第13話 第三回デスゲームスタート

 なんでも、俺を追放したあいつらは、少しの間探索を控えていたらしい。


 連続して二つのパーティが帰ってこない程度の事で、ひよってダンジョンにも行かなくなっていたようだ。


 だが、やっぱり欲深いんだな。そう簡単にやめられるもんでもなかったらしい。


 まんまとダンジョンに入ってきたあいつらは、べフィアの力でおびき出された事にも気づかずに、ダンジョンで探索していた。


「なあ、ここらの魔物たち、しぶとくなってないか?」


「ジンがいなくなって、同士討ちで弱らせることができなくなったからじゃないかしら?」


「んな訳あるか! あんな使い所のない力のせいなんて事、二度と言うなよ! 大魔導師が聞いてあきれるぜ」


「あたしは」


「少し黙ってろ」


「……」


 大魔導師の言葉は、完全な見当違いではないはずだが、リーダーは俺がいなくなり、パーティが弱体化した事実を認めたくはないらしい。


「おーおー。早速荒れてるねぇ」


「統率が取れていないようだな。だが、個々のパフォーマンスが高く、危険は上手く回避している、といった印象だ」


「だろうな。意外と窮地はなんとかなるんだよ。だけど、いつも窮地みたいなもんだから、いつも疲れるんだけどな。ああ、荷物持ちとしてリカバリーするの大変だったなぁ」


 思い返せば、パーティとしてダンジョンを探索してるくせに、ワンマンプレーをしたがり過ぎてた気がする。


 主に、リーダーとされているオオタ・ロウキだな。


 さっきからずっと、大魔導師、コノモト・ダリアの意見を潰す事に躍起になってるみたいだし、そこはひよっても変わらないみたいだ。


 元から、都合の悪い事は聞き入れないタイプだからなぁ。


「絶対にアベじゃねぇ」


「ですが、アベさんが関係ないとなると、いったいどうしてなのでしょうか?」


 素直そうに聖女、ミーネ・フロニスが聞いた。


 その疑問に答えたのはバトルマスターのベルドルフ・ユラーだった。


「単純に、我々が深くまで潜れるようになったのみ」


「それだ! そういうことだ! ちっとばかし、ダンジョンを潜るペースを早め過ぎたかもなあ! あっはっは!」


 ベルドルフの言葉に、ロウキはすっかり機嫌を直した様子。明らかに笑いが増えた。


 安心したのか、これにはミーネもニッコリ。


 ま、全部本物と戦っているという錯覚なんですが。


「もしかしたら、魔物の成長スピードって問題もあるんじゃないの?」


「そうだよそれだよ! それに違いない! ダリアが言うならきっとそうだ。クッソ。そのせいかー。なんか今日はもう疲れたなー」


「無理は良くない」


「そうですね。探索は十分できましたしね」


「確かに、切り上げてもいい頃合いじゃない?」


 奴らは、満場一致で、今日の探索を終える事に決めたらしい。


 早いなぁ。錯覚とは言え、まだ一時間もやってないと思うけど。


「彼らは根気がないのか?」


「久しぶりってのを差し引いて考えても、根気はないなぁ」


「能力が低い者ほど、自らの能力を高く見積もるという訳か」


「違いないねぇ」


「ふぅ」


 そして、帰れたと錯覚するのも早い。


 ダンジョンを掌握し、思うような錯覚を起こせるようになったからか?


 いや、それにしたって、あいつらちょっと幻覚効きすぎじゃないか?


 ま、その方が好都合なんだがな。


「それじゃ、行ってくるわ」


「ああ。頼む」


 スキルの準備は完了。あとはあいつらを巻き込むだけだ。


 母さん、父さん、ユキコ。みんな、見ていてくれ。


「お兄さん、お姉さん」


「ん? なにかな?」


「もしかして、ファンの女の子じゃないの?」


「かわいい! どうされたんですか?」


「ふっ。我々の名も知れた者だな。これも、弛まぬ努力の証」


 帰ってきて、安全なところで女の子に声をかけられる。


 それだけでファンと決めつけ、こいつらは勝手に盛り上がる。


「くくっ。あっはっはっは」


「なんだなんだ?」


「お前ら、本当におめでたい奴らだよなぁ。俺の顔見ても、やっぱりわからねぇみてぇだな」


「なんのことかしら? そういうのが流行ってるの?」


「かわいい! かわいい女の子が汚い言葉遣いしてるなんて。いい!」


「そうだろうか?」


「んなこたどっちでもいいんだよ」


 指を鳴らし、こいつらの錯覚を解いてやる。


 突然、視界が変わった事で、揃いも揃って、鳩が豆鉄砲喰らったみたいな面白い顔でキョロキョロしていた。


「おもしれぇな、その反応」


「な、いつの間に……」


「いつの間に、じゃねぇよ。ここは元からダンジョンなんだよ。お前らはハナっから術中。ダンジョンを出ていないのさ」


「あんた何者? ファンの女の子、じゃなさそうね」


「ファンじゃないの……?」


「警戒すべきだ」


 無闇に突っ込んでこないところは褒めてやるか。


 いかんせん人数が少ないからな、自爆なんてされたら勿体無い。


「何者だ! お前、ただのガキじゃないな?」


「俺か? ああ。違うさ。お前らのよーく知る人物だよ。お前らが、最近追放したばかりのな!」


「まさか、アベだってのか!?」


「ビーンゴォ! だーい正解! お前に飲まされた薬のせいで、こんな姿になっちゃったんだよ。けどまぁ、そう悪い事ばかりじゃない。こうして、デスゲームに巻き込む時に、警戒されずに近づけるからなぁ」


 ありえない。と、驚いた様子だったロウキ達だったが、俺が正体を明かしたところで、すぐに臨戦体制を取っていた。


「ネタバラシしたならここまでだ。『ブレイブ・スラッシュ』!」

「『火炎弾』!」

「『ホーリー・スター』!」

「『武神・聖・正拳突き』!」


「いいな。来いよ」


「おい。なぜ防がない!」


 べフィアが割って入ろうとするが、すぐに鎖で動きを封じた。


「おい。ふざけているのか! 目的を忘れたか!」


「問題ない」


 俺は、全力の攻撃を真正面から受けてやった。


 なんの工夫も小細工もせずに、全ての攻撃を真正面から受けてやった。


 煙い。


「やったか……」


「これで、お前らのスペック確認は済んだな。問題ない」


「嘘、だろ……? ただの荷物持ちのくせに、効いてないだと……?」


「まあな。本来、お前らの実力はその程度って事だ。さあ、実力差は理解したな? 理解しただろ? ってことで、デスゲームを始めようぜぇ?」

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