇の名前は邪神と同じグロヴェーー


 「ありがとう、ロヴェル。そんなにすりすりしてると摩擦で熱くなるわよ」


 ロヴェルだった。

 かっこよさの中に可愛さも混じっているように感じる名前だ。


 ロヴェルと呼ばれた蛇だけに少女が構っているのが気に食わないのか、ロヴェルの長い体を鋭い牙を持つ口でガブリと噛んだ生物がいた。


 「キシャァァァァァッ!?」

 「コラっ。ロヴェルを噛んじゃダメ。口を離して、カルマ」


 そう言いながらロヴェルに噛み付いた生物に少女は目を向ける。


 そこにいたのはロヴェルと同じ漆黒に染まった鱗で体が覆われ、蒼の瞳を不満げに吊り上げている小さなドラゴンだ。


 この国で神聖視されている皇帝竜の幼い姿としか思えない見た目をしているドラゴンだ。


 短いしっぽをビタンビタンと不満を表すように地面に叩きつけており、尻尾の動きに合わせて背中についた小さな羽もぴこぴこと動いている。


 そんなドラゴンを軽々と抱き上げた少女は目線を合わせて言った。


 「私はカルマにも感謝しているのよ。だから、静かに待っててくれたら嬉しかったんだけど?」

 「グルルル‥‥‥‥」

  

 少女の言葉にドラゴンーーカルマはシュンとして顔を俯かせる。

 その様子を少女の足元から見ていたロヴェルが好機とばかりにカルマを煽る。


 「シュルルルルッ!」

 「グルァッ!」

 「コラっ。喧嘩しない!」


 少女の腕を飛び降りたカルマとロヴェルが喧嘩を始める。

 少女が静止の声をかけるが2匹は全く聞こうとしない。


 ドタンッバタンッと2匹が暴れるたびに部屋の中の家具が壊れ、床にヒビが入り、壁も崩れていく。

 少女は最初こそ止めようとしていたが、しばらくするとーー


 「私が最初に派手に壊したんだし、今から少し増えても構わないよね。二人ともー。早くやめないと魔法打ち込んじゃうぞー。」


 すでに両方の手に打ち出す直前の魔法を持って2匹の中に入り込んでいった。

 2匹だけでもかなりの壊れ方をしていたが、少女が入っていったことで壊れ方がさらに派手になる。


 そしてもう少しで城の一部が雪崩を起こすように崩れる直前で少女の部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

 「アルシェリーナ・カンル・レイン!お前はどれだけ城を壊せば気が済むーーうおっ!?」


 怒りを滲ませた声を張り上げ、金色の髪と瞳を持つ男が少女の部屋に入ってくる。

 男は少女に詰め寄ろうとするが、少女が放った魔法の流れ弾が自らの顔の目の前を横切ったことで驚き動きを止めてしまう。


 「へ、陛下!?ご無事ですか!?」

 「陛下!」


 動きを止めた男に鎧を着た騎士や立派な口髭を蓄えた大臣など数人が心配そうに駆け寄る。

 側に来た者たちに手をあげて無事を伝え、地面にむけていた視線をゆっくりと少女の方に向ける。


 「アルシェリーナ、今のは忘れよう。だが、お前はどれだけ城を壊せばーー」


 その目に映ったのは自分の部屋に入ってきた者たちに全く気づくことなく、2匹の生き物と共に城を壊し続ける少女の姿だった。

 

 「グルルァ!」

 「やったわねカルマ!お返し。『極光線』」

 「シュルルッ!」


 男は自分に気づくことなく破壊行為に勤しむ少女の姿を見て膝を折った。


 「陛下!?」

 「大丈夫ですか!?」

 「お気を確かに!」


 周りの者に懸命に励まされているこの男。

 ここレイン王国の国王である。

 国王としての威厳など全くないが。


 「も、もう嫌だ‥‥‥。私の娘はどうしてこんな‥‥‥。日常的に城を壊すし、魔王に攫われたと思ったら逆に魔王国を支配してくるし。極め付けは邪神と皇帝竜をペットにするなんて‥‥‥。いったい、誰に似たんだ‥‥‥」


 そして、城を破壊し続ける少女、この国の第一王女アルシェリーナ・カンル・レインの父親である。


 そんな少女の父親がこぼした発言に臣下の者たちは口を揃えて言った。


 「「「王妃様ですね」」」

 「ダヨネ‥‥‥」


 これはいつか訪れる未来の出来事だ。


 


 



 

 

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